「聖夜?」
「はい!」
キラキラと、無垢な瞳を輝かせる白き翼の乙女。
「…本気で言ってる?」
実に疑わしげに――否、呆れた様子で聞き返す黒き翼の乙女。
結局の所、黒き翼の乙女は白き翼の乙女に押し切られるのだ。
【僕らの撲殺寸前クリスマス 〜魔界編〜】
「で、これは一体どうなってるんだ?」
あまりにも変わり果てた内装の城内に、魔界の視察から戻って来たレイジは思わず呟きを漏らした。
白の綿の様なものと赤と緑の飾りが壁を彩り、白いクロスのかかったテーブルには花が飾られ料理が置かれ…まるで何かの催し物の様だ。
「…俺が訊きたいくらいだよ、大将」
同じく呆然とするギルヴァイスも両手を上げて首を横に振る。すっかりお手上げ状態だ。
「ヴィディア…ヴィディアはどこだ…!?」
とりあえずこの状況を把握しているであろう、もう一人の幼馴染兼部下を探して視線を泳がせた。
「あ、レイジー!」
不意に嬉しそうな声と共に、後ろから何かが突っ込んできた。
その衝撃に思わずバランスを崩しそうになる。
「…ゆ、ユーニ…」
飛びついてきた人物を見るや否や、反射的に冷たい物が背中を走った。
反射的に。あくまでも反射的に。
「ユーニ様、これは一体…?」
「聖夜のパーティだって言ってたよ」
2人揃ってユーニが言った言葉を飲み込めずに固まる。そして理解すると思わず「聖夜?」と言葉がハモった。
んー、と指先でトントンと顎を叩きながら、記憶を手繰る様にして言葉を選び出す。
「サファエルが言い出したらしいけど。2人が帰ってくる前にってヴィディアが張り切ってた」
「…あの2人が…?」
「やっぱりヴィディアたちを探さないとダメっぽいな」
そんなギルヴァイスの提案に、レイジは迷う事無く同意した。
「あ、ギル、レイジ。お帰り」
巨大な皿をテーブルの上に置き、ヴィディアはくるりと2人に向き直った。
心なしか顔が楽しそうだ。
「ヴィディア…これは一体どうなっているんだ?」
「聖夜のパーティをしようって話になったのよ」
「それはユーニ様から聞いた。だから何で俺らが聖夜?」
悪魔が聖夜って何かおかしいだろ、とギルヴァイスは肩をすくめた。
もっともな言い分である。
するとヴィディアは少し視線を床に落とし、ボソリと呟いた。
「…サファエル、慣れない魔界で頑張ってるのよ。たまにはいいじゃないの」
その様子にギルヴァイスは、ほぉ〜、と目を丸くした。
「素晴らしきかな女の友情。しっかし…最初、一番サファエルを目の敵にしてたのは誰だったかね」
それは他ならぬヴィディアである。
あの戦いの中で、天使に対する不信感は誰しもが持ちうる環境はあったが。
それに加わって彼女には女の意地があったらしく、ギルヴァイスの記憶にはヴィディアが結構つらく当たっていた覚えがある。
それがまぁ…いつの間に仲良しになったのやら。
女ってのは分からんよ、と溜め息を吐いた。
確かにそうだな、とレイジも苦笑する。
「む、昔の事はいいでしょ! 何よ、2人とも!」
顔を真っ赤にするヴィディアを見、レイジもギルヴァイスも笑みを零した。
「レイジさん、ギルヴァイスさん、お帰りなさい」
不意にそんな声と、パタパタとこちらに向かってくる足音が聞こえた。
柔らかそうな白いスカートがフワフワと、くりんと巻かれた金髪がユラユラと揺れる。
「サファエル」
その姿を認め、レイジは思わず顔が緩む。
「あら? サファエル、手に持ってるのは何?」
そこには綺麗にラッピングされた包みが3つ。
ヴィディアと一緒にレイジとギルヴァイスも、不思議そうにそれを見た。
するとサファエルははにかんだ様に笑う。
「聖夜には子供にプレゼントを贈る習慣があるんです」
「それで配るための物を持っていたのか」
「いえ、その…」
レイジが納得顔で言うが、彼女は首を横に振った。
「…皆さんにはとても良くして頂いたので、この機会に感謝の気持ちを…と思って。受け取って頂けますか?」
一同、じーん。
あ、いけない涙が出そう。
ヴィディアは思わず天井を見上げた。
「ギルヴァイスさんにはコレを…」
「あ、サンキュ」
緑の包装紙に包まれた、縦長の箱を渡された。
重さといい大きさといい、何か酒っぽいな。これくらいだと…ワインとか?
いい勘をしていたギルヴァイスだったが、実際の中身は料理酒である。
嗚呼、天然天使サファエル。
「ヴィディアさんには、こっちを」
「…ありがと…」
花の飾りのついた、小さな桃色の箱を渡された。
許可を取って開けてみると、シルバーのブレスレットが入っていた。
「あの、実は私のとお揃いなんです…」
これからも仲良くして下さいね、と微笑むサファエルに、ヴィディアは思わず抱きついた。
女の友情ここに極めり、である。
「それで、あの…これはユーニさんに、渡したいのですが…」
カクン、と一同足の力が抜ける。
「ユーニ様に、って一体どうして?」
「カルテットの方にもお渡ししていて、その…」
「それは渡さないわけにもいかないな」
苦笑する、しかし微笑ましそうなレイジ。
おーい、それってお前さんへのプレゼント無いって事なんだぞー
サファエルの持っていた包みは3つ。ギルヴァイス、ヴィディア、そしてユーニ。レイジに渡す包みは無い。
が。
春爛漫笑顔満杯のレイジは気にする様子も無い。それとも気付いていないのか。
嗚呼、天然悪魔レイジ。
「それで、ですね、あの…」
心なしかもじもじした様子で、サファエルが口を開いた。
「レイジさんへのプレゼント…私、何を差し上げたらいいのか分からなくて。色んな方に訊いてみたんです」
健気に尋ね歩くサファエルを想像し、3人は思わずほんわかした気分になった。
「それで、その…レイジさんには…」
何故か顔を真っ赤にしてモゴモゴと口元を動かす。
「レイジさんには………私をプレゼント、という事で…」
ごはっ。
ヴィディアは思わず硬直し、ギルヴァイスは手に持った料理酒(本人は知らない)を取り落としそうになった。
何処をどうしたらそうなるんだ!?
だ、誰が吹き込んだのよソレ!?
心の中で叫ぶ2人をよそに、レイジはほんのり赤くなりながらも、ごく真面目な顔で。
「そうか、じゃあ早速…」
と、サファエルの帯に手を…
「って、何やってるのよレイジ―――!!」
「お前昼間っから何やってんだ―――!?」
ハッと我に返ったヴィディアとギルヴァイスによって、その手は止められたのだが。
「何考えてるのよイヤらしい! スケベ! 変態! 最ッ低―――!!」
ヴィディアの怒りは止まらずに、しばし放出され続けたという。
…彼女の拳と共に。
「しばらくサファエルと2人っきりになるのは禁止! 反省しなさい!」
ヴィディアがそう宣言して、サファエルを連れてドカドカと立ち去った頃。
頭に8段アイスクリーム、顔には無数の平手の痕と、レイジは見るに堪えない姿になっていた。
「あーあ…ホント、女の友情は怖いねぇ」
まぁ、公衆の面前で恋人脱がそうとしたお前さんの根性も怖いけどな。
そう心の中で呟きつつ地面に倒れたレイジに回復魔法をかけながら、ギルヴァイスは思わず苦笑した。
今回のボコられ役はレイジ。彼ははむっつりなんじゃないかと密かに思ってます。
サファエルにいらん事吹き込んだ人物も多分ヴィディアにボコられる予定。(爽笑)
書いといてアレなんですが、実はサファエルED見てなかったり…orz
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