―――青い空が目にしみた


ひとりじゃない


湧き上がる青学の勝利の歓声、だが向日の耳には何も聞こえなかった。
負けた。
ただそれだけが心を支配していた。
向日はがくりと膝をつく。
「岳人…戻ろか」
後ろから柔らかな声がした。
「そうだな」
振り返ることなく向日は立ち上がり、ベンチへと戻った。

「俺、トイレ行ってくる」
向日はポツリと言うとベンチから離れた。
今まで見たことのない表情にレギュラーたちは何も言えなかった。



「忍足、行ってやれよ」
「跡部?」
「本当にバカだな、ダブルス2で全てが決まったわけじゃねーんだよ。一試合落としたくらいで氷帝が負けると思ってんのかよ?…なあ樺地?」
跡部は後ろにいる樺地をちらりを見るとにやりと笑った。
「ウス」
樺地も力強く頷く。

「俺らが勝てばそれで良いじゃねーか。こんなところでへこむなんて激ダサだぜ」
宍戸と鳳はベンチから立ち上がり、ラケットを手に取った。
「勝ち進めば監督だって俺らに何も言えねぇよ。だからさっさと行け」
跡部はニヤリと笑うと忍足に促した。
「ほんま…おおきにな」
その言葉を残して忍足は走り出した。







「岳人!」
向日の姿を見つけ、呼んでみたが何の反応もない。
忍足は駆け寄ろうとした。



「俺のせいで…俺のせいで負けちまったんだよッ」
向日は近付く足音をを制止させるように大声で叫んだ。
「足引っ張ってゴメン…侑士まで巻き込んでさ。俺とペアじゃなかったら負けなかった…」
「何言うてんねん!」
さっきとは違った強い口調に向日は驚いた。

「俺たちはダブルス専門や。俺だっていつもよりサポート出来んかったんや。お互い様やないか!それにな…俺は岳人以外と組みとうない」
忍足は一呼吸置いて話を続けた。
「俺らの努力は一回負けたくらいで消えるようなもんやったんか?」
「違うッ」
向日の完全に否定する言葉を聞くと忍足はにっと笑った。
「なら胸張りや。そんな辛気臭い顔してたら運も逃げてくで?」

向日は忍足の言葉を聞いて、緊張の糸が切れたのか目から涙が零れた。
「侑士…勝ちたかったよ」
忍足は向日をくしゃりと撫でた。
「岳人、泣きたかったら今のうちに泣きや。ベンチに戻ったら応援しような。みんな心配しとったで?」
向日は小さく頷いた。
忍足は向日を抱き寄せて呟いた。
「俺も悔しいわ。…今度は絶対勝とうな。俺たちのテニスはこんなもんやない」







「お、やっと戻ってきたぜ。樺地?」
遅かったなとにやにやと笑う跡部に向日は頬を膨らませる。
「何だよ〜『やっと』ってさー」
「ほら、見てみろよ。アイツら」



0‐2、氷帝リード。



「お前らも早く応援しろよ」
いつもの嫌味っぽい声だけど、どこか優しくて。
胸が一杯になった。
向日たちは跡部の後ろのベンチまで走った。
忍足は向日をちらりと見ると、それに気付いたのか向日は笑い返した。

「よっしゃー、鳳ッ!スカッドサーブ決めろよなぁ」
声が届いたのか、鳳の表情が一瞬緩む。掛け声とともに、サーブを打つ。



15‐0



湧き上がる氷帝の歓声、向日の耳に心地良く響く。
「岳人」
隣から柔らかな声がした。
「侑士、もう大丈夫だよ」
向日は忍足の手をぎゅっと握った。





2002.7.24

 

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