うららかな午後の日差し。
窓から吹き込む柔らかな風。
そして、肩にずっしりと来る疲労感。
「…ふう…少し休むかな…」
先程まで睨めっこしていた書類から顔を上げ、そう呟いた。
【ある日の午後に】
広い教団施設の中にある、主の部屋。
その部屋の前でクレイスは立ち止まった。心持ち背筋を伸ばし、ドアを軽くノックする。何故か異様に緊張するこの一瞬。
………………………。
しかしノックへの返事は無く。
「…? 失礼します」
いらっしゃらないのだろうか。
そう思いながらもドアノブに手をかけた。
小さなドアを開けたその先には、ガランとした部屋。書類が積まれている執務机。だがそこに座っているはずの主の姿はやはり無い。
少し残念に思いながらも部屋に入り、報告書を机の上に置こうと少し歩を進めた時。
ソファの上に白いものを見つけた。
「あれは…」
とりあえず、と手に持った報告書を机の上に置き、何故か足音を消して歩み寄る。
向けられた背から伸びる白い鳥類の翼、体を覆う様に広がる白いマント、帽子から覗くのは黒くて短い髪。主に間違いない。
更に近付くと、背もたれの方に向いていた顔が寝返りと共に上を向いた。
起こしてしまったかと内心慌てたが起きる気配は無く、すやすやと気持ち良さそうに寝息を立てている。
「テリオス様…?」
声を掛けてみるが、やはり起きる気配は無い。何を思ったか、吸い込まれる様にして隣に腰を下ろした。もちろん振動を与えないように、そっと。
まじまじと顔を覗きこんでみると、その寝顔は安らかで酷く幼い。臥天使として振舞う普段の主からは想像も出来ない様な表情。見た目だけで言えば歳相応なその寝顔に、クレイスは思わず笑みを零した。
その場に彼の弟子が居れば、思わず仰け反ったかもしれない程優しい微笑を。
「…へぇ、君もそんな風に笑えるんだね」
不意に掛けられた幼い声。
はっと我に返ると、先程まで閉じられていたはずの瞳と目が合った。まだ眠たそうにしているが、口元は持ち上げられ、微笑を結んでいる。
「!! 申し訳ありま…」
慌てて腰を上げようとすると、その服の裾を主の手が掴んだ。
「いいから…そこに居なさい」
「いえ、しかし…」
眠たそうに瞼を擦りながら、もぞもぞと上に移動する。その先には中腰で焦るクレイスが居るワケで。
半ば強引に座らせられた彼の膝の上に、ぽすっと小さな頭が乗った。
いわゆる膝枕という状態。
「てっ…テリオス様!?」
「ふふ、やはり枕があると寝やすいね」
満足そうに笑う主とは対照的に、クレイスの焦りと緊張の度合いはあっという間に跳ね上がった。
情けない事に上ずりそうになる声を抑えながら口を開く。
「ま…っ、枕でしたらすぐにお持ちしますが…」
「そんなもの要らないよ」
「しかし」
枕をお望みだったのでは…?
スパリと言われた言葉にクレイスは正直困惑した。そのまま硬直する彼に、主はクスクスと笑い始める。
困惑したままの顔で疑問符を浮かべる彼に向かって、そっと伸ばされた手。
それは優しくクレイスの頬に触れて。
「君がいいんだ…」
とろけそうな微笑を浮かべながら、囁く様に言う。
色々な事に先程までの困惑も忘れて、思考が真っ白になってしまった。頭が混乱する。そのせいで更に硬直し、遂には絶句。
「…僕の傍に居ておくれ、クレイス…」
顔を真っ赤にしてピクリとも動かない彼に苦笑しながら、主はそっと瞼を閉じた。
「……仰せのままに…」
出ない声をやっと絞り出した頃には、膝の上の主は眠りに落ちていた。
天使の寝顔で、すやすやと穏やかな寝息を立てながら。
…あぁ、情けない…
そう思いながら、クレイスは柔らかな風が吹き込む窓の外を眺める事にした。
このまま見ている事など、出来そうにないから。
クレテリなのかテリクレなのか、よく分らん事になってしまいました。
しかもクレイスが見事にヘタレて…orz
でも後悔はしてません。膝枕ネタが書けてむしろ満足です☆(爽笑)
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