「誰?」
は不穏な気配を感じて身構えた。
石段を降りていたサスケもあきらかに不穏な気配を察知したらしく、ぴたりと歩みを止めた。
その不安は的中し、ツツジの咲き乱れる茂みからぱっと一本の長戟が飛んできた。
サスケは優れた反射神経でそれをキャッチすると、お返しとばかりに
ツツジの茂みめがけて投げ返した。
「何者だ、貴様!」
サスケは戦闘の構えを取って威勢良く吼えた。
「俺は天邪鬼。お前、痛い目に会いたくなければそこの娘を置いて行け!」
「はい?何ですって?」
「ふざけるな!!」
いきなりぶっそうなものを投げつけておいて、さらさら悪びれる様子のない妖怪に
はあきれ返り、その態度にはなはだ我慢ならぬサスケはぶち切れた。
を庇うように勇ましく立ちはだかったサスケの前で爆弾が炸裂し、彼は
硝煙に紛れて戦闘衣に変化した。
彼は、前転で硝煙の中を突破し、起き上がりざまに大型十字手裏剣を投げつけた。
天邪鬼は向かってきた手裏剣を長戟で難なく叩き落した。
そして、忌々しげに舌打ちすると、妖術で姿くらまししてずらかってしまった。
サスケはあっけなく退散した天邪鬼を不審に思い、思い出したように寺へと急いだ。
「待ってよ!」
変化を解いて普段の夏服に衣替えしたサスケを追って、がようやく追いついた。
「いったいどうしたの?」
「俺の考えが正しければ奴は・・」
サスケは朱塗りの本堂の階段をひとっとびで駆け上がると中に飛び込んだ。
日の射さないお堂の中は昼間でも薄暗く、せっかくの立派な毘沙門天の銅像も見えにくかった。
サスケは衝かれたように毘沙門天の足元を見やった。
そこにはあるべきはずの踏みつけにされた天邪鬼の像がなく、毘沙門天の捧げ持つ宝棒が三センチほど動かされていた。
「おかしい・・肝心の天邪鬼がいねえ」
サスケはぎゅっと眉根を寄せて呟いた。
「奴の銅像が消えたってことは・・誰だ!?」
「あなたは・・」
先ほどから気を張り詰めていたサスケは、銅像の背後でこそこそしている影に向かって脅すように言った。
は、きまり悪そうに燭台の影から姿を現した小僧っ子に驚いていた。
「何だ、コスケか・・」
たちまちサスケの表情が緩む。
この従弟はありったけの勇気を振り絞って、二人に事の真相を話してくれた。
彼は改心すると懇願する天邪鬼を可愛そうに思い、毘沙門天の宝棒をどけてやり、彼を自由の身にしてやったことを
告白した。
その瞬間、彼の優しい形相は鬼のように変化し、自分を嘲笑った愚かな人間どもをたっぷり
いたぶってやることをほのめかし、封印を解いた小僧っ子には自分のことを誰にも言わぬよう口止めしたらしい。
「だから誰にも相談できずに、俺をこの山寺に呼んだんだな?」
サスケは勇気を出して話してくれた小僧っ子の頭を労うようになでた。
「それからこれ・・」
コスケはおずおずと、お寺に伝わる古い巻物を懐から取り出して見せた。
「この絵がどうかしたのか?」
コスケから巻物を受け取って、紐解いたサスケは軽く尋ねた。
「あいつは、この女の人をずっと探してるって言ってた」
巻物はかなりの年代もので、そこには艶やかな黒髪を垂らした若草色の着物の女人の姿が描かれていた。
「瓜姫・・」
二人の後ろから、何気なく巻物を覗き込んだは感慨深そうに呟いた。
「その昔、妖怪、天邪鬼は一人の美しい機織娘に恋をした。だけど、その機織娘には殿様との縁談が持ち上がっていて
思うようにはいかなかった。婚礼の日が迫るさなか、天邪鬼は強引にその機織娘を連れ去った。
結局、天邪鬼は追いかけてきた娘の両親にめった切りにされ、殺されてしまった」
「この絵はね、そういういわくつきのものなの。だけど、瓜姫はとっくの昔に死んじゃってるのに探すってどうやって?」
「ねえ、とんだ取り越し苦労だと思わない?」
東北地方に伝わる民話を話し終えたは、いささか苦笑しながら隣のコスケに話を振った。
「まさか・・」
(奴は既にに狙いをつけたってことか?)
サスケは、嫌な予感がしてと古ぼけた巻物に描かれた美しい女人の姿を見比べながら反芻した。