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拘束
「珍しい金色の髪と青い瞳。お前、この国の者ではないな・・・。何処から来た?名はなんと言う?」
この上も無く傲慢な物言い、不遜な態度。自分といくらも年の変わらないこの少年が、 今自分がいる古代エジプトの生ける神だなんて。
反抗する言葉が口を突いて出る寸前。
「ファラオ!宮殿に忍び込んだ賊を捕らえました。」
「セチ!」
「キャロル!」
引き摺ってこられたのは間違いなく、先日自分を助けてくれた少年。
黙って眺めていたファラオがゆっくりと口を開く。
「ほう・・・・・それがお前の名か・・・・・キャロル、大人しく言うことを聞かねばあの男、死罪だ。」
「ええっ!?」
「私の問いに答えよ。あの男、お前の兄弟か?」
「・・・・・いいえ。」
「ではその男、鞭打て。」
「えっ?止めてお願い、セチは何も悪くないわ。私のせいよ。罰なら私が受けるわ。」
「赤の他人で有ろう?何故お前が罰を受ける?」
「セチは私を助けるために来たのよ。私のせいなの。だから。」
地下牢から悲鳴が聞こえてきた。
「お願いだから。私に出来ることなら何でもするから。だからお願い、止めさせて。」
青い瞳に涙を浮かべ、懸命に他人の命乞いをする娘。
・・・・・面白い、何処まで耐えられるか試してやろう。
少女は屈辱に震えながらファラオの足に接吻し、少年の背に降る鞭は止まった。
「セチ、セチ。傷は大丈夫?食べる物を持ってきたわ。」
「あ・・・?キャロル?何て綺麗なんだ。素敵だな。」
「そんなことより傷を見せて。」
鞭打たれた少年の背中は惨たらしく裂けて血が滴っている。
それでも工事現場ではもっと酷い目にあっていると言って笑った。
涙を堪えながら夢中で血を拭い、自分の肩絹を裂いて包帯代わりに巻きつける。
薬が無かったが仕方が無い。
食べ物を渡し、逃げ出す算段を考えて必ず助け出すと約束した。
そして振り返って二人の表情が変わる。
ファラオが衛兵を従えて立っていた。
「矢張りここにいたか。此処はお前の居るところではない。来い。」
「・・・・・・・・・・」
怯える少女は、だが座ったまま動こうとしない。
生意気な。こやつ、この私に逆らうつもりか・・・・・。
腕を掴んで立たせ、衛兵達には目だけで下がれと命じる。
この国の最高権力者に、牢の格子を挟んで少年と少女が囚われている。
生ける神なるファラオに逆らうなど考え付きもしない少年と、
逆らうことがどの様な結果をもたらすか、良く分らないまま立ち竦む少女。
ファラオの腕が少女の腰に回った。
後ろからキャロルの腰に片腕を回し、片手で顎を掴んで強引に振り向かせ、
ファラオは少女の花びらのような唇を奪う。
「な・・・うう・・・・・ふっ・・・・・!!」
唇を離しざま、
「大きな声を出せば衛兵が来る。」
キャロルの抵抗をただ一言で封じ、少年に問いかける。
「お前は何のために王宮へ忍び込んだ?奴隷の分際で王宮へ来るなど火中へ飛び込む虫のようなもの。
当然、死は覚悟しておろうな。」
「・・・は・はい・・・」
「良い覚悟だ。」
「待って、お願い、セチは何も悪くないの。だから解放してあげて。私のせいなの、私の・・・あっ?」
男の手が衣の中に入ってきた。
「大きな声を出せば・・・衛兵が来ると申したであろう?」
「ひ・・・・・」
掌が胸を弄っている。」
明らかに不審な様子、一瞬後に、何をされているか気付いたセチが格子に飛びつく。
「キャロルッ」
「そこでそのまま見ているが良い。」
冷酷に言い放って少女の項に唇を寄せる。
鼻先に花の香りが漂った。未だ青い穢れ無き、だがそれゆえに男を誘う香り。
そ知らぬふりで項を吸い上げたファラオの瞳は、だが紛うことなく欲情に彩られている。
「キャロル・・・あの男を助けたいか?」
「・・・っ・たすけたいわ・っ・・・・・っ」
「何故だ?お前には関係ない者なのに?」
「わたし・っ・・・を助けてくれた・から・・・っ」
「どんなことをしてもか?」
「当然よ・・・くうっ」
ファラオの片手が腰に滑り、片足が膝の間に入る。
後ろから無理にこじ開けた膝の間に、滑ってきた掌がゆっくり差し込まれる。
「触らないで・・・いやっ」
「今度その言葉を申さばあの男、打ち首だ。」
「!!・・・・・っ・・・・・っ」
少女の衣はたくし上げられ、輝くような足首から膝、太腿までが露わになっている。
「キャロル・キャロルッ!」
「あ・・・だい・・・じょうぶだから・・・みない・で・・・」
屈辱と羞恥で白い肢体を朱に染めてキャロルが悶える。
このように辱めを受けながら、何故縁もゆかりも無い男を助けようとする?
今までの女は皆、ただ一言だけで私に従ったのに。
未だ耐えるつもりか?ならば。
「ひいっ・・・」
指が少女の秘所に触れた。
恐怖と羞恥と未知の不思議な感覚。
「・・・・・!お前・・・」
一瞬戸惑った指が、強引に亀裂の中に入ってくる。
「あっ!いっ・いやっ・痛い・いたい!」
まさか。
「お前、いくつだ?」
「?・・・じゅう・ろくよ・・・あう・いた・・・やめ・・・・・」
苦痛に歪んだ顔。すいと指が引かれる。
そして少女の身体を強引に此方に向かせ、深く口付けて。
「セチとやら、キャロルの嘆願に免じて命だけは助けてやる。だが暫く拘束する。」
「お願い、解放してあげて。」
「お前次第だ。」
そして少女はファラオに引き摺られるようにその場を離れた。
広間での宴のさなか、キャロルはファラオの頬を打ち、危うく手打ちにされるところをあろうことかファラオ自身に助命された。
ファラオの瞳には確かに怒りの炎が燃え盛っている。だがそれ以外の光も宿っていた。
宴が終わると女官長がやってきて就寝の準備を整えてくれた。
衣装を解き、冠を外し、湯殿へ連れて行って丹念に清めてくれる。
体は他人に洗ってもらうことを断って自分で洗った。
髪と体は柔らかな泥で擦り、髪は卵白を溶かした湯ですすぐ。
体は湯で流した後、香油を塗って整え、磨きを掛けるためにマッサージされた。
それが終わると夜着を着せ付けられる。
髪を梳られ、寝化粧をされようとして初めて違和感に気付いた。
『寝るだけなのにお化粧をするの?」
ナフテラの手が止まる。
「・・・・・ファラオのお召しです。」
「!!」
勿論この年で、「相手」の何たるかは知っている。だが考えたくなかったし、当の本人を引っ叩いたのだ。それは無いだろうと思っていた。
自分の甘さがつくづく恨めしい。
何とか逃げ出せないかとうろうろそわそわしていると、女官長が一言言った。
「無理ですよ、キャロル。今宵は特に警備が厳重です。それに、貴女が取った行動は、直ぐあの少年に跳ね返ります。」
唯一の希望も絶たれた後は、刑場に引かれていく罪人のように惨めな気分だった。
夜着を着せてもらえただけ未だました。
壁画などで見た側女などのいでたちは、首飾り、腕輪、足輪等で飾り立ててはいるものの衣装を纏っていないものが多く、
かろうじて下穿きを穿いているくらい。
自分にはとても耐えられないいでたちだったのだ。
そんな姿で回廊を歩く勇気はとてもない。舌を噛みたい気分になる。
あてがわれた部屋に、女官長直々に連れて行かれる。
側女としての心得を聞かされたが、そんな物は右から左へと抜けてゆく。
そして。
ファラオがお越しですの一言があり、キャロルは身に纏っていたもの全てを取り上げられた。
悲鳴を上げて少女が蹲る。
ファラオが入室し、侍女が全て下がってゆく。
目も呉れずに寝台横の床頭台に剣を置き、女官長から杯を受け取って下がるように命じる。
ナフテラは何か言いたそうだったが、ファラオの強い一睨みでそのまま下がって行った。
羞恥と混乱の中で、今更役に立ちそうも無い知識が頭の中を掛け巡る。
そうだ。王の褥に侍る者は、暗殺を避けるために全裸にされたんだっけ。
此処まで衣類を与えられたのは多分、あの女官長のおかげだろう。
と言うことはもう逃げ場は無いということか。
二人きりになった部屋の中で、篝火のはぜる音だけがやけに大きく響く。
ファラオが一口杯を傾け、キャロルのほうを見た。
「・・・・・お前のすべきことは、わかっているだろうな。」
咄嗟に恥をかなぐり捨て、脱兎の如く窓目掛けて逃げた。そして下を見て足がすくんだ。
なんと言う高さ、目が眩む。はるか下は水面ではなく地面だった。ナイルはその先。
落ちれば骨折どころではなく、先ず助からない。
あまりの絶望によろめいた身体を、ファラオの手が掴んで強引に褥に連れて行く。
寝台に突き倒され、組み敷かれる。
男の体躯は熱く大きく逞しく、恐怖心をあおる。
敵うはずが無いのに抵抗する手首を掴み上げると、骨が軋む音がした。
紛れも無い悲鳴を聞いてゆっくり放す。白い肌にくっきりと赤い痣が浮かび上がる。
「・・・・・一夜私の伽を勤めればあの男の命を助けると申しておろう。分かっているのなら何故逃げる?」
キャロルはその一言で抵抗を止めた。
歯を食いしばり、目を閉じる。
男の指が肌を滑ってゆく。唇に触れ、顎から首筋、胸へと。
何も感じない、何も感じないのだ。これは錯覚。只の夢だ。
明日が来て目が覚めたら、私は何も覚えていなくて、いつも通り家族とともに暮らしているのだ。
「・・・・・っ・・・・・」
唇が首筋に吸い付き、ゆっくり胸へと下がってゆく。
これは夢よ。キャロル。夢なのよ。只の悪い夢なのよ。
男は愛撫を加えながら、訳の分からない感情に腹を立てていた。
この娘、今までの女とは明らかに違う。
私の一言で、確かに大人しくはなった。だが決して屈服はしていない。
何故赤の他人の為に自らの身を差し出す?素直に喜び、媚の一つも売れば私の歓心を得ることなど容易いだろうに。
かたくなに拒み馬鹿のように抵抗する。これがこやつの矜持か?体は差し出しても心は渡さぬと?
こんな女は初めてだ。
「あっ・・・・・」
男の指が胸の頂に触れた。二本の指で摘み上げ、挟んで捏ねる。
声など出すものか。怖がっていると思われると、きっと図に乗ってくる。
「・・・くっ・・・」
もう一方の指も触れてきた。同時に同じ感覚が、二つの胸の上で揺らめく。
男の視線を感じる。キャロルの表情を冷静に嬲るように見ている。こんな顔を見せたくない。
そむけた瞳からぽろりと涙が落ちた。
泣くほど嫌か。この私が。このファラオたる私の愛撫を喜ばぬと?
・・・・・だが屈服させて見せよう。
訳の分からない苛立ちのまま胸の頂に口付ける。唇に挟み、舐め回し、大きく吸い上げて歯を立てる。
「いやあっ・・・っ・・・」
白い肢体が少しずつ変化してきている。だが心は拒否したままだ。
それでも先刻の言葉を覚えているのだろう、自らの手で口を塞ぎ、拒否する言葉と悲鳴を封じようとしている。
掌が動き出す。
胸から脇腹、くびれた腰、滑らかに輝く太腿へと滑って行った掌は、少女の足首を掴むと強引に両膝を屈曲させ、胸へ押さえつける。
少女が絶叫を上げて、逃れようと上へずり上がる。
だが寝台の天板に頭をぶつけて動きを封じられた。
そして男の目の前に、誰にも見せたことの無い処がさらけ出された。
「・・・・・・・・・・!」
顎を掴んで強引に口付ける。唇をこじ開け舌を突きこみ、少女が苦しさのあまり顔をゆがめるのにも気付かないまま口内を蹂躙する。
そして白い体を突き飛ばし、引き剥がすように離れる。
一糸纏わぬ白い肢体が褥にうつ伏している。
「お前、男を知らぬのだな?」
「!?」
「女は十二、・三で男を知る。今まで知らぬとは考えられぬ。だが・・・」
あの時、あの男の前で自分の指を受け入れたこの肢体は、確かに男を知らなかったのだ。
あの男とは恋仲ではない。紛れも無く他人だ。ならば何故恋人でもない男の為に?
ファラオは気付かなかった。これは嫉妬だと。
そして分かった。自分が力で手に入れても決して奪えぬ物を、この娘が持っていると。
キャロルがゆらりと起き上がる。我を失くした虚ろな表情のまま、床頭台の剣を手に取った。
ファラオは少女の動きを見ている。
キャロルはゆっくり剣を鞘から抜き、己の首に当てた。
「・・・・・これは夢よ・・・・・眠れば明日になって・・・・・当たり前に目が覚めるの・・・・・・・・・・」
己に言い聞かせるように呟いて剣を引こうとする。
それを強い力が掴んで止めた。
「死にたいか?だがお前がそんなことをしたら、あの男にも後を追わせてやる。
二人仲良く宙有を彷徨うが良い。イアルの野になど、決して招いてやらぬ。」
凍るような声だった。それが自分の意識を引き戻す。
自分はエジプトの神を信じてはいない。
だがセチは・・・・・
キャロルの手から剣が落ちる。拾って鞘に収め、ファラオは言った。
「お前のその意志の強さ、気に入った。それに免じて今宵は許してやろう。だが、これから毎夜、私が良いというまで夜伽はお前に命じる。
・・・・・お前は私のものだ。」
キャロルの全てを拘束する、それは宣告だった
END
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