「ここはひとまず逃げよう」とのサイゾウの後ろ髪を引かれる思いを

汲み取って一緒に逃げてきた龍姫は、猫丸で待機中の彼の友人達とばったりでくわしてしまった。

「何だって?じゃお前、セイカイ見捨ててこの娘と逃げてきたって言うのかよ!」

「お前、それでも友達かよ!?」

「いや・・だって・・それは・・」

案の定、開口一番、仲間を見捨てて逃げてきたサイゾウへサスケの雷が落ちた。

「Oh,You know! コノマエ、MeをHelpしてくれた人!」

「あ~っ、だからどっかで見た事のある顔だなと思ったのよ!」

「え、じゃ鶴姫の言ってた六人目の仲間って君?」

「しかもさっきは走っててわかんなかったけど、ずいぶん前にタチの悪い奴らにからまれてたのを

 俺とサスケが助けた時の娘じゃないの!」

「な~んだ、あんた達知り合いなんだ!」

サイゾウを責めるのをそっちのけで、ジライヤ、鶴姫、サスケ達は聖北学院の制服を着た女子高生を

見て口々に叫んだ。

ところで、ジライヤの言うコノマエとは、一人抜け駆けして小豆洗いから巻物を奪い返そうとしたが

返り討ちに会い、鉄製の檻に閉じ込められてしまったところを

天の羽衣とともにさっそうと現れた龍姫に助けられた時のことだった。

彼女は女牛若丸よろしく、欄干ならず、採石場を飛び回って朧車の攻撃を

交わし、隙を見て、持っていた天の羽衣を宙吊りの鉄製の檻にひっかぶせると

捕われていたジライヤを安全な場所まで瞬間移動させて助け出したのだった。

そして、その鮮やかな手口にあっけにとられていたジライヤや友人達を尻目に

小豆洗いに奪われた家伝の巻物を取り返し、天の羽衣とともにその場から姿を消したのだった。

「この前は、巻き物だけ持ってトンズラしてゴメンナサイ」

「理由は後で話します。とりあえず、あの捕まった友達を警察から取り返すのを手伝わせて」

リーダー格である鶴姫やサスケに頭を下げると、龍姫は申し訳ない気持ち一杯で頼み込んだ。


「俺が警察に直談判してやる!」と息巻いて飛鳥警察暑前まで猫丸で乗り付けたサスケは

さっきの威勢もどこへやら尻込みしていた。

「ちょっと、早く行きなさいよ」

「いや、あは・・俺、どーも警察は苦手でさ」

「サイゾウ、お、お前、行けよ!」

「俺も警察はちょっと・・」

「ジライヤ、頼む」

「Oh!Me? I can't speak Japanese」

「私は駄目よ。あの巡査に顔覚えられてるんだから」

(妖怪退治してた人達が何で警察ごときで尻込みするのか)と不思議そうに

龍姫が思っていると通りがかった少年が助けを求めてきた。

猫丸のバス内で泣きじゃくる少年は「自分の父親は警察署長で

妖怪に警察署を乗っ取られそうになっていると知らせてきた。それからすぐに家に帰ってこなくなった」

龍姫達に話した。


「その男は間違いなく小豆洗いだ」と敵の妖怪と一番面識のあるジライヤが

言ったのと二階の留置場の窓を開けて「助けて~!」と悲鳴を上げるセイカイの

声が振ってきたのはほぼ同時だった。

龍姫達がバスから走り出て見ると、留置場の鉄格子の窓から顔を出したセイカイを

ひっこめ、高らかに笑う太った巡査の姿があった。

忍びの衆のリーダー格、鶴姫は暗くなるのを見計らってセイカイを助け出すべきだと

提案し、そうだそうだとサイゾウ、ジライヤも続いた。

「ちょっと待て、俺は嫌だね。こいつはどう見ても妖怪の罠だ」

「セイカイをダシに俺達をおびき寄せて始末する気に違いない」

冷静沈着な一番年嵩のサスケが反対した。

「じゃ、何かいい方法があるっていうの?」

「そんなこと知らねえよ・・」

「呆れた!それでも友達?チームワークが大事だと言ったのはサスケじゃない?」

「もういいわ。サスケには頼まない。私達だけでやりましょう!」

つんけんした鶴姫はジライヤ、サイゾウを引き連れてすたすたと行ってしまい

「あ、ちょっと待ってよ!」と血気盛んな三人を慌てて引きとめようとした龍姫は

後ろからサスケにぐいっと腕をつかまれた。

「痛っ!」

いきなり制服のブレザーの袖をつかまれた龍姫は、ムッとして振り返ったが、

サスケは「ここに残ってくれ」となにやら意味ありげに目配せしてきた。



猫丸の移動クレープ屋がある広場は暗くなると、高層ビルからの何千ものライトが散りばめられた夜景スポットに変わる。

トルコ石色にライトアップされたブリッジから吹いてくる潮風が、龍姫のこげ茶色に波打つ長い髪を乱れさせた。

サスケは口にタバコをくわえたまま何も喋らない。

二人とも欄干にもたれかかったまま、じっと遠くを見つめていた。

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