キミにプレゼントを。


「観月さん、今日は遊びに行きませんか?」
ひとつ年下の後輩が提案したものはテニスと全然関係のないもので。表情こそ出さないが、観月は面食らっていた。
赤澤や柳沢たちが言うのならともかく、何故裕太が?
試合だって近いのにと観月は少し苛立つ。

「裕太君…キミだって分かっているでしょう?今はそんなことしている暇なんかないんですよ」
トゲを含んだ口調で観月は言う。
「明日からまた頑張ります。だから今日だけは…」

休みたいなど一度も言ったことがない裕太がそこまで言うなんて。
観月は少し考え込んだが、渋々了承した。
「んー、裕太君がそこまで言うのなら良いでしょう。その代わり、明日からちゃんとやるんですよ?」
「ありがとうございます!」
ぱっと笑顔を見せる裕太。観月は内心苦笑を漏らした。



(…僕はこの笑顔に弱いのかもしれないな)



裕太の兄である不二周助も笑顔がよく似合う。
でも、観月はどうも好印象を持てない。
笑顔の奥底に見え隠れする影があるからかもしれない。
観月は自分と同類のものを感じていた。
所詮、裕太も駒のひとつ。
そう思っていながらも何か惹かれるものがある。

馬鹿正直ほどの不二周助への想い。
天才の兄を持つ裕太は、憎しみと尊敬の入り混じった感情抱き、兄を超えようとしている。
初めて裕太と会った日もそうだった。
観月に負けたあの日、裕太は兄を超えたいと語った。

純粋な裕太は一番扱いやすかった。
優しい言葉をかければ、素直に観月の言葉を信じて疑わない。
観月は腕を痛める可能性のある危険なツイストスピンショットを教えた。
裕太の腕がどうなろうとも関係ない。
裕太は観月のシナリオの駒なのだから。



「じゃ、早く行きましょうよ」
裕太は観月の手を引いて歩き出す。
「は?」
思わず、間の抜けた声を出してしまった。
「えっ?俺、最初に観月さんを誘ったじゃないっすか」
「あぁ…そうでしたね…でも、どこへ行くんです?」
「行ったら分かりますよ」
イタズラっぽく笑う裕太。観月は裕太の笑顔の意味が掴めなかった。





着いた場所は普通の喫茶店だった。
「……ここですか?」
店内を見渡しながら観月は尋ねる。
女の子が喜びそうな可愛らしさがあって観月は呆気にとられた。
二人は角の席に着いた。

「ここのケーキ、美味いんですよ」
機嫌よさそうに裕太はメニューを開く。
ショートケーキ、チーズケーキ、チョコレートケーキ…色々なケーキを見て観月は胸焼けをおこしそうになった。
「うーん…苺のショートケーキにしようかなぁ。あ、観月さんも何か頼んでくださいよ。今日は俺が奢るっすから」
「…じゃあ、裕太君と同じものにします」
裕太の意図が分からず、首を傾げたままだ。
裕太はそれに気付くと、もう少ししたら教えると小さく笑った。





ウェイトレスがケーキを二人の前に置いた。
「ご注文はこれで宜しいですね?」
そう言うと、にこりと会釈をして戻って行った。
苺がちょこんと乗った可愛らしいケーキと紅茶が二人の前にある。
裕太は観月の目を見てやっと口を開いた。



「観月さん、誕生日おめでとうございます」
「…え?」
思わぬ裕太のセリフに観月は目を丸くする。
「観月さん誕生日今日ですよね?これは俺からのプレゼントです」
そう言えば、今日は誕生日だった。
僕のために…?
どくんと心臓が音を立てた。

「俺、何あげて良いのか分からないから俺の気に入ってるここに連れてきたんすよ」
裕太は少し顔を赤くしながら観月に言う。
「…誰かを誘うのって観月さんが始めてなんです」
それがあまりにも可愛らしくて観月は笑い出した。
「んふっ、裕太君…それじゃあいつも一人で来てたんですか?」
「はい…」
さらに裕太は真っ赤になって俯いた。



「裕太君、ありがとう」
消え入るくらい小さな声で観月は言う。
「その僕のためにしてくれるなんて嬉しかったです。もしよければまた…」
「あの日…観月さんと会えて嬉しかった」
「僕もそうですよ」
動揺を抑えながら、観月は微笑む。
「俺…観月さんのこと……」
たどたどしい裕太の言葉。





裕太は、駒のひとつ。
それ以外の感情は必要ないのに。
何か特別な感情が観月の胸の中で大きく揺らいだ。





2002.7.24

 

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