ユーニ様の脅しに屈して執務室を追い出されたものの、まだ部屋には個人的に持って帰った仕事があったりする。とはいえ優先度が低いものだから、空いた時間に少しずつやっている程度だ。
「いい機会だし…この際やっちまうか」
 そう思い直して扉のノブに手をかけて引っ張る。
「遅いじゃない、ギル!」
 幼馴染の少しイラついた声が室内から飛び出してきた。
 まさかと思ってよく見ると、部屋の中央に置いてあるテーブルに着き、ヴィディアが座っていた。
「…悪ぃ、部屋ミスった」
 思わず反射的に扉を閉めようと振り向く。
 すると。
 ガタンと椅子が動く音がして。間もなくコートの襟が引っ張られる感覚がして。何故か脳天に鈍い痛みが走った。
 …何で殴られてんだ、俺。

「で? 何で俺の部屋に居るんだよ」
 殴られたのはこっちなのに、何故か俺よりも数倍不機嫌そうな顔で椅子に腰掛けている幼馴染を見る。
「レイジに頼まれたから来てやったのよ!」
 つーん、と。そんな雰囲気で、ヴィディアは顔を斜め上に向けた。
 …レイジ…ッ、お前何処まで根回ししてんだよ…!
 ユーニ様に追い出されるのを分かって――って事は、俺が執務室に行くってのも分かりきってたのかよ。恐ろしいねー長い付き合いてのは。当人は記憶無くしてっけど。
 オマケに、よりにもよってヴィディアに頼むか、お前さんは。
「あ。ギルの部屋にあった書類、ぜーんぶフィリスとディールに渡しといたからね」
「……は!?」
 あー長い付き合いってのは恐ろしいよ、全くもって!
 しかもあの2人か…他にも色々任されてて、てんやわんやだろうに。
 書類を渡された瞬間の引き攣った顔が思い浮かんで、思わず苦笑を禁じえなかった。
「ちょっと、何処行くのよ」
「…寝る」
 やる事がすっかり無くなってしまった俺は、仕方無しに寝室へと足を運んだ。

「――で、さ」
 ベッドに横たわりながら、俺は深々と溜め息を吐いた。
「何で、俺が、お前に、膝枕されてんの…?」
 ヴィディアの膝に頭を乗せながら、チラリと幼馴染の様子を窺う。その顔は明らかに怒っていた。
「何よ、不満!?」
 ぷりぷりと怒りながらヴィディアが言う。
「いやいや、滅相もございません」
 気になるのは、何でそんなに怒りつつも膝枕をするのかって事。疑問に思考を支配されつつ、さっきのやり取りを思い出す。

 寝室に足を踏み入れると、ヴィディアがついてきて。
「膝枕でもしてあげるわよ」
 なんて言い出して。
 断ると大剣突きつけてられて。言った台詞が
「膝枕と死ぬのとどっちがいい?」
 ――だもんな。ハイ、回想終了。

 そんな行動は全くもって理解不能なんだよ、知略担当の俺としても流石にさ。
「脅してまで膝枕してくれようって慈悲の理由を知りたいワケよ」
 するとヴィディアは口を真一文字に結んで、俺を睨みつける。
 怖いって。マジでこのまま斬り殺されるなり絞め殺されるなりしそうだって。
「…レイジに…ギルに膝枕してやってくれって、お願いされたから」
「………」
 レ〜イ〜ジ〜! お前…鈍いにも程が…ッ!
 けど、これで合点がいった。どうしてヴィディアが怒りつつも膝枕をしようとしたのか。
 ヴィディアはレイジが好きなワケで。アイツに膝枕するならまだしも、何で俺に膝枕なんざせにゃならんのだーって事で。でも愛しの彼からのお願いはやっぱり断れないワケで。
 仕方無しに引き受けたのだろう…多分。腕っ節強くても乙女だなぁ…
「あ。一応ギルの心配もしてるんだからね」
 見事に取ってつけたなオイ。半分は本当だろうが半分ウソだろ。気に食わん、でいいよヴィディア。
「あー、はいはい。感謝してますよーっと」
「何よその言い方ッ!」
 軽いノリで返事をすると、右側頭部をズゴン、という衝撃が襲った。
 ついでに意識も吹っ飛んで行った。



何かと痛い目に遭うギルヴァイス。
彼は基本的に苦労人だといいなー、なんて。



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