人を阻むあやかしの森はどこまでも深い。
サスケ、ジライヤに遅れをとらぬように走るのはだ。
急にサスケが上方を見上げて立ち止まった。
ジライヤも不穏な空気に気づき、さっと右足を引くと戦闘の構えを取った。
案の定、左右の樹木の上あたりからひゅっひゅっと手裏剣が飛んできて
サスケ、ジライヤ、の左胸あたりに突き刺さった。
三人は左胸に突き刺さった手裏剣を抑えてことごとくくず折れて
倒れた。
すかさず、木上や隠れていた藪からくノ一が飛んできて、三人が身に着けていた衣服だけ
残して消えたことに気づいた。
「抜け身の術だわ!」
アヤメ、サクラは三人の衣類を手にして言った。
衣類に気を取られていたランがはっとして後ろを振り返ったとき、堆積した枯葉の中に隠れていた
サスケ、ジライヤ、が勢いよく飛び出した。
黒や暗緑色の忍び装束に一瞬で衣替えした彼らは背中に立てかけた
忍刀を抜くと走り出した。
こうなれば五人のくノ一も負けていない。
堆積した枯葉を蹴散らし、あっという間に戦闘衣に変化した。
花の紋章が施された青い戦闘衣のアヤメは高く飛び上がって、まずはジライヤに切りかかった。
次は紫色の戦闘衣のランが横から乱入してきた。
サスケは深緑色の戦闘衣のスイレンとオレンジ色の戦闘衣のユリに上から
押さえ込まれるように切りかかられていた。
「やられんなよ、ジライヤ、!」
サスケは一瞬、あせったが、二人の女の刀を見事はじき返しながら仲間に伝えた。
は忍刀を逆手に構えたまま枯葉を蹴散らして走っていき、ピンク色の戦闘衣のサクラに
ぶつかっていった。
「やあっ!」「はっ!」と二人のくノ一のかけ声と忍刀のぶつかりあう音、
その横をスイレンに二度足蹴りを食らったサスケが転がってきた。
ジライヤはクヌギの樹上高く飛び上がり、そこから力強い飛び斬りをかけたが、
アヤメとランが協力して彼の忍刀の攻撃を受け止めた上、強力な二段キックをお見舞いした為
あえなく吹っ飛ばされてしまった。
サクラと一歩も譲れぬ接戦を繰り広げていると、クヌギの樹上高くから何者かが
飛翔した。
途端には「ううっ!」と呻き、右肩を抑えてしゃがみこんだ。
突如、電気が走るような痛みに襲われたのだ。
「やっぱり、私が出て行かないとだめみたいね」
肩の痛みの元はミラの放った乗馬用鞭で、彼女はにんまりとして傷ついた実の娘を見下ろした。
は忍刀を油断なく構えたまま、仲間のところへ一旦走って引き下がった。
すかさず、見事なフォーメーションで五人のくノ一達がサスケ、ジライヤ、達を
円陣に取り囲んだ。
アヤメはつかつかと三人に近づいていくと、迷いの霧を手から繰り出した。
サスケ、ジライヤ、は絶対にはぐれまいと必死で手で深い霧を払ったが、
気づいたときにはサスケ、だけがその場に取り残されていた。
「サスケ!」
「ジライヤ!」
「!」
昼間でも薄暗い広葉樹の森にはなればなれになった三人の叫び声と
それをあざ笑うかのようにくノ一、ミラの声がこだました。
しつこくまとわりつく迷いの霧を払いつつ、サスケとともに必死で駆けてきた
は息を呑んだ。
目線の先には、すでに酒天童子兄弟に何度も何度も切りつけられているジライヤ。
「ジライヤ!!」
「やめて〜!!」
サスケはぎょっとし、は絶叫した。
彼は高くジャンプして、印籠で戦闘衣に変化してジライヤを助けに行こうとしたが、
背後から高くジャンプして追ってきたくノ一二人に、首に刀を挟まれて叩き落されてしまった。
「ああっ、ジライヤ・・」
無様に枯葉の積もった地面に落下したサスケは、あえぎながら立ち上がった。
「サスケ!」
は悲鳴を上げて彼に駆け寄った。そして、美しい唇をきりりとかみしめ、もう迷わずに印籠を目の前に突き出して
戦闘衣に変化した。
五人のくノ一は殺意をみなぎらせて、飢えた獣のごとく忍刀を構えて
二人に襲いかかった。
勇ましく敵を迎え撃った二人だが、サスケはラン、ユリ、サクラに順々に切りつけられ、
もスイレン、アヤメに切り付けられて防ぐことすら出来ぬ有様だった。
とうとう酒天童子兄弟と刀を交えていたジライヤが倒れた。
サスケは斜めから向かってきたサクラの刀を横に弾き飛ばしながら
ジライヤの名を呼んだ。
「逃げろ。逃げろサスケ、を連れて逃げるんだ・・」
「二人では無理だ・・」
「早く逃げるんだ!」
酒天童子に冷たく黒い長剣を突きつけられ、顔面を蹴られながらもジライヤは
懸命に戦う仲間の身を案じて叫んだ。
ユリの右腕をつかんで動けないようにしながら、乱れ飛んで襲いかかる
他のくノ一達の刀を弾き飛ばしていたサスケは耳を疑った。
「ジライヤ!嘘だろ!?」
サスケは信じられない面持ちで叫んだ。
「ほらほら、どうしたどうした、もう終わりかい?」
「ううっ!あうっ・・」
「〜!!」
サスケは必死でくノ一組と戦いながら、はっと後ろを振り返った。
そこには乗馬用鞭の攻撃をしたたか受けて、黒く長い鞭で首を締め上げられ、クヌギの木に押し付けられてあえぐ
緑の戦闘衣の彼女がいた。
「フン、この娘もしょせんこの程度かい?」
「たわいのない・・」
悶絶するような痛みと苦しみで気を失い、ずるずるとクヌギの根元に崩れ落ちたを
サスケは気が狂わんばかりに見守るしかなかった。
そんな彼女をの母親は冷酷にも見くだして突っ立っていた。
「許してくれ、ジライヤ、!!」
サスケは後ろ髪をひかれる思いで、さっと身を翻して駆け出した。
「忍びの衆もこれで終わりか・・ずいぶん短かったようね」
先を争うように駆けて行くくノ一組の後姿を見送りながらの母親は
皮肉めいて呟いた。
だが、の母親はここでとんでもないへまをやらかした。
ほんの一瞬、娘から目を離したのがあだとなり、クヌギの根元で気を失っていた
と思われた娘が忽然と消えていたのである。
一方、サスケは、さらさらと流れる川にかかるつり橋のたもとまで逃げ延びたのはいいが、前と後ろを
乱れ飛んできたくノ一組に挟み撃ちにされてしまった。
とうとう獲物を追い詰めたくノ一組は恐ろしい牙を剥いた。
全員両手を組み合わせ、そこから「忍法、花嵐」を繰り出したのだ。
つり橋の真ん中にいた手負いのサスケにはもはや逃げる術はない。
見事、彼女たちの巻き起こした美しい花嵐の餌食になり、衝撃で吹き飛ばされ、橋のたもとから
大爆発を起こして落ちていった。