12月25日。世間ではクリスマス。
 去年はそんなに意識してなかったんだけど、今年はちょっと…ね。

【僕らの撲殺寸前クリスマス 〜朔大付属高等学校編〜】

「ねぇ、クリスマスに予定入れてる?」
 授業が終わって、教科書を鞄にしまっているに声をかけた。
 多分アナタの事だから予定なんて入ってないと思うけど。
「別に入ってねーけど。どうしたんだよ、急に。
 やっぱり。
「エート、よかったら一緒に過ごしませんか〜? なんてネ」
 冗談めかして言ってみたけど…ヤバイ声が裏返りそう。
 フェミニストでならした俺が何てこと!
「まぁ…いいけど」
 少し考えた後、は頷いた。
 ヤバイ、俺ちょっと昇天しそう。

「よよよ? 何何、何の話〜?」

 ちょっと槌谷、アナタ何てタイミングで。
 狙い澄ました様な登場に、俺は思わず呆然とその顔を見た。
 いかんいかん、フェミニストでならした…(以下略)
「そうだ、槌谷も来るか?」
「「え?」」
 俺と槌谷の声がハモった。
 槌谷は意味が分からずに、俺は驚愕で、それぞれの顔を見る。
「クリスマス。一緒に過ごすかって話してたんだけど」
「なぬぬ〜ッ! 二見フライングバック禁止!」
「だから意味分からん事ぬかすな槌谷」
 呆れて言うだけど、俺にはハッキリと意味が分かる。
 嫌って程に。
「ゴメンゴメン。そだねーみんなで一緒に過ごそっか」
 嗚呼………泣きたい。

「せーんぱーい!」

 ガラッという音と共に後ろのドアが開いた。同時に発せられたやたらデカイ声が耳につく。思わず舌打ちが出た。
 …今日の俺はホントついてないな。
 槌谷ならまだしも、何であんなのまで出てくるわけ。嫌がらせ?
「高階」
「あれ、槌谷先輩に二見さんまでどうしたんですか。部活サボり?」
 俺は人知れず拳を握り締めた。
 最後のワンフレーズがコレ以上無いくらい挑戦的な調子で憎たらしい。
 犬のクセに。
「そうだ、お前も来い」
「はい?」
「なっ、ちょっ…」
 冗談デショ?
 槌谷ならまだしも、何であんなのまで…(以下略)
 ちょっと、本気?
「クリスマス。みんなで一緒に過ごそうって話してたんだ。お前も来いよ」
「ワンコもいざクリスマース!」
 そう言って槌谷が高階某にヒョロヒョロと絡みつく。
 ちょっと…槌谷。斉!
 アナタまで何やってくれちゃってんの!?
 よりによって何で、今、ソイツに絡むのよ。
「はい、先輩!」

 … 最 悪 。

 見事槌谷の存在をスルーして、ついでに俺の存在もスルーして、腹の黒い駄犬はに笑顔で返事をする。
 槌谷…さすがに恨むよ。つか呪うよ?


「まだ残っていたのか」

 ガラリと、控えめな音を立てて前からトーカイさんが顔を出した。
 あー…このパターン…もしかして…
「かのーセンセーはオンリークリスマス?」
「?」
 槌谷、それ意味違う。
 この先の展開を予想して、俺はヤレヤレと溜め息を吐いた。
「えーと…クリスマスを一緒に過ごそうという話をしていたんです」
「それは楽しそうだな」
「はい。叶先生も一緒にいかがですか?」
 あぁ、やっぱり…
 俺は思わず意識が明後日にトリップしそうになった。
 こうなったら大宴会にして、その隙に、こう…ねぇ?

「面白そうね。私達もまぜて頂戴」

「…秀真先輩にかいちょー」
 空きっぱなしのドアから覗き込んでいたのは、髪の長い美人と眼鏡で長身の先輩方。
 ホント今日に限って次から次へと…泣きたくなっちゃうよ俺。
 数分前の俺の勇気、是非とも返して貰いたい。
「生徒会もレッツ・ゴーバック! クリスマースいえー」
「だから槌谷、わけの分からん事ぬかすな」
「そうね、折角だから阿立君も…あぁ、菓も呼びましょ」
 と言って、携帯を操作し始める秀真先輩。
 あぁ…これは本格的に大宴会になりそうだなぁ…



「遅いなぁ先輩…」
 エプロンを外しながら、料理担当だった高階某がポツリと呟く。
 コイツの作ったモンなんて…と思ったけど、じゃあ作れと言われても困るから言わないでおいた。「意外と上手いんだ」とか言うの言葉もあって、だけど。
 どこでコイツの料理の腕を知ったのかが、ヒジョーに腹立たしいけど気になるトコロ。
 今度訊いてみましょうかね。

 ちなみに、折角だからと教室一つ借り切ったのはかいちょーと叶先生。飾り付けをしたのは俺と槌谷。呼び出し要員は秀真先輩。
 で、何故かはどっかにバッくれ。
 後は任せる、なんて無責任な事言ってくれちゃってさ。珍しい。
 呼び出された雑用君も、仁志さんもとっくに揃ってるのに。

 そろそろ来てくんないかなーと思っていたら、ガラッとドアが開いた。
「悪い遅れた」
 コレってロミ男の愛の力?
「遅いですよ先輩。時間厳守は優等生の必須事項です。たとえモドキでも」
「…だから悪かったつってんだろ」
 畳み掛けるような阿立の言葉にムッとした表情をしつつも、教室の中に入ってくる。
「「ムッとした表情も可愛いなぁ…」」
 小さく呟いた一言が誰かとハモって、思わずそっちを向いた。
 けど。

「何でよりによってオマエなの」
「それはこっちの台詞ですよ」

 ハモったのが高階と分かるや否や、俺の和やかな気分が粉々にぶち壊された。
 ホント…最悪。


「それで、一体誰を呼んできたんだ?」
 バッくれた理由を知っていたらしいかいちょーが声をかける。するとはそうでした、とドアの入り口を半分ほど開けた。
 姿を現したのは、眼鏡と長めの前髪が特徴の2年。
 このヒトってアレよね、出席日数足りなくてダブったってウワサの。
「朋臣君…!」
 仁志さんがビックリした様子で声を上げた。
 名前呼びって…俺と斉みたいなものなんだろうか。それとも…?
「ホラ大塚、入れよ」
 やはり間違いは無かったらしい。大塚がに促されて入ってくる。
 エー、いつの間にそんな親しくなってたんでしょうかね。
 最近急にの周りが賑やかになってきてて、ちょっくら俺ジェラシーというか何と言うか。認めたくないけど。

「さて、パーティ開始といきましょうか」

 いつの間にか主導権を握っていた秀真先輩が、ニッコリと開始の合図をかけた。



「せーんぱいっ」「ジュリエット」
 またハモった。開始以来もう何度目かの事に、声の主が容易に想像できて頭痛がする。
 いったい何なの今日は。
「あ、大丈夫か大塚」
 そして肝心のジュリエットは俺らスルーで大塚に声をかけて。
 何だか顔色が悪いし、優しい彼が心配するのは当たり前なんだけど。
 せ、切ない…

「そろそろ帰るか?朋臣」
「ああ…すまない、

 ………え?

 と、とも…え?

 ナチュラルに出たあの単語はどういうコト…!?

 さっき聞いた話では、仁志さんは大塚と幼馴染だっていうし、それも分かるけど。
 の場合は…ねぇ?
 関わりどころか、ついこの間まで大塚の事なんて全然知らないって風だったのに。
 なのに今や苗字呼びデフォルトで意外と優等生な彼の名前呼びって…
 しかも大塚が“”って。どーいう事よ!?

 ひ、一つの可能性しか思い浮かばないんだけど。

「すみません、帯刀先輩。俺、大塚を送ってきます」

 ねぇ、ジュリエット。

「そうだな。その後はどうする?」

 聞きたくないけど、でもやっぱりご説明願いたいんですけれども。

「えと…そのまま帰ります」

 ちょ、大塚! さり気なく手ぇ握ってるし!
 え、振りほどかない? 振りほどかないの

「じゃ、そういう事で」
「えーっ。ジュリエットはもうベランダでロンリークリスマス?」
「悪いな」
 そう言って、は大塚を連れて教室を出て行った。
 視界の端のデカイわんこも身動きが取れていないようだった。
 槌谷は残念そうにヒョロヒョロ揺れていたけど、生徒会メンバーに慰められている。

 …恋人つなぎってありえなくない?
 コレって…俺の想像通りでよろしいんでしょーか。
 コレって…もしかしなくても俺フラれてる?
 ねぇ、ちょっと。―――――!?


 知りたくないとは思いながらも、俺は後日色々な件を問い質そうと心に誓ったクリスマス。
 はぁー…何でこうなるのかなぁ。




槌谷のニセモノ臭全開の初クロックになりました。
全員頑張ってみたけど、やっぱやめときゃよかったかな…orz
で。ボコられてないけど、二見さん精神的フルボッコ食らった感じに。
ごめんよ、君が嫌いな訳ではないんだ…! というかファンの方ごめんなさいッ!



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