レイジは記憶を失いながらも先頭に立ち戦い続けた。フィアー・カルテットのメンバーであるパージュ様、ユーニ様も仲間に加わり、戦力も随分と増強された。
 ジーナローズ様の復活はならなかったが、魔王城の奪還に成功し、悪魔達の士気も飛躍的に上昇した。ジェネラル・テンペストの元に、各地の悪魔達が集結しつつあった。
 このままいけば魔界を取り戻せる……はずだったのに。



【全てはお前の望むままに】


「ヴィディア…ヴィディア…」
 戦闘が終わってから、何度も何度も彼女の名を呼んでいる。スピリッツブレイカーに貫かれ、もう動く事のない幼馴染の体を抱きしめながら。
 再び魔王城に攻め込んだ人間達は、天使から授けられたという一本の槍を持っていた。 一度その刃で身を貫かれれば、悪魔でさえ転生が叶わない末恐ろしいシロモノ。
 彼女は…ヴィディアはその槍で討たれてしまったのだ。
 ようやく想いが通じ合った片割れを無くし、レイジは酷く嘆いていた。
「………許さない…人間共…!」
 ようやく前を向いたその瞳には、魔王城奪還に駆けずり回っていた時の輝きは無くて。
 俺ですらゾッとするような狂気を秘めていた。


 ――テラスで話した時のレイジは、少し平静を取り戻したようだった。
 けれど相変わらず殺意に駆られているようだったから。
「復讐なんかじゃ、お前の心は満たされない」
 そう言ってやった。もちろんレイジは驚いた顔をした。
「お前を満たす事が出来るのは、俺だけだ」
 狂気に取り付かれたのは…ひょっとして俺の方か?
 今まではとても口に出来なかった言葉が、つらつらと出てくる。まるで鬱積した想いをぶつけるかのように。
 主に忘れ去られてなお存在していた隠れ家。それはまるで俺の様だと思う。
 そうはなりたくなかった。忘れられるのは嫌だった。
 一度は記憶喪失で忘れられた俺。今度はヴィディアの死によって忘れられる…
 そんな事、耐えられない。
 だから。
「望むか?俺との永遠を…」
 願いにも似た思いで、レイジに言葉を送った。
 真っ直ぐな瞳が俺を見つめ返す。戸惑いながらも、真っ直ぐに。
「…永遠を俺にくれ、ギル」
 愛する者を失ったレイジは酷く弱っていた。俺の言葉に容易く乗ってしまうほど。
 それでも憎き者達への復讐を支えに立ち上がったアイツは、ゲートを突破し、天界へ乗り込んで大天使を倒した。
 だが、やはりというか何と言うか…それだけでは終わらなかった。
「復讐をすれば、心が晴れるものだと思っていた…でも…」
 レイジの心にかかってた霧が晴れる事は無く。『復讐』に覆い隠されていた狂気が顔を覗かせ始めた。
「どうすればいいんだ、ギル!?」

 …どうしようもねぇんだよ。
 俺じゃ、もう、どうしようもねぇんだ…

 ヴィディアなら、アイツを止められたかもしれないと思う。
 女ながらにギリング・ダストと呼ばれ、腕っ節も俺以上で、ぐいぐい物事を引っ張っていく馬鹿女なら。
 真っ直ぐに想いをレイジにぶつける事ができた、ヴィディアなら。
 でも、彼女はもういない。
「俺は…最後までついてくぜ」
 見ている事しか出来なかった俺から出たのは、こんなちっぽけな言葉だけ。


 人間はもう居ない。天使ももう居ない。
 今、この戦場に立っているのは……悪魔だけ。
「殺してしまえっ!」
 そう言って一人の悪魔が突っ込んできた。レイジの前に出、そいつを切り捨てる。
「ギルヴァイス、てめぇッ!」
「最後まで付き合うって約束しちまったんだよ。悪いな」
 ボロボロだった。天使を滅ぼし、人間を滅ぼし、大勢の悪魔を相手にして。
 パージュ様やユーニ様ももう居ない。レイジに斬り捨てられた。フィリスやディールももう居ない。使い物にならなくなった。
 今レイジの傍にいるのは俺一人。
 残りは全部……敵。
「まだ…まだ足りない…満たされない…」
 レイジはもうすっかり壊れていた。破壊衝動だけで、ここまで来た。
 でも、もう誰も居ない。天使も人間も悪魔も、逆らう者は全て切り伏せた。
 残るのは…そう…

 半狂乱で突っ込んでくるレイジの顔が見えた瞬間、予想した事態が起きた。
「…満足、したか?」
 体の中に冷たい物が入る感触。血の気が引く感覚。痛みと共に押し寄せてくる恐怖。
 かつての同胞に、部下に、ひたすら与え続けた死の影が、今俺を包んでいた。
 でも。
 レイジが満足ならば、それでいい。何を犠牲にしようと傍に居ると誓った。今更命なんて惜しくない。
「いい…んだ…」
 精一杯の笑顔を浮かべてレイジを見つめる。けれど反応は全く返って来ない。
「俺は…お前に、殺され…て……しあ…わ…」
 ああ、声が続かない。もう少し。もう少しだけ。
「こん…な、とき…まで……だんま、り、か…」
 それでもなお、レイジは反応を示さない。
 つくづくヴィディア馬鹿め。でもそんな奴に惚れた俺は…救いようがねぇな。
 心の中で苦笑しながら、掠れる声を絞り出す。
「……へっ、お前…らし…ぜ…」
 それでいい。お前はそれでいいんだよ。
 馬鹿みたいに真っ直ぐでいい。そんなお前に惚れたんだ。

 でもな。一言だけ、赦してくれるか?

「……あのよ、レイジ……」
 こんな事がなけりゃ一生言えないからな。最期くらい。
 少しでいい。ヴィディアの三分の一でいい。
 お前を想っていた野郎がいたって事、覚えておいてくれよ。
 こんな状況でしか伝えられない程馬鹿だったって事、覚えておいてくれよ。
 忘れられるのは…もう…嫌なんだよ。
 だから…だから…
 最後の力を振り絞って、囁く様に呟いた。

「愛…してたぜ……」

 全てはお前の、望むままに…

 俺の…いとし…い……

 …………



のっけから暗い話で申し訳ない。(苦笑)
でもEDのギルの献身さに思わず書きたくなってしまったので…
ここまで読んで下さってありがとうございました。



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