―――絶対負けない、負けられるわけがない


シングルス1


「勝者は跡部!敗者は手塚!」
「勝者は跡部!敗者は手塚!」

そうだ、俺が勝つ。

跡部はゆっくりと周りを見回すと、氷帝のベンチを見た。
岳人、忍足、宍戸、鳳、ジローがこちらを見ている。
…一人、足りない。
まだ、樺地は帰って来ていない。





S3の試合。
あの時、跡部は樺地を止めることが出来なかった。
結局試合は怪我のため、ノーゲームに終わった。
負けはしなかったが、勝ちもしなかった。
無念そうな樺地の表情が脳裏から離れない。

「跡部さん…試合に勝てなくてすみませんでした」
ぽつりと樺地が言う。
「樺地…痛かっただろ」
「…………」
試合が続けられないほど痛いはずなのに、樺地は黙ったまま首を横に振った。

「跡部さん、試合…頑張って下さい」
病院へ向かう前に樺地が言った言葉。
短い言葉の中に優しさが込められていて跡部は胸が一杯になった。





跡部はラケットを握り締めた。
今、跡部がすべきことは試合に勝つこと。
氷帝を勝利に導くこと。

跡部は不敵に笑った。

早く帰って来い、樺地。
この試合勝つから一緒に全国に行こうぜ。







「勝者は跡部!敗者は手塚!」
「勝者は跡部!敗者は手塚!」

跡部はパチンと指を鳴らし、ジャージを脱ぎ捨てた。
勝利宣言をすると氷帝の応援が更に盛り上がった。

この応援は樺地のいる病院まで届いているだろうか?
樺地に聞こえているだろうか?





試合開始の放送が流れる。
関東大会緒戦、青学と氷帝の明暗を分ける重要な試合が始まった。





2002.9.6

 

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