炎天下
鳳は一人歩いていた。
目を見張るほどの青い空と白い雲。
空を仰ぐと思わず一言呟いた。
「暑い…」
容赦なく照りつける太陽、アスファルトの熱。
昼を少し過ぎたこの時間帯は特にひどかった。
暑さのせいか、人通りがない。
「誰か誘ってくれば良かったな」
鳳は少し後悔していた。
じわりと汗が流れる。
新しいテニスシューズを見に出かけたはまでは良かったが、いまいち欲しいと思ったものが見つからなかった。
もし、誰かを誘っていたらこのまま遊べたのに…そう考えると今日はついていない。
「樺地誘えば良かったなぁ」
樺地ならきっと付いてきてくれたはず。
レギュラーの中でも鳳と樺地の二人だけが二年だから、話す機会も当然多い。
樺地の顔を思い浮かべると同時に跡部の顔も出てきた。
(いや、無理か。跡部さんと一緒に居そうだ)
学年が違うのにいつも居る二人。
何であんなに仲良いんだろうといつも不思議に思う。
きっと今頃、跡部の家でのんびりと過ごしているか、テニスをしているだろう。
そんな二人がちょっと…いや、かなり羨ましい。
(樺地と跡部さんのように俺も宍戸さんといつも一緒に居られたら良いのに)
汗を拭いながらため息をつく。
「はぁ…宍戸さんは今何してるんだろ?」
「あ?俺がどーしたんだよ」
…
……
………幻聴?
ゆっくりと声の方向に目をやると宍戸が立っていた。
「幻覚じゃないですよね?」
意味不明なことを尋ねると宍戸は訝しげに鳳を見た。
「バカじゃねーの、俺は俺だろうが」
宍戸は鳳に近付く。
「し…宍戸さ〜ん」
「うわっ、長太郎!?」
勢いあまって抱きつこうとした鳳は宍戸を巻き込んでその場に倒れた。
「ったく、気をつけろよな。イテェだろ」
宍戸は近くにあった公園の水道場で擦りむいた腕を洗う。
あんな激ダサなところを人に見られたらどうするんだよと文句を言った。
「すみません…」
「あーそこまで気にすんな!そうだ、あっち行こうぜ」
ものすごく落ち込む鳳に宍戸は慌てて、ベンチのほうを指差して言った。
ベンチに座ると宍戸は鳳に何であそこを歩いていたのかと尋ねた。
鳳は買い物をしていたことを言う。
「俺は散歩してたんだ」
そう言うと宍戸は何とも言えない表情をした。
「宍戸さん、どうしたんですか?」
鳳は気になって顔を覗き込む。
「あー…散歩の途中で跡部と樺地に会ったんだ」
「あの二人は仲が良いですからねー」
やっぱり一緒だったんだと鳳は羨ましそうに笑った。
「アイツらにいつも仲が良いよなって冷やかしてやったんだよ」
「それで?」
「そしたらアイツらこんなこと言ったんだぜ」
『何言ってんだよ、お前も鳳と仲良いだろ。…まあ俺たちのほうがもっと仲良いけどな、なあ樺地?』
『ウス』
「俺らもアイツらみたいに仲良く見えんのかな?」
「そう見えてたら俺はうれしいですけど」
宍戸が照れ臭そうな顔をして呟く。
「でも確かに俺、長太郎に会いたいなって思ってて…その、今日は…ついてたと思う」
自分に会いたいと思ってくれていたことが嬉しくて鳳は宍戸を抱きしめた。
「んなっ、何だよ!?」
「宍戸さん、俺も宍戸さんに会いたかったんです!いつも一緒に居たいんです!」
「………」
黙ったまま鳳の話を聞いた。
しばらくして鳳は我に返ったのか慌てて手を離す。
「わっ、すみません!俺…嬉しくて」
宍戸は「ちょっと待ってろ」と言い残すとその場から離れた。
鳳は怒らせてしまったのだろうかと心配になる。
一分、二分、三分と時間が経過するごとに不安が大きくなっていく。
短い時間なのに長く感じるのは宍戸を待っているからだろう。
何しに行ったのだろうと鳳は辺りを見回す。
遠くから宍戸が歩いてくるのが見えた。
「宍戸さ…」
「ホラ、俺のオゴリ」
鳳に向かって何かを投げた。受け取ってみるとそれはコーラだった。
「あ、金払います」
「だから、今回は俺のオゴリって言ってんだよ」
今回は…
今回ってことは次回があるんですか?
「次回は長太郎のオゴリだからな」
「はいっ、次が楽しみです」
鳳は大きく頷いた。
END
2002.8.28
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