「さん、実にお見事でしたよ」
「すげえじゃねえかよ、おめえいったい誰なんだ?」
余裕綽々とリングから帰ってきた覆面とに蔵馬は労いの言葉を、
桑原はその並外れた技量を褒めちぎった。
「後ろだ」
だが、覆面戦士はその賞賛の言葉に照れることもなく、
びしっと桑原の背後を指差した。
「こうなりゃルール無用だ!」
「とにかくこいつらをぶったおせばいいんだからな」
のいうところの品性もへったくれもない妖怪達は、自分たちより遥かに
弱そうな二人が圧倒的な力で勝ったのが気に食わないらしい。
長剣や槍を構え、爪や牙をむき出しにして、桑原、蔵馬、飛影、、覆面達(幽助は特訓疲れで眠り込んでいた)を取り囲んだ。
「ちくしょう!何なんだ、いったいよう・・」
「相変わらず汚い奴らよね・・素直に負けを認められないとは」
「俺の予想どおりの展開だな。まあ、準備運動にもならんが、じっとしているよりはましか」
「同感!」
飛影の提案に桑原を除く四人はいっせいに宙に飛び上がった。
「なめんなよぉ〜!!」
四人から出遅れた桑原は、背後から大柄な妖怪に羽交い絞めにされたが、
豪快な一本背負いで投げ飛ばし、上空から奇襲攻撃をかけてきた妖怪には霊剣で串刺しにしてやっつけた。
覆面は自分よりは五倍ほど大きい妖怪の頭や肩にひょいひょい飛び乗って、
相手を翻弄していた。
飛影は鋭い眼光を光らせ、一人で何人もの妖怪を滅多切りにしていた。
一方、蔵馬と背中合わせに対峙したは、どすどすとすごい勢いで走ってくる
妖怪達を睨みつけていた。
蔵馬の取り出した一輪の薔薇がしなやかな棘つきの長い鞭に変化し、も頭上で峨嵋刺をひゅんひゅん振り回しはじめた。
「風華円舞陣!!」
「六花霙嵐(ろっかみぞれあらし)!!」
次の瞬間、薔薇の花弁が優雅に空を舞い、冷たい矢のような雨や雪の結晶が入り混じった嵐が
襲いかかる輩を切り刻んだり、ブリザードのごとく巻き上げたりしていた。
所変わって、無事、船でのバトルロイヤルを終えた浦飯チームは絶海の孤島、首括り島への
ホテルへと歩みを進めていた。
ガラス張りの自動ドアがサーッと開かれると、そこは別世界だった。
きらびやかな宝石や色鮮やかなドレス、むせ返るような香水の匂い、タキシードで着飾った上流階級の紳士淑女が
集うロビー。頭上にはクリスタルカットのシャンデリアが煌々と輝いていた。
「あれが今回の人間界からの生贄ゲストらしいわよ」
「可愛そうに。まだ坊やとお嬢ちゃんじゃないか・・」
「ま、せいぜい楽しませて貰うとしよう」
予想だにしなかった豪華ホテルに桑原達が度肝を抜かれていると、背後から金髪美女や
老紳士、若手成金の悪意のあるひそひそ話が聞こえてきた。
「腐れ外道め。この大会、絶対に負けてなるもんですか・・」
その胸糞悪い声を耳に挟んだの決意は固くなるばかりだった。
「コーヒーをお持ちしました」
豪華なスイートルームに通されると、早速、灰色の帽子に同色の制服を着込んだボーイがトレイに六人分のカップを載せてやってきた。
ボーイが丁寧に頭を下げて行ってしまうと、桑原は湯気の立つコーヒーに毒でも盛っているのではないかと
しぶったが、蔵馬は「そんなせこい大会じゃないよ」と言ってのけると
カップに手をつけて飲み干した。
「関係者の意図は正式の戦闘で俺達を八つ裂きにすることだ」
いつもは無口な飛影も、何もこの大会のことなど知らぬ桑原やに教えてやっていた。