灰色の石畳に大きな階段が並ぶ広場のクレープ屋も閉店時間に近づいていた。
それなのに、真っ白なプラスチック製テーブルに腰掛けた彼女はどことなく寂しそうだった。
猫丸の中で、クレープを作った後の片付けをしていたジライヤにはそれが痛いほど分かった。
オフホワイトのドレープのシャツにモカブラウンのチュニックドレスをまとった
龍姫はテーブルに片肘をつき、行き方知れずの両親のことを反芻していたのだ。
「あ、雨だ、雨降ってきたわよ、いやあね~」
そういってアーチ型の優雅な建物の向こうから、買出しにいっていた鶴姫が走ってきて叫んだ。
「げっ!九尾の狐はもういねーのにか?」
同じく買出しにいっていたサスケまでもがうめいた。
九尾の狐とはつい昨日、龍姫が倒した老婆に化けて子供を誘拐していた
妖怪のことで危うく鶴姫も誘拐され、大魔王への貢物にされるところだったのだ。
「あれ、龍姫は?」
ちょうどテーブルと椅子を手際よく片付けて、猫丸に積み込んでいたサイゾウが
くるりと首を傾けて、猫丸へのステップ段を上ろうとするのをやめて言った。
「あ~あ、あんなところにいたら風邪ひくじゃない!」
妙にオカマ臭い言葉で、目的の女の子を見つけたサイゾウは素っ頓狂な声をあげた。
「僕が行ってくるネ!」
あたふたとステップ段を降りようとしたサイゾウを、ジライヤはさっと引き止めて
駆け出そうとした。
「あ!じゃあ、これ持っていってあげなよ。龍姫濡れてるから」
サイゾウは、手際よく猫丸の入り口内に立てかけてある深緑色の傘を放ってよこすと
にっと笑った。
ジライヤは「Thank you!」とカッコいいアメリカ英語で礼を言い、
パタパタと駆けていった。
「龍姫、ナニシテル?こんなとこいたら風邪引くネ」
両親が突然いなくなった日もこんな雨の日だったなと思いをはせていると
目の前に優しく深緑色の傘が差しかけられた。
「あ、ありがとう、ジライヤ・・」
そのたどたどしいアメリカなまりの日本語に、肩肘をついて物思いにふけっていた龍姫ははたと気づいて
仙女のような柔和な笑顔を浮かべた。
女の子の扱いに慣れているサイゾウなら、こんな格好の場面を逃さず、
キザな台詞の一つや二つを吐いて、傘を差しかけてやれるのだが、武者修行一筋に
励んできた無骨なジライヤにはなかなか出来かねぬ相談だった。
彼は彼女のこげ茶色のほつれ髪から雨のしずくが落ちるのを見とれていたが、その頬に
九尾の狐の尻尾につけられた赤い醜い傷があるのも見てとった。
あの戦いの後、「もう~女の子なんだから顔に傷なんかつけたらだめ~!」と
サイゾウが手当てしてくれたのだが、昨日の今日なのでまだその傷は生々しく残っていた。
「あ、アノ~」
「え、何?」
(ああ、「鶴姫が好きだ~!」とお気楽者のセイカイのように大声で告白出来ればどんなにいいか)
(ここで英語でも日本語でもカッコよく告白出来ればどんなにいいか)
ジライヤが真剣に頭を悩ませている時、猫丸では――
「うっそ・・あの二人、何か雰囲気おかしくない?」
「へぇ~ジライヤもやるなぁ・・」
「うわ、結構いい感じじゃん!!」
こちらはこちらで猫丸のカウンターでにやにや頬杖をつきながら鶴姫、サスケ、セイカイ達は
この羨ましい光景を見物していた。
「あれ、雨が・・」
ドザーッと滝のように降っていた雨はどうやらお天気雨だったらしい。
分厚い積乱雲の影から無事にお日様が顔を覗かせていた。
「コーン!」
結局、ジライヤは重要なことを伝えられなかった。
彼はこの気まずい場を切り抜けようと、両腕と両足を組み合わせて狐の真似をやったのだった。
「コーン、コーン!」
そして、くるり、くるりとその変なポーズのまま、龍姫の周りを飛び跳ね始めたのだ。
「ジライヤ~ahaha!!what are you doing!?」
案の定、龍姫は舌触りが滑らかなイギリス英語で噴出してしまい、手を叩いて笑い崩れた。
「ねえ、ちょっと・・あれがやりたかっただけなの?」
「アホらし、見て損した・・」
「サイゾウ、飯にしよ~腹減った~!」
鶴姫、サスケ、セイカイはそのままずるずるとカウンターにずっこけ、サイゾウは一人、ほっと胸をなでおろしていた。
龍姫に妙な狐が取り付いちゃったか・・サイゾウはカウンターを台拭きでせっせと磨きながらそう思った。
ジライヤの「コ~ン!」が妙にツボッて書きたくなったお話。
実際は猫丸の上でしてて皆にあきれられてましたね^^
九尾の狐の呪いにでもかかったんでしょうか(笑)うははは~
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