夜の歌



このところ、夜毎ファラオは手に入れた黄金の小鳥の歌を聴きに通っている。
・・・・・と、テーベの街では専らの噂だ。
直々に手に入れた小鳥は人語を喋り、美しい姿でファラオの心を絡め取ると。
勿論それは例えだ。
世の中のどんな女にも心を動かされることなど無かったファラオの心を奪った少女に対する、憧れとやっかみと好奇心。
現実はそんな甘いものではなかったが。





「・さて、今夜はどんな話だ?」
「・・・・・メンフィス、もう夜も遅いし私は眠いの。いい加減にしてくれないかしら。」
「構わぬ。何ならいつかのように添い寝をしてやろうか?」
途端にキャロルが耳まで赤くなる。
ファラオが、気に入った女を傍に置くだけで何もしないと知ったら、王宮の者達は皆腰を抜かすだろう。
無論、初めてファラオがキャロルの部屋に来たときは、彼女は悲鳴を上げた。
ところがファラオはさっさと寝台に横になると彼女の手を掴んで横に座らせ、
取りとめも無い話をさせて、飽きるとやはりさっさと帰った。
緊張のあまりろくに喋れなかったキャロルは、ファラオの姿が扉の向こうに消えるなり、
安堵の息を吐いてそのままへたり込んでしまった。
それ以来、ずっと続いている習慣なのだ。
最近ではキャロルも慣れて来て文句を言って見たりもするが、柳に風と受け流されてしまう。





「・・・・・で、何の話をすれば良いの?」
「何でも良い。お前の声が聴きたいのだ。」
「・・・・・そんなことを言われても・・・・・」
そのとき、扉の前がざわついた。
何事かと耳を済ませる二人に、扉の向こうから声が掛けられる。
「失礼致します、ファラオ。女王アイシス様より、すぐおいで下さる様にとのお言葉で御座います。」
ほっとしたキャロルが促したが、ファラオは横になったまま
「今は取り込んでいる。手が放せぬ故明日にするよう伝えよ。」
「メンフィス!」
「姉上の用件は大体想像がつく。またぞろ心配の虫が騒いでいるのであろう。」
苛立ったように見えたのは気のせいだろう。
「それよりお前だ。」
「?」
姉上は、自分以外の女が私の側にいるだけで我慢ならぬらしい。女とは、皆そのようなものなのか?」
「当たり前でしょう。誰だって好きな人の側に他の人が居たら面白くないわ。」
「私が女を知ったのは十二のときだったか。次代に王位を継ぐ者として当然の義務だった。
 その頃から、女は世継ぎのためだけにあったな。美しいなぞ、どうでも良かった。」
思わず、持っていた香草茶の杯を落としそうになった。
「それってその人に対して失礼なんじゃないの?大体、どうしてそんなことを私の前で喋るのよ。」
「正妃は姉上と周りが決めたのだぞ。側室や側女も同じだ。そんなものに失礼も何もあったものではない。」
それはつまり、どういうことなのだろう。




ふと黙り込んだ二人の間に、静けさが翼を広げて降りてくる。
「失礼致します、ファラオ。女王アイシス様、只今よりこちらへお越しになるとのお言葉で御座います。」
起き上がったメンフィスはキャロルに顔を寄せて囁いた。
「・・・・・愛している・・・」





そのまま触れるか触れないかの優しい接吻を少女の唇に落とし、
振り返らずに帰っていった。





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