返礼





キャロルが風邪を引き、ファラオが看病した翌日から、彼女は体面上側室になった。
どんなに否定しても周りが納得しない。
ファラオも面白がって否定しない。それどころか部屋を飾らせ、高価な贈り物を次々に届けさせる。
ファラオの宮の、キャロルの住まう部屋はあっという間にファラオからの贈り物で溢れた。
高価な装身具、色とりどりの衣装、珍しい調度品や化粧品など、およそ女なら憧れて当然の品々が
太陽の光を浴びて輝く。
ところが当の本人だけが浮かない顔だ。
これらの品は一体どれだけの汗と労力によって生み出されたのだろう。
何より、これらを貰ったことでいつかメンフィスが自分に求める返礼が怖い。
早々に返そう。
そう決意すると彼女は夜を待った。



「さて、今夜はどんな話だ?」





いつもの時間、いつものようにメンフィスが、いつもの言葉を口にする。
「その前にメンフィス、この荷物なんだけど。」
「おお、お前に似合いそうなものを選んだ。まだあるぞ。明日運ばせる。」
「そうじゃなくて。こんなに要らないの。全部お返しするわ。」
メンフィスが黙ってキャロルの顔を見ている。





・・・・・怒鳴られる。
彼は短気で我侭で傍若無人だ。気に入らないことがあると男女の区別なく一刀の元に切り捨てると聞いている。
覚悟を決めた少女の上に、信じられない言葉が降ってきた。
「気に入った物が無かったのか?では他の物を与えよう。明日宝物庫へ参る。好きな物を好きなだけ選べ。」
脱力した。
「お前にはどんな物が似合うか、これでも散々悩んだ。女に贈り物なぞしたことが無かったし
 どんな物を喜ぶのかも分からなかった。故にお前が要らぬと申したときは、欲しい物があるまで贈ろうと決めた。」
吃驚して見返すと、ぷいと横を向いていた。その頬がほんのりと赤くなっている。
それって純粋に贈り物をしたいってこと?そりゃ女としてプレゼントを貰って嬉しくない筈無いけれど・・・・・
桁が違う。
「メンフィス、そりゃ私だって贈り物を貰ったら嬉しいわ。でも貴方から貰う理由が無いのよ。
 それに量が多すぎるし。」
何とか気を取り直して答える。
「私が贈りたいのだ。それで良い。」
がくり。
「そんなんじゃ理由にならないわ。」
「では理由を作ってやろう。お前のお立場は今私の側室。」
「じゃないってば!」
「良いから聞け。国を治める権力者が、より優れたもの、強いもの、美しいものを身の回りに集め、
 国の内外に誇示する。わが国にはこれほど力があるのだと諸外国に知らしめるわけだ。」
「それで?」
「我が国にそれほど優れたものを集める力があると諸外国が理解すれば、外交的にも優位に立てるし、
 何より戦などで無駄な血を流さなくて済む。」
驚いた。
メンフィスは外交より戦を好むタイプだと思っていたのだ。
彼女の顔を眺めて、メンフィスが皮肉っぽく笑う。
「平和主義だと思ったか?だが、どの国の、どんな王でも己の両手を血で汚さずに生き抜いた者は居らぬ。
 犯罪者の処罰に、戦に、内乱に、継承争いに・・・王座とは血の海の上に浮いているもの。
 そしてそれを忘れた時は、座る者もろともに沈むものだ。」
「・・・・・」
相変わらず笑っている。それが薄刃のようだ。
「その外交優位の一端を、お前も担っているわけだ。」
「その御褒美?」
「そうだ。これからも心して勤めよ。さすればこれらのものが何故此処に届けられたかも分かるだろう。」
「・・・・・分かったわ。では、あくまでも『仕事』として、これらは『お借り』します。」
「そう来ると思った。本当にお前は欲が無い。だがこれならお前も受け取るだろう。」
差し出されたのは銀のロケット。
彼女が始めて此処へ来たときに身に付けていて、着替えさせられた時に取り上げられたものだ。
「本来なら、穢れたものは全て焼き捨てるのだがな。お前が最後まで抵抗したと聞いたので召し上げた。」
「中を見たの?」
「見ては居らぬ。お前が自分で、大切な物だと言ったのであろう?」
黙って蓋を開き、差し出した。
「私の父母と二人の兄よ。父はコブラに噛まれて死んだわ。」
彼は鼻を鳴らして一瞥しただけで、褥にごろりと横になった。
「眠くなった。今宵は此処で寝る。」
「!!か・・・帰らないの?」
「此処は私の宮だぞ。何処で寝ようと私の勝手。」
慌てて寝台から降り、長椅子に移ろうとした彼女の腕を掴んでメンフィスが言う。
「添い寝をしてやろう。」
そのまま引っ張られて腕の中に転がり込み、がっちり押さえられて身動きが出来なくなる。
握っていたロケットは取り上げられ、床頭台に置かれた。
「ちょっ・・・・・」
言いかけた唇を塞がれ、抱きしめられる。
「んん・・・・・ん〜〜〜〜〜!!」
「愛している。本当は理由などどうでも良い。私の傍に居よ。」
ようよう唇を離され、荒い息を付いた彼女に命じると、
ファラオは抱きしめた腕をそのままに、片手で掛け布を引き上げ瞳を閉じた。
「これは仕事に対する御褒美でしょう?」
精一杯の虚勢。





「・・・・・そうだな・・・・・今はそういうことにしておこうか・・・」





沈黙の後、返ってきた声が何だか寂しげだった。





                                                                   END






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