「ここにも・・」

魔回虫を冷気を帯びた手のひらで握りつぶしてからは呟いた。

オレンジ色の夕焼けが美しい今、盟王学園の校門前では魔回虫がところどころ飛んでいるが見受けられた。

「これは魔界にしかいないはずなのになぜ?」

彼女の胸に一抹の不安がよぎった。

真紅のブレザーの制服姿の彼女が帰宅を急いでいると、奇妙な笛の音が耳に入った。

「変な音・・」

彼女は通学鞄を握り締めて呟いた。

そのまま学校内の自転車置き場に入って、かちゃりと掛け金を外したがなんとなくその笛の音が気になった。
そして、どこへいくあてもなく走り出した。

所変わって、皿屋敷中学校前。

「ここが音源の元・・」

あの汽笛のようなボーっとした音に誘われて自転車をこいでいると

何の変哲もない中学校前にたどり着いた。

「雪村、雪村ぁああ!!」

「キャーッ!!」

だが、そんな感傷に浸る間もなく、校門前では台所用ナイフやカッターナイフを手にした主婦やサラリーマンが女子中学生を追い詰めているのが目に入った。

「あんな女の子一人に寄ってたかって・・いったい何考えてるのよ!」

ぞっとすると同時に怒りがこみあげてきたは次の瞬間、一旦、自転車のブレーキを踏み、氷柱で出来たアラベスク模様の峨嵋刺を

行く手に放り投げると、アイスリンク上のジャンプ台を作って自転車をゆっくりと漕ぎ出した。

目の前には氷山並みのジャンプ台が出来、はペダルをふんでぐんぐん自転車をこぐと

ジャンプ台に飛び乗った。

そして、ふわりと空中に浮き上がると、自転車で凶器を持った人々の前に

勢いよく降り立った。

突如空から降ってわいた自転車の少女に暴徒は驚愕し、一瞬、歩みを止めた。

「これでも食らっときなさい!」

は自転車からさっと飛び降りると、それを暴徒目掛けてぐいと押し出した。

空の自転車は暴徒の中心目掛けて突っ込んでいき、彼らは驚きおののいて左右に避けたり、

空の自転車の前輪をみぞおちに食らって転倒したりした。


峨嵋刺を手に女子中学生が逃げたあたりを走っていると、校舎裏で大絶叫が響き渡った。

栗色の髪の少女がタチの悪い三人組に囲まれている。

「死ね、雪村ぁああ!!」

岩本と呼ばれる大柄な男が両腕を広げる形で少女に襲い掛かろうとした瞬間、

走ってきたは峨嵋刺をシャッと放り投げた。

岩本は校舎の壁に手を突くような形で倒れ、彼女は素早く彼から峨嵋刺を引き抜くと、

バシッ、バシッと他のサラリーマン男性二人の肩や胸を叩いてその動きを止めた。

「大丈夫?早く!」

はおびえきっている女子中学生の腕をつかむと駆け出させた。



それから岩本達の目をくらます為に、近くの茂みに飛び込んだ二人だったが、そこには霊界案内人の女性も潜んでいた。

三人は無言で目配せしあった。

岩本の他にも魔界虫で操られた人間がうろついてるので、うかつにしゃべるのは危険と判断したのだ。

「幽助、こちらぼたん、ぼたん!」

それから、霊界案内人の砂色の髪の女性は通信コンパクトを開くとおもむろに話しかけた。

「ぼたんか?げえっ、何で蛍子までそこにいるんだ?」

丸い手鏡のような画面の向こうからは、幽助と呼ばれる黒髪のリーゼントの男子中学生が応答した。

「あっ、南野君!?それにあなたはこの間、助けてくれた黒い服の人・・」

コンパクトに写ったもう二人の姿を見とめたはあっと叫んだ。

さん!?って、何でそんなところにいるんですか?」

「蔵馬、この女と知り合いか?」

「知り合いも何も同じ学校のクラスメートですよ!」

びっくりしたのは蔵馬や飛影の方だ。

それから霊界案内人は魔界の迷宮城にいる幽助にこの女子中学生が

狙われている経緯について話し出した。

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