「もう用意しましたか?」
「ああ。そっちは…まだなのか」
「ええ…どうしたものかと…」
 クリスマスの準備に忙しいローテンベルグの町で、2人の男は茶を飲んでいた。
 1人の脇にはラッピングされた荷物が置いてある。
「はっはっは! 俺様が手伝ってやるぞー!」
 騒がしい声で、また違う男が1人現れる。
 そしてその手にはやはりラッピングされた包みが携えられていた。
「結構です」
「賢明だな」


 【僕らの撲殺寸前クリスマス 〜ルシフェル編〜】


 12月25日、クリスマス。
 世界のあちこちでお祝いモードに入る今日という日。
 そしてそれは幽霊船でも同じ様子で…
「メリークリスマス!」
 ぱぁん!とクラッカーが鳴らされて色とりどりの紙やテープが飛び散る。
「………」
 ドアを開けると同時にその洗礼を受け、呆然と向けられたクラッカーを見つめていた。
 そしてチラチラ視界に入る派手な部屋の内装に声も出ない。
「あら?ボーっとしてどうしちゃったの、ガウェイン」
 一向に動こうとしない事を不思議に思ったのか、サラは彼の目の前で手の平をヒラヒラと振ってみる。
 するとどこか遠くを見ていた目の焦点が合い、我に返ったようだった。
「姫、コレは一体…」
「クリスマスパーティよ。どうせなら思い切り派手にしようってラーが」
 あの人か…
 外見も中身も派手好きなラーを思い出し、ヤレヤレと溜め息を吐いた。
 確かにクリスマスパーティはしようと計画していた。しかしもっと質素なもののはずだったのだが。
「あ、ガウェインさん。メリークリスマス!」
 皿に取ったブッシュド・ノエルを食べながら、幸せそうな顔でカイトが歩いて来る。
「あーッ、もう食べてる! ずるいわよカイト!」
「ずるいって言われてもな…」
 理不尽な様だが、甘い物禁止令を律儀に守っていたサラには目に毒以外の何物でもないのだ。
「折角のクリスマスなのに〜…ねぇ、ガウェイ〜ン」
 キラリとサラの目が光る。この時を待っていた、とばかりに。
 おねだりモードに入った彼女は、これでもか!というくらいの猫撫で声を出しながら、つつつーっとガウェインの腕にまとわりつく。
「たまにはケーキ食べてもいいわよね? ね? カイトもそう思うわよね?」
「えーと…」
 ちゃっかりカイトに目配せをする。甘い物が好きな彼の事だ、今日くらいは味方についてくれるだろうと算段をして。

「今日くらいはいいんじゃないかな?」
 ビンゴなカイトの返答に、サラは心の中でガッツポーズをした。

「…今日だけですよ」
 ナイスなガウェインの返答に、サラは心の中で勝利の雄叫びを上げた。


『さーて、良い子の皆にサンタさんからのプレゼントだーぁ!』
 何処から持ってきたのかキンキラキンの黄金マイク(竜の彫刻入り)を手に持ったラーが、大音量で絶叫に近い声を出した。
 ジェフティがマトリクスギアを握り締めたのを、カイトが慌てて止めに入る。
 サラも目を丸くしながら、ラーのマイクに負けないよう声を張る。
「ちょっと、サンタさんなんて聞いてないわ! どういう事!?」
『ふ、よくぞ聞いてくれた! 幽霊船の良い子諸君に、大人たちからクリスマスプレゼントを贈呈するぜ!』
「知らないのも無理はありません。良い子たちには教えてませんからー☆」
 ラー様の素敵企画でーす!と、ビスタがノリノリで超巨大クラッカー(これも出現元は謎)を打ち鳴らす。
「…って、俺も子供の部類?」
 カイトが少々不満そうに呟いた。彼はこれでも17歳である。
『おう。ライカって保護者がいるからな!』
 ラーに大音量で言われ、カイトは恨めしそうにライカを見た。
 妙な流れで恨めしそうな視線を受ける罪無きライカは、恨めしそうにラーを見た。

『さーて、プレゼント贈呈といこうぜー!』

 ライカと同じく恨めしそうな視線を受けるラーだが、こっちは平然としていた。

「姫には私から。どうぞ」
「わぁ、ありがとうガウェイン! 開けてもいい?」
「もちろんです」
 ガウェインが頷くのを確認し、可愛い花の飾りがついたラッピングのリボンをサラはうきうきと解いていく。
「わー可愛い! ウサギのぬいぐるみね!」
 それは小さなものだが、毛並みも綺麗で縫製の丁寧な一品だった。
「色々考えたのですが…それくらいしか思い浮かばなくて。すみません」
「十分よ! とっても可愛いわ」
 またコレクションが増えるわね、と嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめた。

「テレーゼには私、ディーネにはビスタからよ」
「まぁ、ありがとうございます」
「わーい、私ももらえるの?」
「もちろんでーす。ささ、ドカーンと開けちゃって下さーい☆」
 それぞれ包みを受け取ると、嬉しそうに包みを開ける。
 テレーゼの包みには小さいが細かな細工のされたブローチ、ディーネの包みには猫のハンカチが入っていた。
「気に入ってもらえたかしら」
「はい…とても綺麗です」
 ブローチをまじまじと見ながら、テレーゼはうっとりと呟いた。
「ディーネのはネコさんだー!」
「すっごく可愛かったので、ディーネちゃんにと思ってー」
「ありがとう〜!」
 ディーネはしばらく考えた様子だったが、結局ハンカチを手に持ったぬいるぐみの首に巻いた。

「カイトには俺からだ。開けてみろ」
「あ、ありがとう…って重ッ」
 ライカから渡されたそれは、小ぶりな外見の割にずっしりと重い。そのせいか若干妙な予感が走ったが…
 ま、まさかな。
 気にしない事にして、カイトも包みを開け始めた。
「…えーと、なになに。『明快!ヴァリアントライセンス』って…」
 入っていたのはやはり本だった。それも教本。
 心の奥底に押し込んでいた予感は的中していた。
「それで勉強するといい」
「…どうも…」
 単純によかれと思ってなのか、あんまり捗らない自分への当てつけなのか…(多分前者だが)微妙な気分だった。

「…激しく嫌な予感がするんだけど」
 残る『大人』を見、ジェフティは奈落の底よりも深い溜め息を吐いた。
『はーっはっはっは! 我が愛しき弟には俺様からだぁ!』
「殺していいかな」
「わーっ、ダメだってジェフティ!」
 目の笑っていない爽やかな笑顔でマトリクスギアを握り締めるジェフティ。本気で殺りかねない雰囲気に、カイトは慌てて止めに入った。
『開けてみろーぉ!』
「………」
 物凄く嫌そうな顔で包みを受け取り、開ける。
 リボンを解き、包装紙を広げて…

「…やっぱ殺す」

 とてもとてもドスの利いた低い声で、我らがリーダーは呟いた。
「ふざけるなッ、ラ―――――!!」
『はーっはっはっは! 釜茹でにされたクラーケンの様だぞ、ジェーフティー!』
 マトリクスギアを手に猛烈なスピードでラーを追いかけるジェフティ。
 包みを押し付けられたカイトは、何が入っていたのだろうと中身を見る。
「うわ」
「何何、何だったの?」
 サラが興味津々で教えろとせかす。
「デカいペンギンアップリケのついたキャップとTシャツと半ズボンと靴下と靴」
「…イジメ?」
 さすがにこのフルセットは…と、周囲も苦笑を禁じえなかった。


 その後、ラーの頭には3段どころか5段くらいのアイスクリームが出来ていたという。




超自然に、ラー様ボコられ役決定★
色々怪しい所がありますが…ノリで読んでください。(おい)



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