ブルー



キャロルの懐妊が分かってからはや数ヶ月。

日に日に育ってゆく生命に、全ての感情を失っていたキャロルも

時折、何かを話しかけたりしながら、柔らかな笑みを浮かべるようになっていた。

けれどキャロルの気持ちは、常に揺れ動いていた。

「貴方を愛しいと思うけれど・・・本当に生まれてきてもいいのかしら?

  ファラオの大事な後取り、きっと大切に育ててもらえるわ。

 でもそれは・・・もしかしたら・・・いえ、本当はあってはいけない事だわ。

 本当なら私は、今ここに存在しない人間。

 そして本当ならメンフィスも・・・。貴方は存在しないはず同士の子供。

 ごめんね・・・愛しいと思う反面、どうしても、どうしても存在を問うてしまうの。

一人でいる時にどうしても、自信と生命に問いかけてしまう。





そんなある日、やはり自室で一人で居る時、

「ねえ、貴方を愛しいと思うように、あの人の事も・・・・・メンフィスの事も

 そう思えるようになるのかしら?いいえ・・・きっと無理ね。

 だって、あの人は私の自由という翼を取り上げてしまったもの。

 この青い空とナイルの向こう、私の世界に帰る翼を・・・。」

キャロルがそう言ったとたん、、キャロルの体は背後から、

大きな手で抱きすくめられた。

「飛び立つな。何処へも行ってはならぬ。」

悲しみを含んだ声が耳元で囁かれた。

「メ・メンフィス・・・・・まさか・・・今の聞いて・・・」

「そうだ。そなたの様子を見にきたら、そなたの声が聞こえた。

 私を愛せぬのなら、それでも構わぬ。

 だが飛び立つな、何処へも行くな。ただ傍にいてくれれば良い。」

初めて見せる,寂しげなメンフィスの顔。

キャロルはその言葉に、ただ青い空を見上げ呟いた。

「翼がない私はどこへも飛び立てないの。だから・・・だから・・・此処にいるのよ。」





                                                             END





 「折られた翼」を読んでくださったpira 様がお話を下さいました。
 帰りたいと願う心と生まれ来る生命を大切に思う気持ちとの間で揺れ動くキャロルと、
 不器用にそれでも大切に想うファラオ。
 二人のすれ違いが切ないです。
 pira様、有り難う御座いました。





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