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先刻まで談笑しながら水を飲んでいたはずなのに、いつの間にかギルに抱きついていて、ギルの腕に包まれていて。
あぁ、顔が熱い…
「ギル…」
何だかフワフワとした感覚にまどろんでいた。
見事に赤くなっているだろう顔を見られるのが非常に癪で、ずっとギルの肩に顔を埋めていた。ふと、少し開いている服の襟の間から、何やら赤いものが見える。
「ん…その赤いのは何だ?」
「赤い…? ってレイジ! 何してんだよ!?」
慌てふためくギルの抗議を聞き流して襟元を開いてみると、少しそのカタチが見えた。
…文字…?
冷水を浴びたかの様に、まどろんでいた意識が戻って来る。
「そっ…そんな大胆な…」
「ギル」
「ん?」
困惑気味なギルの瞳が覗きこんでくる。
真っ赤だろうが顔の事なんてもうお構いなし。俺の意識は既に文字へと全て傾いていた。ギルの目を見据え、何故かすんなり出た命令口調で浮かんだ言葉を形にしてみる。
「服、全部脱げ」
我ながらとんでもない発言をしたものだ。そう思ったが、やはり目の前の文字が気になって仕方なくて。
ようやく理解が追いついたのだろう。ポカンとした表情で俺を見ていたギルの顔が、一気に赤くなり、一瞬で青くなった。
「…は!?」
ギルの困惑した表情なんてお構い無しに、コートのベルトに手をかける。さっさと取り外し、青いコートを放り出して…
そこにきてやっと、ギルが思い出したかのように行動を始めた。
「え、ちょ、レイジ!? 待て! 落ち着けって! 早まるな―――!!」
「うるさいッ」
力一杯抵抗するギルをもろともせず、上着を脱がしにかかる。
それから数分。
抵抗空しく上着を全て引っ剥がされたギルは呆然と俺を見ていた。しかしそんな様子も目に入らず、俺の視線は赤い文字の字面を辿っていく。
指差し確認しつつ、一つ一つ声で言葉を紡いでいく。
「ギ、ル、へ…?」
「へ?」
赤い文字を体に持つ本人は、今始めて文字の存在を知ったらしい。間抜けな声を上げ、俺と同じ様に文字を追い始める。
『ギルへ
あの寝言はどうかと思うわ』
赤いインクか何かで、そう書かれていた。
「あの、寝言?」
この筆跡は…もしかしてヴィディアか…?
すると同じ事を思ったのだろう。ギルが顔をこれまでにないくらい真っ赤にして、誰に言うでもなく叫び声を上げた。
「…ッ、何を…何を聞いたってんだヴィディアぁぁぁ――――ッ!!」
この時の酷く狼狽して取り乱したギルヴァイスの顔ときたら。俺は一生忘れる事なんて無いと思う。
ギルヴァイス、追い剥ぎに遭う。(違)
押し倒すのは何でもないクセに、押し倒された時は慌ててるといいなぁ。
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