クリスマスの過ごし方
「裕太、今日は24日だけど帰って来れる?」
『クリスマス礼拝があるから無理だな』
学校の行事をさぼらせるわけもいかないので不二は了承した。
「そっか…なら仕方ないね。でも大晦日には絶対帰って来るんだよ?」
「ああ、考えとく」
何やら受話器の向こう側でこそこそと声が聞こえる。
裕太が誰かに受話器を手渡したようだ。こほんと軽い咳払いが耳に入ってきた。
「んー…」
ピッ
不二はためらうことなくケイタイの通話終了ボタンを押した。
「不二ぃ〜弟くんに電話?」
ケイタイをテーブルに置く不二を見ながら菊丸は尋ねた。
「うん。クリスマスは帰って来れないってさ。ちょっと寂しいかな」
「正月は戻って来んじゃないの?」
「あと一週間か…」
菊丸は構いすぎるから嫌がられるのではと心の中で思ったが、恐ろしくて口には出さなかった。
「菊丸たちはちゃんと食べてる?」
今年のクリスマスパーティーは菊丸の家で行われている。
24日はリョーマの誕生日なのでそれも兼ねてのパーティーでもあった。
去年は不二の家でやったのだが、その時も河村は寿司を持ってきてくれた。
「寿司、おいしいよ。ありがとう」
「もうバッチリ食べてるよん。タカさんありがとー」
残しておいたアナゴを食べようと菊丸はテーブルのほうを見た。
隣にいた桃城がアナゴをひょいと掴んだ。
「あ゛ー桃っ!俺のアナゴ〜!!」
菊丸の叫びも虚しくアナゴは桃の口へと消えていった。
「英二先輩、腹一杯なんじゃないんすか?だって越前が」
「俺、『食べないのかな』って言っただけっすよ」
「聞いてねーな、聞いてねーよ」
ギャーギャー言い争う桃城とリョーマに我慢できなくなったのか手塚が一喝した。
「お前ら、少しは静かに出来ないのか。菊丸の家に迷惑がかかるだろう」
「ぜーんぜん大丈夫!今日はみんな夕方まで帰ってこないもんね〜。つーか桃!俺のアナゴ返せよ!」
まったく気にしていない、むしろ本人が騒いでいるので手塚はそれ以上は何も言えない。
「む…無理っすよ〜もう食っちまったし」
「桃のバカー」
見るに見かねた大石は苦笑を浮かべながら菊丸を制止した。
「大石ー止めんなよ!今日って今日は許さないんだからな!」
「英二、アナゴなら俺のあげるからさ」
「そーゆー問題じゃない」
「桃も悪気があって食べたんじゃないから、そんなに怒るのは良くないよ」
「………」
「ほら機嫌直して」
大石はさも当たり前のように、寿司を菊丸に食べさせた。
もぐもぐと口を動かすにつれて、菊丸の機嫌も直ってきたようだった。
「へへっ、大石ありがと」
桃城とケンカしていたはずなのに、今は大石と菊丸の間に妙な空気が支配している。
バカップル…そんな言葉を誰かが呟いた。
腹一杯食べたところで、腹ごなしにどこかへ遊びに行こうと桃城が提案した。
どこへ行こうかと悩んでいると、乾が二つの場所を挙げた。
「ここら辺だとカラオケかボウリングあたりが妥当だな」
確かにこの付近となるとその二つに絞られてくる。
ボウリングと聞いて大石と乾以外は嫌なことを思い出した。
乾汁が大丈夫だった不二でさえ瞬殺された恐ろしい「青酢」のことを。
作った本人である乾もさすがにヤバイと思ったのか、あの日以来、青酢を見ていない。
「俺はボウリングが良いな」
ボウリング好きの大石の言葉に乾は鞄をゴソゴソを漁り始めた。
嫌な予感がする、隣に座っていた海堂はおそるおそる何をしているのか尋ねてみた。
「先輩…何探してるんすか?」
「ボウリングといえば『青酢』だろ?
持ってきやがった!
その場にいた全員が心の中で叫んだ。
乾はビンに詰めた青酢をテーブルに置いた。
「…俺は…カラオケのほうがいいっす」
普段自分から行こうとめったに言わない海堂がカラオケを提案した。
「おーマムシ!奇遇だな!俺もカラオケ行きてーな、行きてーよ」
桃城も顔を少し引きつらせながら賛成する。
「ボウリングも良いけどさ〜今日はカラオケが良いなぁ。大石はカラオケ嫌?」
「いや、皆がカラオケが良いなら良いけど。…越前はどっちが良い?」
「カラオケ」
即答だった。
不二、手塚、河村も賛成したため、カラオケに決定した。
移動開始とばかりに、片づけを済ませるとぞろぞろと玄関へ移動し始める。
「青酢…せっかく改良したんだけどな」
乾は残念そうに呟くとそれをしまおうと手に取った。
「乾。それもらっても良いかな?」
不二がにっこりと笑った。
「ああ、別に構わないよ」
乾は不思議そうな顔をしながら不二に手渡した。
「好きって訳じゃないのにどうして欲しいんだい?」
「ふふふっ、ヒミツ」
黒さを含んだ声に乾以外も一体それをどうするつもりなのかと気になったが、不二は笑顔のまま一切語ることはなかった。
2002.12.24
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