白鳥



                                                注意     ちょっぴり大人表現アリ。(笑)








王宮に民からの上納品が届けられた日。
いつもの時間に、ファラオは珍しく、執務室にキャロルを呼んだ。
王宮の、ファラオの宮で過ごしていると言っても全てを知っているわけではない。
侍女に先導され、やっとたどり着いた部屋は大きいが思ったより質素で、何よりいかめしかった。
その中に、たった一人でファラオは座っていた。
机の前には、彼が座っている他に黒檀の机と椅子、クッションを乗せた長椅子、
粘土板を収めた棚がいくつも並び、床には書類を入れた壷などが置かれている。
黒檀の机には読みかけのパピルスや粘土板、書きかけた書類、筆記具、葡萄酒の壷と杯が置かれて雑然としている。
「どうしたの?こんな遅くに。仕事が終わらないのね。」
「ああ、其処に座れ。もうすぐ終わる。」
指し示された椅子は、ちょうど机の向かいだ。
・・・・・そう言えば、メンフィスが仕事をしているのを見るのは久しぶりだわ。
初めて来た時は謁見の間で、大勢の人間がファラオの威光にひれ伏すのを見て驚いたものだ。
人間が頭を下げるのは、心から感謝する時だけと思い込んでいた現代の少女にとって、
それは大きな違和感を覚えるものだった。
だが今、一人の青年が書類の決裁をし、考え、筆記して行く姿は、働いていると言う当たり前の感覚を呼び覚まし、
そして彼女の兄達の姿を思い起こさせた。






「何を考えている?」
我に返って見やると、いつの間にか書類は整理されて片隅に積まれ、
明日の朝一番で各部署へ配られるのを待つばかり。
机の上は広く開けられ、葡萄酒の壷と杯、それに一枚のパピルスが広げられている。
黙って差し出された杯に酒を注ぐと、同じ問いを繰り返された。
「兄のことを思い出していたの。」
メンフィスの眉間に皺が刻まれる。
「・・・・・この私の前で兄の話をするとは良い度胸だ。」
「どうして?大切な兄さんの話をすることが何故いけないの?貴方が聞いたから答えたのに。」
メンフィスはがぶりと一口、杯を空けるとまた突き出した。
代わりを注ぎながらキャロルは言う。
「貴方が働いているのを見て、長兄が働いている姿を思い出したの。長兄は父の跡を継いで会社の社長・・・・・
 そうね、工房なんかの長が一番似ているかしら。何千と言う人が働いている場所の長をしているのだけど。
 家族にはあまり働いている姿を見せないの。」
壷を机に置いて続ける。
「以前、一度だけ次兄に強請ってこっそり見に行ったの。次兄も決して時間が空いていたわけではないのだけれど。
 吃驚したわ。大勢の人たちが忙しそうに行ったり来たりして書類や電話のやり取りがあって物が動いて。」
 でも、どうしても片付かない仕事は自分の部屋でしたりするのね。たった一人で書類を作り、考えて決める。
 兄一人の判断が多くの人の生活を支えている・・・・・」
メンフィスの眉間の皺が、もう一本増える。
「貴方もそうね。大勢の人に囲まれて尊大に振舞っているけれどそれだけじゃない。
 こんな風に、貴方がたった一人で決めたことが、何百、何千という人の生活を支えているんだわ。」
空いた杯が突き出される。
「早くない?飲みすぎは身体に毒よ。」
メンフィスの顔が自分を見ていることに気付いてキャロルは我に返った。
喋りすぎた。
と言うより次に来る怒鳴り声に備えて身構えた少女にファラオは言った。
「これくらいで酔いはせぬ。今宵は酒が美味い。」
眉間の皺が消えていた。
小首をかしげた少女にファラオは言った。
「これ以上喋ったら、私も我慢の限界だったのだがな。どうしたのだろうな・・・・・。なぜか怒鳴る気が失せたのだ。」
少し笑ったその顔が、兄を思い出させる。
でも言わないでおこう。今度こそ怒鳴られる。
「抱えていないで早く注げ。酒が温くなる。」
言われて慌てたせいか零れた。
「あ、御免なさい。何か拭くものを貰ってくるわ。」
「構わぬ。それよりお前がよく喋るので忘れるところだった。これを知っているか?」
手招きされて部屋の隅に置かれた大きな布包みに気付く。
「民からの献上品だ。だが私も初めて見るもの故な。お前にも見せてやろうと思ったのだ。」
布をめくると現れたのは大きな檻。
中には大きな白い鳥が捕らえられていた。
覆いを外され、室内の明かりに反応して身じろぎする。
怯えた目だ。
「まあ・・・・・白鳥だわ。」
「白鳥と言うのか。美しいな。」
「何処から来たのかしら。この時期に、このエジプトに居るなんて。
 この国の言葉ではなんと呼んでいるのか知らないけれど、私の国では白鳥と呼んでいたわ。
 これ、どうするの?」
「そうだな・・・・・明日の宴の馳走にでもするか。料理番に命じて丸焼きにでもさせよう。」
「そんな!可哀相だわ。たった一羽で捕らえられて淋しい思いをしているのに。」
メンフィスの瞳が面白そうに光る。だがキャロルは気付かない。心底可哀相だと言う様に、縋るような瞳で
大きな白い鳥を見つめている。
「珍しい鳥だ。味はともかく、宴の余興にはなるだろう。」
「・・・・・・・・・・」
「どうした?」
次に来る言葉は想像がつく。
「放してあげられないの?」
やはりな。
「そうだな・・・・・構わぬが。」
「え!?本当?有り難う!!」
言うなり檻に駆け寄ろうとする白い腕を捕らえる。
「ただし条件がある。」
「な・何?条件って?」
嬉しさに輝いていた瞳に、瞬時に怯えが走る。囚われの白鳥と同じ目だ。
気付かぬ振りで腕の中に包み、強引に口付ける。
「・・・・・!・・・・・っ・・・」
キャロルの悲鳴が二人の間ででくぐもって消えた。
顎に手をかけ、強引に開かせた唇に舌をねじ込んで口内を犯す。
自分の舌で少女のそれを掬い取り、絡めてこすり付け、吸い上げる。
十分に堪能してから放してやると、少女の頬は薔薇色に染まっていた。
潤んだ瞳と、上気した肌が何とも言えず艶めかしい。
物も言わずに腕を振り解き、再び檻に駆け寄った背中に声が掛けられる。
「無駄だ。羽を切られている。その鳥、もはや二度と飛び立つことは出来ぬ。」
ぺたりと。檻の前に座り込んでキャロルは項垂れた。
「後宮の庭に放す。其処なら外敵に襲われる心配もあるまい。」
そういいながら少女の腕を取って立たせ、もう一度抱きしめて耳元で囁く。
「何度も言っているだろう。私は気に入ったものは必ず手に入れると。
 お前は私のもの。決して逃しはせぬ。」





キャロルは潤んだ瞳で檻の中の白鳥を見た。
その姿が、まるで自分のようだった。





                                                                 END





                                    BACK                  NEXT  裏にあります(笑)





テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル