ラムネ/禁なし/お題:1(今日もまた)、3(忘れてください)/弱スー注意
-楢葉-

 ※禁は設定していませんが性描写はございますので、
   閲覧は自己責任でお願いいたします
 ※鬼畜なのか優しいのかよく分からない楊ゼンです
 ※(精神的に)弱い太公望なのでご注意を
 ※ハッピーエンドとは読めない可能性大
 ※原作設定かパラレルかはお好きに
   (一応パラレルのつもりで書いてはいるんですが…)
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小さな空気のかたまりがビー玉に絡み付く。無数の泡はくっ付き、離れ、いずれ消え失せる。上下の隙間を軽やかに抜けていくそれら。けれどビー玉だけは変わることなくそこにあった。
 
逃れることは決してできない。どちらの隙間も、塞き止めるのは自分自身であるからこそ。
 
透明な甘い水と泡に動かされ、からん、と声をあげるビー玉に、ひとはどうしようもなく心を惹きつけられるのだろう。ああ、美しい。あの美しいものがどうしても欲しい。そう願って已まなくなる。
 
 “ あのビー玉は至上の甘露 ”
 
 
 
ビー玉は自身を知っていた。知っていたから怖かった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
    ラムネ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
今日で三度目の晩。綺麗に洗い流され、やわい石鹸の香のみが漂うシーツに包まれていると、昨夜やその前の夜がまるで嘘のように感じられる。しかし背後から自分を抱きしめる男の手は紛れもない現実で、このあと起こることはきっと毎夜と変わりはしない。
ぷかぷかと、浮いているような心持ちの自分だけが、この空間からひとり取り残されていた。
 
「あ……っ」
「甘い、ですね」
 
先ほどまで手のひらで撫でられていたうなじに、男の唇がそっと押し当てられる。ぺろりと舌でなぞられて、喉の奥から突き抜けるような声が。
──そして頭の近くで響いた彼の言葉は、そのまま骨を伝って心に届き、微かな安心を自分にもたらしてくれた。
 
「まだ、甘い?」
 
食むようにして触れられた唇からそっと歯が忍び出す。
 
「“ まだ ”? 何を言ってるんです?」
 
あなたは、いつだって、こんなにも、あまい、のに。
甘噛みの合間に、ひとことずつ囁かれる、低く艶やかな声。
 
「っう……!」
 
けれどそれは『現在』でしかないと、そう告げているではないか。先にある『未来』など、この男の目には見えていないのだから。
男が今歯をたてているのは他でもないこの心。死にきれないほどの柔い痛みで、自分を攻める。
 
(たったの三夜で、何が分かる)
 
一筋涙が零れたような気がしたが、それはきっと快楽のためではなく。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 あなたといると、つい子どものようになってしまうんです。
 甘やかされたくて駄々をこねて、自分の我侭を通して。
 ほしいほしいと、無理やりあなたにしがみつく。
 
 
泣いて求められても、ビー玉は自分のちからで外にはいけない。
塞き止めるものはとてもきつくて、子どものちからで取り除くことはできない。
 
子どもは思いついた。この透明な檻を壊してしまえばいいのだと。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
甘い蜜を求めて、男は闇の中でそっとその身を動き出す。
 
「っやぁ!!」
 
ぐぐっ、といささか乱暴に爪をたてられ、涙のような水滴が先端に浮かび上がると、それを塗りつけるように大きな手が全体を包み込んだ。
 
「あ、ああ……ぅくっん」
「早いですねぇ。もしかして痛いほうがお好きですか?」
 
昨日もその前も、ただ優しいだけの夜だったから、気付きませんでしたよ。
芝居がかったその台詞は、口に含んだ笑みとともに。
 
「こっの、ダ……ホが」
 
きつく握られては上手く言葉を紡ぐこともできない。
 
「ふふ、最初のときは震えているだけだったあなたも随分慣れたようで」
「なっ、……ぁあっっ!!」
 
ゆるりと、ねじり込むように手を回されて、痛みともつかない快感に白が爆ぜる。瞬間、蜜を手のひらですくうよう、再度先端を包み込まれた。
 
「少ないし勢いもあまりないから、ほとんど零れませんよ」
 
とくとくと注がれるそれを、男が肩越しに覗き込んで笑っている。あまりの恥ずかしさに目を瞑って首を振るが、男の口付けが目尻に落ちてきてもうどうしようもなかった。
 
「っふ……」
 
耳元で水の動く音が。頬がかっと赤くなる。……のまれた?
 
「ごめんなさい師叔、少し言い過ぎました」
 
でも、あなたがこんなにも甘いからいけないんですよ。男が蕩けるような息を耳に吹き込んで。
 
 
────いつまでもつ、甘さかも分からないのに。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 好きなんです。師叔。あなたが。
 なにをしてでも手にいれたい。あなたを包むものすべて剥ぎとってしまいたい。
 僕があなたをつれ出してあげます。その閉じられた世界から。
 
 
透明な檻がかん高い音をたてて崩れ落ちる。
甘い水の残りとともにビー玉は外に放られ、ころころと子どもの手の上へ。
 
光にきらめくビー玉はとても甘そうで、子どもの喉がごくりと動いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ぅ、ぐ……!」
 
左手の人差し指と中指で広げられた場所に、赤い舌が忍び込んでいる。水のはねるような音が直腸から腹のあたりまで届き、きゅ、と吸い込むように力を入れてしまった。
 
「いた……ぁ」
 
すぼむ形で縮こまったそこを、入り込んだ指先が無理に押し広げ。
 
「力、入れないで。もう分かっているでしょう?」
「っは」
 
声が戸口を震わせて、足にガクガクと痺れが伝う。うつ伏せに腰だけ上げさせられた自分の格好を思うと顔から火が出そうだが、一昨日も同じことをされたのだ。今更だった。
 
「足落とさないでくださいね」
 
覚悟を決めろという宣告なのか、せめて事前に伝えようとする優しさなのか、それは分からない。いや、もうそんなことはどうでも良い。──思考は熱に侵されるだけなのだから。
 
「あ、あぁあ!やっあん!!いやぁ!」
 
二本の指が内を擦り上げながら出入りするたび、無意識にひくひくとそこが動いてしまう。
 
「嗚呼……」
 
目を細めた楊ゼンのため息が、ふいに聞こえた気がした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 あなたと僕を隔てるものはぜんぶ取り除きました。
 大切に、大切にしてあげますから。
 ────甘く愛しい、僕の太公望師叔。
 
 
子どもはそっと、ビー玉を口の中へ入れてみる。……甘い!
その甘さが嬉しくて、舐めまわしたりはせず、舌に甘さが伝わるのをただ楽しむ。
 
ビー玉は、その慣れないあたたかさの中で、ひたすらに子どもの心を判じていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
男の大きな胸板を背中に感じながら、胸がつまるような不安におそわれていた。
この一時が終わればどうなるのだろう。明日も今日と同じ、この “また” が来るのだろうか?
 
「ようぜ……」
 
自分の身から甘さが消えてゆく!
掠れた声しかでないもどかしさに、喉が掻き毟られそうで!
 
「どうかしましたか?師叔」
 
腰を撫でながらの、気遣いだけを込めたその心地よい声。心を縛りつける声色で、明日この男はなんと言う?明日でなければ明後日、明後日でなければまた次、いつかこの男は必ずこう言うのだ。
 
 
 “忘れてください”
 
 
甘くない自分に用はないのだと、きっと笑顔で彼は言う。
 
「大丈夫ですよ。ね、ひとつになるだけですから」
 
涙が出るのは押し当てられた熱がこわいから、そう思いたくて。これ以上考えることをやめた。
 
「ふ、やぁ、あ、あ……!」
 
焼ききられそうに痛い。目の前のシーツにしがみついても、耐えきれないほどに熱い。腰にそえられた男の手だけが冷たくて、宥めるような動きに、そのやさしさに、また涙が零れる。
この涙は『現在』の涙。『未来』など思うことなく流れる涙。
 
「……よぅぜん……ッ!!」
 
気付けばもう、身の内が、男の熱でいっぱいだった。
 
「くっ……」
 
長い髪が背中に零れ落ちる。荒い息遣いが心臓の裏側に沁みこんで。
 
「……はぃ、った?」
「入りましたよ、師叔。ほら、ご自、分で、感じて」
 
言われるがまま、意識を男のものにだけ向けると、唾をのみ込む音が聞こえた。腰の添えられた手が急に、圧力を持つ。
 
「すー、す、今日はもう、手加減できません……ッ!」
 
声が、背中を離れた途端。
 
「え、やっ、あぁあああぁああっ!!!」
 
二日前とも昨日とも違う、容赦のない動きに、頭も心もついていけない。
 
「んっあ!あ!よぅぜ!や、んっ!」
 
舌の端からベッドへ、糸がつながれる。引っ込められずに突き出したままの赤が、乾いてざらつく。
 
 
できるならば、このまま殺してほしいとさえ、思った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 すーす、すーす、たいこうぼうすーす。
 あなたといると、僕はほんとうに子どもに戻ってしまう。
 大切にするといったのに、もう壊したい。
 壊したら真実に、あなたが僕のものになる。
 
 
ビー玉は逃げ出したかった。子どもの口はあたたかくて、とても心地よいものだったけれど。
自分は甘くなどない。甘いのは自分をかこんでいた蜜。
 
ああけれど。見捨てられるくらいならいっそ、地面に叩きつけて壊してほしい!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
しばらくして、子どもは、ビー玉の “ほんとう” に、気がついた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
気が、ついていたのだ。分かっていた。彼がなにを不安がっているのかも。
その不安に押し潰されて彼が壊れてしまうのならば、それも良いかと思ったのだ。
 
「僕に捨てられる『未来』を思いながら、あなたはこの『現実』に溺れて」
 
意識のない彼を自分の下におき、叩きつけるように侵す。
 
「自分を貶めて、最初は強がってもすぐに縋りついて」
 
このひとが望むのならば、何度だって何夜だって熱を与えよう。
決してその心が僕を信じてくれなくとも。
 
「そうして、僕はずっと、あなたに裏切られ続ける」
 
こぷ、と彼の内から白が零れ出た。
 
「あと何夜、僕は傷つけられる?──ねえ、太公望師叔」
 
僕が耐えきれずにあなたを壊してしまうのが先か、それともあなたが『未来』に壊されてしまうのが先か、今日もまた、このひとを抱きながら最後の夜に思いを馳せる。
 
「……楊、ぜん……っ……」
 
熱い内の肉に再度自身を打ち込むと、無意識の呼び声が小さな唇からあがった。
 
「ああ、師叔。あなたとの恋は、けっして甘くない」
 
それでも僕は、あなたを大切にしたいとも、守りたいとも思うのだ。
────この衝動の傍らで、貪るようなキスを贈りながら。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
七日後に子どもはビー玉をなくしたのだという人もいる。
甘くないそれが憎らしくなって、屋根から落としたのだという人もいる。
子どもの手のうちからビー玉が転がり落ちて、どこかへ消えたのだという人もいる。
 
 
そして、子どもはいつもビー玉をポケットに入れ、ずっと大事にキスを贈ったのだという人も。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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思ったより長くて自分がびっくり!楢葉です。
多分今までで一番長いえろです。えろ自体2年ぶりです。
 
昔、父にラムネのビー玉が欲しいと駄々をこねたことがありました。
瓶を割ってまで手に入れたビー玉は3日でなくなったっけ。子どもって残酷。
甘いかもと思って舐めたことはないですけどね(笑)。友人談の経験を参考に。
 
表に投稿したのと同じく、どう転ぶか分からないエンドにしたつもりなんですが、結局本心は最後の一文に出ちゃったと。
言葉は正直です。
 
 
 
 
ぬるいのか濃いのかさえ分からない……。
 






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