「何なんだ、こんな時に」
ブツブツ呟きながら、ベイル・ペレンデールは廊下を歩いていた。
「全く…ヤツの考える事は分からん」
ヤレヤレと溜め息を吐きながら、ルビエル・ビックホーンは副官兼愛娘のリプサリス・サファイアを連れて廊下を歩いていた。
「…一体何事だろう…」
急な呼び出しにハラハラしがら、クレイス・ラディオンは廊下を早歩きしていた。
そしてその後、彼らはとある部屋の前で鉢合わせする事になる…
【僕らの撲殺寸前クリスマス 〜プロデヴォン教団編〜】
「ようこそ」
ドアを開けた部屋の主は、ニッコリと笑顔を浮かべて待っていた。
部屋の主はテリオス・セントギルダ。その隣にはちょっとした大きさの袋が置かれている。
一瞬にして、ベイルとルビエルの顔が渋いものに変わった。
「わざわざ呼びつけて何用だ」
「その顔、どうせロクな事を考えていまい」
「おやおや…酷いですね。精一杯天使の笑顔とやらをしてみたつもりなのですが」
その笑顔が胡散臭いのだ、とはルビエルの談。
その言い回しがわざとらしい、とはベイルの内心。
「あの、テリオス様。何の御用でしょうか」
剣呑な雰囲気を読んでか読まずか、クレイスが話を本題に戻す。
「そうそう。今日が何の日か知っているかな?」
「今日…ですか?」
クレイスは記憶を辿るが、らしいものは思いつかない。
というよりも、剣一筋テリオス馬鹿の彼に答えろという方が無理な話だ。
「まぁ、君はそういう事に関して独活【うど】の大木だからね…」
「…申し訳ありません」
「ふふふ、いいよ。その方が面白いし」
「………」
何処か釈然としないクレイスだった。
「いちいち焦らすな。貴様では年寄りの嫌味にしか聞こえん」
「せっかちな上に棘だらけですねぇ、ルビエル」
「黙れ早く用件を済ませろ。法天使もヒマではない」
1分でも早く戻りたいらしいルビエルは、ここぞとばかりに捲くし立てる。
普通の僧兵ならすくみ上がってしまいそうな状況だ。
「へぇ…法天使様は副官の着せ替えに忙しいご様子で」
テリオスの一言に、その場の空気が凍りついた。
「おい、テリオス…いくら何でもそんなデタラメを…」
「…貴様、何処でそれを!」
「………」
事実だったらしい。ベイルは軽くショックを受けた。
何だ。十審将というのは副官愛好家の集まりか?
レッド・ムフロンはグリシナにご執心(少し危ないオヤジモード入り)だし、テリオスも何かとクレイスをいじって楽しんでいるようだし。
ルビエルはマトモだと…マトモだと思っていたのに…!
「少し鎌を掛けてみたのですが…図星ですか」
「表へ出ろ、テリオス」
低い声でそうのたまう法天使様の手には、愛用の槍が握られていたそうな。
「…つまり、貴様が言いたかったのは今日が聖夜だという事だな?」
静かに怒りを滲ませるルビエルを押さえ込みながら、ベイルはヤレヤレとテリオスを見た。すると彼はコクリと満足そうに頷く。
「翼無き者の習慣では、聖夜には子供にプレゼントをやるそうだよ」
「はぁ…それで、我々と一体何の関係が…」
「だから、君たちに僕からプレゼントをあげようかと思って」
テリオスはニッコリと床に置いた袋を指差す。
その瞬間。
「あの…テリオス様。いくら何でもこの歳でそれは…」
クレイスは思い切り戸惑い、
「貴様、妙な事を企んではいないだろうな」
ベイルは思い切り疑いの眼差しを向け、
「ロクでも無い事を考えているのだろう。そうだろう。そうに違いない」
ルビエルは完全に警戒心を露にした。
「僕からすれば、君たちはまだ子供の様なものなのだけれど」
「「貴様を基準にするな!」」
珍しく、ルビエルとベイルの声がハモった。
「そんなおかしな物ではないよ。ホラ」
とりあえず、とベイルに包みを渡す。法天使の視線に圧され彼はガサガサと包みを開いた。
中から出て来たのは乾燥した何かの葉。
「茶葉か」
「そう。短気な君の為に、落ち着く香りの物を取り寄せたんだ」
君の副官は苦労してそうだしね、とクスクス笑う。
「そしてルビエルには…コレを」
「………」
ルビエルはやはり何処か訝しげに包みを開く。
中身は…
「貴様。どういう趣旨でこれを選んだ?」
「貴方に贈る物には悩んでね。儀天使殿に相談したのだけれど」
「儀天使…そうか………ラスイル――――ッ!」
バタバタ! バタン!!
物凄い勢いで部屋を出て行ったルビエルは、(テリオスの渡した包みを持ったまま)廊下を疾走しているようだ。
高いヒールの音がけたたましく遠ざかっていく。
「ルビエル様…!? し、失礼します」
そう言って、リプサリスも急いで部屋を出て追いかけていった。
「何を渡した」
「サンタクロースのコスプレ衣装」
そう言って、床に落ちていたカードをベイルに手渡す。
カードには"たまには副官と揃いの格好をしてみては?"と書かれていた。
恐らくリプサリスの物も入っているのだろう。
「…趣味か?」
「まさか。着せ替え好きにはピッタリだと思ったんだよ」
「ほとほと意地が悪いな…付き合ってられん」
ヤレヤレと溜め息を吐き、ベイル自身もドアノブに手をかける。
「だが…まぁ、茶葉の礼は言っておく」
「それはどうも。あまり副官の手を煩わせるんじゃないよ?」
ニンマリと笑みを浮かべるテリオスにベイルはもう一度溜め息を吐いて、部屋を後にした。
「…テリオス様。あれは一体何処で…」
何だか嫌な予感がしつつ口を開くクレイス。
しかし。
「さて、残る1つは君に」
あっさりと遮られ、包みを渡された。
「開けてごらん」
「…はい」
渋々ながらも包みを開ける。
そこには紺色のマフラーが入っていた。
「これは…」
「いい色のが売っていたから、この間買ってきたんだよ」
「街…ですか」
悪びれる様子も無く、主はコクリと頷いた。クレイスの体から力が抜ける。
い、一体いつの間に…!?
勿論テリオスの行動を全て把握しているワケではないが、姿を消そうものなら騒ぎになっているはずなのに。
「今年は特に寒いらしいからね。君に風邪を引かれては大変だ」
「はぁ…ありがとうございます」
こうい言われては、文句の言い様がない。
その冬、ベイルのイライラが落ち着いたと部下たちは驚き、クレイスのマフラー姿(戦闘の時以外)に部隊の者たちは不思議そうに首を傾げたという。
そして――ルビエルのサンタコスが見られたかどうかは…定かでは無い。
調子に乗って教団編とか書いてみました。すみません、口調とかうろ覚えで…orz
ちなみにボコられたのはラスイルです。ザ・とばっちり!(笑)
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