『 Infinity 』






―――「ではその海老料理を頼む」
「畏まりました」
「ドルチェも頼んでいい?メンフィス」
「また甘いものか?本当に好きだな」
「うん・・・それと一緒にカプチーノもお願いね」
給仕の年配の男に向かいにっこり微笑むと、キャロルは嬉しそうな表情でメンフィスに視線を移す。
そんな顔を見ていると、食後にエスプレッソではなく重いカプチーノを頼むなどという無粋さもキャロルなら許せてしまう。
ジーンズとスウェットしか持たずにこの街へ来たキャロルを着飾らせる為、途中見つけたエリー・タハリでメンフィスが選んだのは、
シンプルなダークブルーのシルク・シフォンのドレス。
キャロルの美しい黄金色の髪と透ける様に白い肌をいっそう映えさせている。
深めに切れ込んだ胸元には控えめな膨らみが覗き、暗めの照明の所為でくっきりとその谷間に影を作っている。
下着が見えると無粋になってしまうデザインのドレスをメンフィスはわざと選んだ。
店員の言葉通りに素直に下着を外し、素肌にそれを纏ったキャロルの白い肌と谷間に見える影とのコントラストに、メンフィスの口角がこっそりと持ち上がる。


「貸切りにならなくてよかったわ」
メンフィスのそんな表情に気付く様子も無く、きょろきょろしながらキャロルがホッとした様子で呟いた。
オフシーズンにも関らず、訪れたイタリアン・レストランは6割ほどの客で賑わいつつあった。
ニューヨークの気取った店と違い、場所柄ラフな格好でも入店を許してくれるせいか、キャロルのドレス姿が一際人目を惹いていた。
余程空腹なのだろう。先に出されたフォカッチャにオリーブオイルを浸し、ぱくぱくと口に運ぶキャロルの子供じみた様子に苦笑を漏らし、
メンフィスは食前酒代わりに頼んだグラッパをくいっと呷った。



食事が始まると、勧められた海老料理を同じように頼んだ周りの人々がナイフとフォークで悪戦苦闘する中、メンフィスは指先で器用に海老の頭を外し、
手でそれを口元へ運ぶ。
外した頭の部分ももしゃもしゃと食べては次の海老に手を伸ばし、付け合せのズッキーニやパプリカのグリルも指で摘んではぱくっとやっている。
その姿は豪快でいながら決して品を失わず、粗野の欠片も見当たらない。それどころかその流れるような動作は周りの誰よりも美しく粋で、
キャロルはそんなメンフィスをセクシーだとさえ感じた。
そんなことを考えながら思わず見とれていると、メンフィスが指先に着いたソースをしゃぶるように舐めた。
油と唾液で艶々と光るその指先にキャロルの視線が釘付けになる。
さっきバスルームでキャロルを鳴かせた指を、執拗にメンフィスが舐めていたからだ。

あの指で・・・わたしを・・・何度も・・・

咄嗟にキャロルはメンフィスから視線を外した。こんな恥かしいことを考えているなど、覚られたくなかったからだ。



キャロルはナイフとフォークを皿の両端に掛けるように置くと、再びフォカッチャの入った籠に手を伸ばした。
少しずつ引きちぎってはオリーブオイルに浸し口に運ぶキャロルに悪戯な瞳を向けたメンフィスが、顔を近づけそれをせがむように口を開けた。
「ふふ・・・雛どりみたい・・・」
そう言ってメンフィスの口に小さくちぎったフォカッチャを運ぶキャロルの指先を、メンフィスの大きな口が包む。
「・・・!」
唇に挟んだキャロルの指先に舌を絡め、熱い瞳で見上げるようにしながらメンフィスは尚も舌を這わせ続ける。
それはまるで「こういう風に愛撫して欲しい」と訴えているようで、一瞬で真っ赤になったキャロルは指をメンフィスの口から引き抜こうとした。
だがやはりメンフィスの熱い視線には抗えない。キャロルはただされるがままに指先を吸われ続けていた。

メンフィス・・・

指先へのメンフィスの舌の愛撫にキャロルの体の奥がじわっと熱を持ち始めた、その時。



「んっんー」
咳払いが聞こえ、ハッと慌てて指先を唇から抜くと、給仕の男がワインリストを持ってメンフィスの傍に立った。
真っ赤な顔で視線を逸らすキャロルに視線を向けたまま、メンフィスは顔色ひとつ変えずに給仕の男と会話を続けている。
「・・・!!」
話をしている筈のメンフィスの手が、テーブルクロスの下でキャロルのドレスの中に忍び込み、ほっそりとした脚を撫で擦る。
小さいテーブルの席を選んだメンフィスの企みに今頃気付いたキャロルは、他人の視線を気にしながらも、ますます体の奥が熱くなっていくことに困り始めていた。
そんなキャロルの顔をニヤリと見つめながらメンフィスが給仕の男に言った。
「やはりドルチェとカプチーノはキャンセルしてくれ。代わりにロブスターのサンドウィッチをテイクアウトしたい」

メンフィスの手が一瞬止まった隙に立ち上がり、キャロルは逃げるようにパウダールームへと姿を消した。




旅先で人はつい大胆になると言うけれど、この数時間メンフィスと何度愛し合ったかわからないというのに、メンフィスの指先を見ただけで体が熱くなってしまった・・・
飲めもしないくせに食前酒を頼んでしまったのがいけなかったんだわ。
鏡の中の自分の顔が火照っていた。体の奥が熱いと感じたのもきっとその所為に違いない。
気を取り直したように手を洗い、ペーパーで拭き、顔を上げたその時。
扉を開いてメンフィスが現れ、鏡越しにキャロルと視線がぶつかった。

――!!

「メ・・・」

メンフィスはキャロルの口を手で覆うと、キャロルを個室へと連れ込んだ。
「声を出すな」
小声で耳元にそう囁くと、舌をその耳の穴に差し込む。
「・・・!」
それだけで声を上げそうになり、キャロルがびくんと体を捩った。
個室の壁に背中を押し付け、唇を重ねる。乱暴なまでに強く舌を絡め吸い上げると、キャロルの手がメンフィスを押し返そうともがいた。
その手を掴み、メンフィスは更に熱い口付けをキャロルに与え始めた。
やがてキャロルの首筋に到達した唇が熱く食むようにしながら肩口へと滑る。ドレスを少しずらし、剥き出しになったキャロルの肩口に押し当てられる熱い唇。
はあはあと熱く息を漏らすキャロルの背中のジッパーを下ろし、ドレスを僅かに脱がせるようにして、メンフィスはキャロルの乳房を露わにさせると、そこへ唇を寄せた。
「あ・・・!」
一瞬大きな声を出してしまったキャロルに罰を与えるように、メンフィスは硬く尖り始めた場所を軽く噛んだ。
切なそうに溜息を漏らしたキャロルが仰け反るようにして色付き始めた乳房を突き出す。
舌を這わせ吸い上げて転がし、ドレスの裾を捲り太腿を撫でる。片足を担ぐようにして己の脚に掛けさせると、
メンフィスは手を滑らせ、ショーツの上からキャロルを擦った。
「ん・・・」
小さく声を漏らしながらキャロルの腰が弧を描き始める。
「もう濡れてるのが解るぞ」
メンフィスはそう耳元に囁くと、下着越しに一番敏感な突起を探し出してそこを擦り始めた。
「あ・・・ん・・・」
みるみるうちに下着が湿り気を増していく。
「直接触ってほしいか?どうだ?」
尚もメンフィスは意地悪く耳元で囁きながら其処を擦り続ける。
「はぁ・・・ぁぁ・・・」
答える代わりに熱い息を漏らしながらキャロルの手がメンフィスの髪を掻き乱し腰をくねらせる。

ショーツの片方の紐を解き、隙間から入り込んだメンフィスの指が漸く其処へ沈む。
「あっ!」
「しっ!」
響き始めた水音で既にどれだけ濡れていたのかを思い知らされ、キャロルは恥かしさに身を捩った。

ああ・・・あの指が・・・

「・・・っ」
声を上げたいのに上げられない。何時誰が此処へ入ってくるか解らない。
その切なさと羞恥心がますますキャロルの身体を高めていく。
メンフィスの指は奥へ奥へと進み、唇は首筋や乳房を這う。
キャロルの息遣いが変化した瞬間、メンフィスは指を抜き取り、キャロルの両脚をしっかりと抱きかかえて硬く張り詰めたものを其処へ突き刺すように沈めた。
「ぁ・・・っ!!」
「はぁ・・・はぁ・・・」
メンフィス自身も小さく息を吐くように荒い呼吸を繰り返しながら動き始めた。
二人が揺れるたびに背中を預けて凭れた壁がみしみしと音を立てる。



溺れている・・・
この人に間違いなく、わたしは溺れている・・・
この人の身体に、愛し方に・・・



何度絶頂を迎えても熱くなってしまう自分の身体が不思議だった。
いつの間にかメンフィスにすっかり教え込まれてしまった身体は少しも乾く暇が無い。
どこをどう可愛がればキャロルが悦ぶか知り尽くした指先が肌の上を滑り、乳房の尖りを摘む。
「・・・っ」
何度も何度も強く突かれ、壁を揺らす音も激しさを増し、腰元でかろうじて引っ掛かっているドレスがひらひらと揺れる。
殆ど裸になったキャロルが声を出すことを必死で耐え、髪を振り乱して激しくよがるその姿はメンフィスの突き上げをますます激しくさせた。

ああ・・・メンフィス・・・!

ぎゅうっと締め付け始めたキャロルの変化に、メンフィスが応える。
もう誰が入ってこようと止められない所まで来ている。
覚悟を決めたように強く速く激しくキャロルを突き上げ、メンフィスもその瞬間へと己を追い込んでいった。

「あぁぁ・・・・っっ」
「く・・・っ・・・ぅ・・・」

次の瞬間、繋がる場所から強烈な電流が体中を走り抜け、キャロルの中に最後の快楽を放つ。
同時にメンフィスへと乳房を突き出し、白い喉を晒し仰け反るようにしてキャロルが全身を硬直させ、そしてがくり、と堕ちた。



「はぁ・・・はぁ・・・」
メンフィスは項垂れるキャロルの髪を掻き上げ、唇を重ね、甘い唾液を味わう。
唇を離し、潤んだ瞳のままメンフィスを見つめ返すキャロルがメンフィスの頬を撫でて微笑んだ。
「・・・愛してるわ、メンフィス・・・」
「キャロル・・・」
「愛してる・・・もう離れられない・・・」



メンフィスの唇の温かさを首筋に感じ、キャロルは込み上げる幸福に瞳を閉じた。






その後どうやって帰ったかは覚えていない。朝の光に目覚め、気付くと裸のままでベッドに寝かされていた。
隣でメンフィスも裸のままで眠っている。

ベッドを抜け出して床に落ちたシルクのドレスを拾い上げる。哀れなことにドレスは腰の辺りが破れ、あちこち淫らな染みが付いてしまっていた。
「あ〜あ・・・一回着ただけで駄目になっちゃった・・・」
「目的は果たせたからいいさ」
「・・・!」
声に振り返ると、枕に肘をついたメンフィスがニヤリと笑っていた。
「流石に腹が減ったな・・・昨夜テイクアウトしたサンドウィッチを食べよう」
「じゃあコーヒーを淹れるわ」

メンフィスのシャツに袖を通しながらキャロルが思い出したように瞳を見開いた。
「・・・今日はもう邪魔しちゃ駄目よ?メンフィス」
「何のことだ」
「ふふっ・・・」

階段を下りながらキャロルがメンフィスを振り返り微笑む。


昨夜見せた淫らな姿態と対を成す天使のような微笑み。
どちらのキャロルも己を捉えて離さない。
そしてどちらのキャロルも自分だけのものだ。

ずっとお前のその顔を見ていたい・・・キャロル・・・
そう・・・どちらの顔も・・・


暫しベッドの中で心地よい疲れにまどろむと、メンフィスは裸のままでジーンズを穿いて階段を下りた。


コーヒーの好い香りに誘われるようにキッチンへ向かう。
目に飛び込んだのはメンフィスのシャツからすらっと伸びた白い脚。
あの白い脚に愛している証を刻みたい・・・ふとそんな欲望が湧き上がる。

「ふっ・・・」
どれだけキャロルを愛すればこの身体に果てが訪れるのだろう。昨日一日で一体何度この女を抱いたと思っている・・・?
自分の身体と欲望の貪欲さに呆れて自嘲し、椅子を引いて其処へ腰を下ろす。



だが・・・限界に挑んでみるのも悪くない・・・か・・・



悪戯な企みに気付くこと無く、朝食の支度を続けるキャロルの金色の髪が軽やかに揺れていた。




                                            END




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                                                        KA−Z様から、再び頂きました!
                                                        現代版M×C熱々カップルで御座います。
                                                        そしてこの食事風景の色っぽさ!
                                                        食事シーンって、こんなにエロティックなものだったのね〜(ぽっ)





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