「距離」

婚儀を迎えた日より、キャロルはほとんど24時間といっていい程に、

メンフィスと常に一緒に過ごす事が多くなった。

一緒に過ごすというよりも、メンフィスが傍から離してくれないのである。

夜はもちろん同じ寝台の、メンフィスの腕の中。

はじめての時は過ぎたので、別に不快感がある訳ではないが、まだまだ恥ずかしくて仕方がない。

「愛している。」

もうこの言葉が、朝も昼も夜の挨拶かと思う位に囁かれながら、

朝もメンフィスの腕の中で、朝のキスで目覚めるのである。

起きている時間は、常にメンフィスと共に食事をし、協議や宴に参加する。

しかもその間も、常にメンフィスに半分抱かれるように、肩や腰にメンフィスの腕が回され、

メンフィスと距離が離れている事がないのである。

さすがに、宴の仕度に、自室に戻った時に恥ずかしさもあり、ナフテラに思いのたけをぶちまけたのであった。

「もう!メンフィスってば、ずーっと私を離してくれないのよ。

 特に協議の間では、皆からの視線が集まって、恥ずかしくて仕方ないわ。」

「まあ、仕方ありませんわ。王妃様はファラオにとっては、大切な方ですから。」

ナフテラは、可笑しそうに、そして嬉しそうにキャロルに返事をする。

「でもね、顔が真っ赤になる位に恥ずかしいのよ。」

「ですが、ファラオが、あの協議の間の椅子を作らせたのですよ。」

「えー!あれって、わざわざメンフィスが作らせの?」

キャロルの驚きに、ナフテラは不思議な顔をしながら、答えた。

「ご存知なかったのですか?

 他国の使者と逢う謁見の間では、さすがに無理ですので、ファラオと王妃の玉座は別になっておりますが、

 協議は、国内の者だけですし、ずっと一緒にいられるようにと、作らせたのですよ。」

「私には、エジプトを二人で守るのだから、共に座るのだって言っただけよ。

 知っていたら、あんな椅子を作らせなかったわ。」

キャロルはそう言いながら、ファラオと王妃が並んで腰掛けられる、協議の間の椅子を思い出していた。

「まあ、そんなにあの椅子が気に入りませんか?

 ずっとキャロル様と一緒にいられる様にと・・・・。

そして、一緒にエジプトを守っていける様にとの願いを込められておられたのですよ。」

「そうだったの。メンフィスが・・・・。でも、ずっと抱かれるみたいにして、いるのは嫌なの。」

ナフテラの言葉に、嬉しそうに言いながらも、キャロルはやはり恥ずかしさから、文句を言ってしまう。

その様子を見ながら、ナフテラは嬉しそうな表情のまま、キャロルにそっと告げてみた。

「では、その思いをファオラに正直に告げられたらいかがですか?

 キャロル様がどの様にされたいのか、正直に告げられたら、

 いかにメンフィス様だとて、全部ではないにしても、その望みを聞いて下さいますでしょう。」

「全部は無理よね、やっぱり。」

「ファラオの性格ですから。」

キャロルの返事に、困った表情を浮かべつつ微笑みながら、ナフテラは答えた。



そして夜の宴の直前、キャロルはいつもならメンフィスが迎えにくるのを待っているのだが、

今夜は反対に、隣の室のメンフィスを迎えに行った。

「珍しいな、そなたの方からやってくるとは。」

笑みを浮かべながら、楽しそうにメンフィスが聞いてくる。

「あのね、メンフィスにお願いがあって、ちょっとだけ二人きりになって話がしたかったの。」

そう言うとキャロルは、まっすぐにメンフィスの顔を見上げた。

「そなたから、願い事とは珍しいな?何か欲しい物でもあるのか?」

嬉しそうにそう言うと、キャロルの顔を見ながら、抱きしめた。

「あのね、メンフィス。こやって二人きりの時は、いつもメンフィスに抱きしめていて欲しいわ。

 でもね・・あの皆の前に出る時には、肩を抱かれるようにするんじゃなくて、

 手を繋いだり、腕を組んで一緒に歩いたり、いたりしたいの。

 離れたいからじゃなくて、恥ずかしいから・・・。お願い?だめかしら?」

キャロルは真っ赤になりながら、それだけ告げると、メンフィスの胸に顔を埋めて、返事を待った。

「なんだ、そんな事でよいのか?」

「えっ?そんな事って。メンフィス怒らないの?」

あっさりとしたメンフィスの返事に、キャロルは慌てて顔をあげた。

上から、メンフィスの優しい笑顔が、自分を見下ろしている。

「抱き寄せる度に、そなたが緊張しておったのでな。そのうち何か言ってくるであろうと思っておった。」

「そんな、メンフィス気がついていたの?それならそう言ってくれたらいいのに。」

そんなキャロルの反応に、メンフィスはますます笑顔になり、

「我らは新婚ぞ。誰に遠慮する必要がある?それに愛しいそなたを、何故離さなければならない?」

そう言うと、優しいキスで、それ以上のキャロルの反論を封じた。

そして、もう一度キャロルを抱きしめると、キャロルを離し、自分の腕を差し出したのである。

「さあ、皆が待っておるからゆくぞ。

その言葉と仕草に、キャロルも微笑むと、そっとメンフィスの腕に自分の腕をからめたのでした。 lang=EN-US>





                                             END





   サイトオープン記念にpira様から頂きました〜♪
   初々しい王妃様と、一時でも離れて居たくない王様の想いが微笑ましいです。
   pira様、本当に有り難うございました。


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