それから幾月もの月日が流れ、魔界で行われた暗黒武術大会のゲストに
呼ばれるなどの生死をかけたトラブルはあったものの、浦飯幽助達の
霊界探偵としての指令は減っており、ここのところ二人は
また普通の学生生活を送っていた。
「あ〜眠〜」
「な〜んかあのデカイ大会の後からしょっちゅう眠気が襲ってくるよな〜」
「こんな天気のいい日に学校行くなんぞシケるよな」
そう文句を垂れるのは浦飯と桑原の二人の男子中学生だ。
二人とも浦飯の幼馴染の蛍子にこづかれながら歩いていた。
「よーし、このままふけてしまおうぜ!」
「おう、駅前のゲーセンにでも繰り出すとすっか!」
たちまち浦飯の提案に彼は乗った。
「何言ってんのよ!ぎりぎりでやっと進級出来たのはどこの誰だと思ってるの?」
「こんなときこそちゃんと行かなきゃ駄目でしょ!」
だが、そこは抜かりなく幼馴染の彼女が見張っており、通学鞄で浦飯幽助の頭を
どついて注意した。
「わ〜った、わ〜った!相変わらず口うるせえ女だな!」
「な〜んですって?もう一度言ってみなさい!」
幽助が蛍子を避け、仏頂面を引っさげて歩き出した時だった。
「おはよう。浦飯さん、桑原君!」
リンリーンと自転車のベルが鳴ったかと思うと、濡れたような艶やかな黒髪をなびかせて
が通り過ぎていった。
「おおっ、先輩じゃないすか!いや〜今日は実に爽やかな朝ですね。
おはようございます!」
礼儀正しく真っ先に挨拶を返したのは桑原だ。
「おはようさん。お前、相変わらず真面目だな。ちっとは休めよ。身体にがたがくるぜ」
幽助も、自転車のブレーキをかけてわざわざ止まってくれた彼女に一応挨拶を返しといた。
「本音は休みたいけど、私、今度、数学の単位落としたら危ないのよ」
は蛍子の嫉妬と羨望が混じった視線を避けながら幽助に向かって言った。
「というわけであなた達は私みたいにならないよう頑張りなさい。じゃ!」
は真紅のブレザーのスカートでひょいと自転車に跨ると、急いでペダルを
踏んで去っていった。
早くも私立盟王学園では総合テストの結果が掲示板にでかでかと張り出されていた。
「すげー、また南野が一位を独走してるぞ」
「これで何回連続だ!?」
男子生徒達がはやくもその結果にざわついていた。
だが、惜しくも僅差で破れた第二位の生徒は面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「惜しかったな海藤!だが、学年二位だって立派なものだ」
その様子を見ていた担任が励ますように言った。
「気になんかしてませんよ。勉強ばかりの人生なんてつまらないものですから」
海藤と呼ばれるその青年は生意気にもそう言ってのけた。
「それから。お前、どっか調子悪いのか?前回、前々回よりがたりと
順位が下がってるぞ」
「いえ、別に・・次回は頑張ります」
海藤はその女生徒の声にちらりと足を止めて振り返った。
。どこか謎めいた美少女でテストの成績も毎回毎回、
学年50番前後をさ迷うぐらいで決して悪くない。
今は担任に成績が落ちたことを咎められているが、
普段の彼女の出席態度からは想像できないことだ。
「惜しかったね、さん。本当にどうしたんだい?どこか具合でも悪いのかい?」
お世辞にも女生徒にはもてる容姿ではない海藤は、思い切ってうなだれる
彼女に声をかけてみた。
「海藤君まで・・大丈夫だって。それより海藤君こそ惜しかったじゃない。
蔵、あ、南野君と僅差だしね」
「でも、あの人どーやって勉強してるんだか。化け物クラスじゃなきゃ
あんなこと出来ないわよ」
は人差し指を顎にあてがって、蔵馬が聞いたら怒るようなことを言ってのけた。
「南野君、南野君!」
「また南野君が一位だったわよ!」
「やったね!」
「そう、そいつはラッキーだったな」
「もう、南野君てば淡白なんだから。もっと素直に喜べばいいのに!」
「喜んでるさ」
教室では蔵馬が座席で小説を読んでいた。
その横では可愛らしい女生徒二人が彼の成績を褒めちぎっていた。
「いいのよ、南野君。私、南野君のそーゆうクールなところが・・」
蔵馬の目が鋭い光を帯びた。
照れながら告白する女生徒の肩に魔界虫が止まっているではないか。
こちらではバチンと甲高い音が廊下に響いた。
「なに・・してるんですか?」
「あ、えと、大きな蚊がこっちに来ようとしてたから・・」
海藤は目をぱちくりさせていた。
生徒手帳で飛んできた魔界虫を叩き落してから、は相当苦しい言い訳をしていた。
(これは魔界虫・・なぜ人間界に?)
教室では素早い動きで女生徒の肩に止まっていた虫をむしりとった
蔵馬が首を傾げていた。