この沈黙を破ったのは昼間助けを求めに来た少年だった。

少年は「お姉ちゃん達が妖怪に捕まったよ!早く助けに行って」と

知らせてきた。

それを聞いたサスケとはとても驚き、は「すぐに助けに行きましょう」

と言ったが、彼は二の足を踏んだ。

それを聞いた少年は「お兄ちゃんは、仲間を見殺しにするのかよ?」と信じられない面持ちで叫んだ。

「馬鹿野郎!俺とこのお姉ちゃんはわざと二人だけ残ったんだ。皆一緒に行って捕まったら
 
 後で手も足も出なくなるからな」

サスケはタバコをシガレットケースにしまうと、急に真剣な面持ちでそう告げた。

「何だ、そう言うことだったの・・ならもっと早く言ってくれれば・・」

その言葉には胸をなでおろし、少年も彼の胸中をよく理解することが出来た。

「でも、二人じゃ太刀打ち出来ないよ。相手はめちゃくちゃ強いし」

そして、その少年は警察署に捕われている父親を思って泣いた。

「心配するなって。この俺とこっちのお姉ちゃんがお前の親父さんを助けてやる。

 ついでに俺の仲間もな」

サスケの目が鋭い眼光を帯びた。


翌朝、は猫丸を運転しているサスケの隣にちょこんと腰掛け、さびれた工場が立ち並ぶ敵のアジトに向かっていた。

「君、って言ったよな?」

ハンドルを握りながら今まであまり喋らなかったサスケが口を開いた。

「これから俺達は、変装してこっそり忍び込み、仲間とこの子の父親を助け出す」

「あなたは・・もしかして、忍びの衆のリーダーなの?」

はふと疑問に思ったことを口にしてみた。

「いや、リーダーは今、捕まってる女の子の鶴姫だ。彼女が俺達四人を招集した」

「よし、ついたぞ。坊主はここで待ってな。何があっても出てくるんじゃねえぞ」

江戸っ子口調のサスケはブレーキを踏み、目星をつけた工場の一角に猫丸を止めた。

猫丸から砂埃を蹴立てて飛び降りたサスケとは、割れた窓ガラスが

散乱している物陰にさっと走りこんだ。


「後は打ち合わせ通りだ」

サスケは一言短く呟くと、人差し指と左腕を組み合わせ、高く突き上げると

ハエに化けた。

も同じく忍法を用いて蛾に化けた。


そして、彼らはまんまと敵のアジトに潜入することに成功した。

小豆洗いが牛耳るアジトは赤や青の煙が立ち上るディスコのような場所で、

たった一つ言えば、踊っていたり飲み食いしているのは妖怪たちだということぐらいだった。


ハエに変化したサスケはそこからさらに厚化粧に派手な衣装の赤鬼の妖怪に変身し、

蛾に変化したも暗緑色の遊女風の小袖をまとった飛縁魔に変身を遂げた。


彼らはそのままお立ち台で踊るベリーダンサーの横をすり抜けて、四角い柱にぐるぐる巻きに

されていた四人の忍びの衆にさりげなく近づいた。


案の定、妙にオカマ臭い赤鬼の妖怪に触れられたセイカイは泣きそうになり、

サイゾウといえば、反対側から来た菩薩のような美しいが、夜叉の心を持つ飛縁魔に微笑みかけられて

きょとんとしていたが、「お前の血と精気を吸い尽くしてやるぞ」と牙を見せ付けられて

心底震え上がっていた。


「冗談だってば、私よ」

首筋まで牙を突きつけられてじたばたしていたサイゾウに、はそっと囁いた。

「その声は、?」

冷や汗しかりで焦っていたサイゾウははっとして聞き返した。

彼女は彼の首筋から牙を放すと小さく頷いた。

「早く、早く縄を解いてくれ!」

セイカイがひそひそと囁いたので、サスケとはサイゾウ、鶴姫がぐるぐる巻きにされている

四角い柱の背後に回り、ロープの結び目を懸命に解き始めた。


そこまでは上手くいったのだが、途中で見慣れない人間臭がすると怪しんだ

小豆洗いに呼び止められてしまった。


サスケは妙にオカマ臭い口調と英語を用いて「私はハワイ出身の妖怪でサルトンボと言います」

同じように疑いをかけられたも「私は日本出身の妖怪で飛縁魔よ」

と言い逃れようとしたが、さすがに警官に成りすます才覚がある小豆洗いはごまかせず、

「そんな妖怪いるか!」と逆切れされる始末だった。


サスケは、カッとなった小豆洗いが繰り出した右フックを素早くつかむともう片方の手で叩き落して

横っ面を張り飛ばした。


「サスケともう一人の仲間だな!貴様、いったい誰だ?」

小テーブルの上に吹っ飛ばされて、よろよろと起き上がった小豆洗いはくやしそうに呻いた。

よ。忍びの衆の六人目の仲間」

「ヘッ、ばれちゃあ仕方ねえな」

粋な江戸っ子口調でばさりと被り物を取り払ったサスケと

あっという間に普段のジーンズや制服に衣替えしていた。


それから小豆洗いは取っておきの奥の手として、あらかじめ捕らえていた

少年の父親を盾にしておとなしくするようにせまったが、突如、開け放たれた

ドアから乱入した少年が体当たりしたおかげで最下級妖怪ともどももんどりうって転んだ。



「野郎ども、やっちまえ!」

堪忍袋の尾がきれた小豆洗いは周囲に群がる妖怪たちに命じた。

印籠で戦闘衣姿に変化した達はこうなれば手加減しない。

は近くにいた最下級妖怪の手を釣り込んで、背中を蹴っ飛ばすと

後ろでうろうろしていた白うねり目掛けてぶっつけた。

ジライヤは奥のカウンターテーブルに駆け上がって、手裏剣をお見舞いし、

サイゾウは三人の最下級妖怪を二刀流の逆手切りでやっつけ、セイカイ、サスケは豪快に忍刀を振るって

妖怪衆を蹴散らしていた。


一方、は混乱に応じて逃げようとした警察署長とその息子を追う最下級妖怪を

忍刀(しのびがたな)を振るい、逆手切りにしてやっつけると、彼女は警察署長とその息子を庇うように立ちはだかった

鶴姫に寄り添って頷いた。

鶴姫はすかさず、ベルトに差し込んでいた光線銃を抜くと

向かってこようとした泥田坊と白うねり目掛けてぶっ放した。





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