メール


氷帝学園テニス部。
普段と変わらない練習風景に見えるが、決定的に違うものがあった。
部長である跡部が一言も発していない。



原因は分かっている。
休憩中、跡部は携帯を取り出すと今朝来たメールを見た。
 『風邪を引いたので休みます 樺地』
今まで一度も休んだことのない樺地が風邪で休みなのだ。

具合は平気だろうか?
悪化していないだろうか?
心配がとめどなく溢れてくる。

聞きたいことが山ほどあるが、相手は病人。
なかなかメールを送れずにいた。
跡部は小さくため息をつく。

「何か色んな意味でコエーよ跡部の奴。ケータイ見ながらため息ついてるぜ」
遠くから見ていた宍戸は鳳に話しかけた。
「樺地が居ませんからね」
「早く樺地元気になってもらわないと跡部ずっと機嫌悪いぜ」
こっちが参るよな、と大袈裟に宍戸は肩をすくめた。

「でも跡部さんの気持ち分かります」
「何でだよ?」
「宍戸さんが学校休んだら心配で心配で…俺も跡部さんみたいになりますよ」
健康第一ですよと満面の笑みで鳳は答えた。
「あっそ…」
「本当っすよ!あ、ちょっと待ってて下さいね」
鳳は何か思いついたのか、部室へ走っていった。





「跡部さん」
休憩を終え、コートへ向かおうとしていた跡部は鳳に呼び止められた。
「何か用か?」
「樺地に届けてもらいたいものがあるんですけど」
鳳は跡部にプリントを差し出した。
帰りに用があって自分は届けに行けないからと鳳は苦笑した。
「良ければお願いしたいなぁ…と」

鳳は自分に気をつかっているのだろう、跡部は即座にそう思った。
同じクラスの鳳なら明日の朝でも樺地にプリントを渡せるはずだからだ。
だが、これで樺地の家へ行ける口実が出来る。
「仕方ねーな。届けといてやるよ」
「ありがとうございます!じゃあベンチに置いておきますね」
ベンチへ向かう鳳の背に跡部は小さく礼を言った。







放課後、跡部は樺地の家へと向かった。
いつも跡部の背後で聞こえる足音が聞こえない。
それだけで悲しい気持ちになる。
一人だったせいか、いつもより早く着いた。
突然来るのは迷惑だろうかと思いながらチャイムを押す。
出てきたのは樺地。
樺地の顔を見てホッとしたのか、跡部の顔に笑顔が戻った。

 

「よお、俺様がプリント持ってきたぜ」
跡部は樺地にプリントを渡した。
「わざわざ…すみません」
樺地は頭を下げる。
「風邪の具合はどうだ?」
「だいぶ良くなりました」
額に手を当ててみると、熱は下がったようだ。

「ところで、お前一人なのか?」
本人が玄関に出てきたということは誰もいないのだろうか?
樺地は首を横に振る。
「窓から跡部さんが見えたから…」
その言葉に跡部は気恥ずかしくなる。
「……何言ってんだよ、そんなことよりもさっさと風邪治せ」
「ウス…」

跡部は携帯を取り出すとメールを打ち始めた。
その光景をぼんやりと見ていた樺地に跡部はくすりと笑う。
「よし、送信っと…じゃ俺は帰るからな。あとで携帯見てみろ」
樺地が頷くのを確認すると跡部は家を出た。





「もう少し樺地の家に居たかったけど、風邪だからしかたねーよなぁ」
ため息をつく跡部だが、その表情は笑顔だ。
「…それにしてもスゲー恥ずかしいことしちまったかも」
さっき樺地に送ったメールを見返した。

『樺地が好きだから少しでも長く傍にいたい。早く元気になれよな』

メールの着信音が鳴った。
送信者は樺地、跡部はメールを開く。

「………!」
一気に頬が熱くなってくるのが分かった。
送られてきたメールを保護すると携帯をポケットにしまった。
「バーカ。俺よりもお前が恥ずかしいこと言ってんじゃねーよ…」
跡部は樺地の家の方向を見ながらそう呟いた。





2002.8.11

 

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