…それにしても、よく飽きねーよなコイツ。
恭平は、隣でホラー映画にかぶりつくスナコを横目で見つつ溜息を吐いた。
恭平自身、その手の映画が嫌いではない。がしかし、やっと“そういう”関係になったのに、この状況は頂けない。
お互い色気云々から程遠い性格なのは自覚しているが、折角ふたりきりでいるのだから少しはこっちに意識を向けてもいいんじゃねーの、と、要は構ってほしいのだ。
…あぁ、集中できないわ。
スナコはテレビ画面から視線を外さないまま密かに激しく動揺していた。
大好きなホラー映画なのに内容が頭に入ってこないのだ。
原因は分かり切っている、隣にいるまぶしい生き物もとい恭平だ。
こんな風に二人で映画を見るのは初めてではないし所謂両思いというものになったのだと最近分かったのに、いや、だからこそか。
ふとした時に感じる視線が物凄く優しかったり、自分を呼ぶ声に今までに無い響きを感じる度にどうしようもなく恥ずかしくなって居たたまれなくなるのだ。
人はそれを照れと呼ぶ。
要は、仲を更に深めたい恭平と照れてガチガチのスナコとのせめぎ合いがずっと続いているのだ。
先に行動を起こしたのは勿論堪え性が無いほうで。「おい」恭平はスナコの腕をつかみ、自分へと引き寄せ抱きしめた。
「なっ、ななななな」スナコは置物のように硬直し口をぱくつかせるがお構いなしだ。
「いい加減慣れろよ、お前」苦笑しつつ腕の中で固まるスナコを見つめると、真っ赤になって瞳を潤ませている。
鼻血を噴かなくなったのは大進歩と言えるだろう。「なぁ、俺のこと好きか」そんな単語を口にする自分に驚きつつ、恭平はじっとスナコを見つめた。
いきなりの直球にスナコは更に固まった。
何とかこの状態から抜け出したかった。けれども、好きかと問い掛ける恭平の目があまりに真剣で、何だか泣き出しそうにも見えて。
だから黙って頷いた。顔を上げるまもなく恭平の唇が追い掛けるように降ってくる。
いつもならこれだけで気絶しそうに恥ずかしいのに、とかそんなことを薄ら頭の隅に思いながらスナコは恭平のキスを受け入れた。
遠くで映画の悲鳴が何となく聞こえているが、段々と遠ざかっていく。恭平の舌が歯列を割って入り込み、やわらかい肉が口の中で暴れている。
いつしか映画の効果音は全く聞こえなくなっていた。
ぎこちなく舌を絡め合い、唇を食む。どれくらいの間そうしていただろう、ふと肌に冷気を感じスナコはふと我に返る。
恭平の手がスナコの衣服を取り去ったのだ。瞬間つい先程までの行為が頭を駆け抜け、猛烈な羞恥心にかられる。
「やっ」慌てて服を引き寄せようとしたその手を恭平の手が止めた。「見せろ」勿論全力で抵抗する。
「だっ、だだダメですっこんなみにくいもの見」「きれいだ」遮られた言葉に手が止まる。
「きれいだし、俺は中原スナコが好きだから、見たい。つーか見せろ」
なにをアホなこと抜かしてやがるんですか、と言おうとしたのに、喉の奥に張りついて出てこない。
まただ、またこんな真剣な目で見るからだ。胸の中では相変わらず羞恥心が荒れ狂っていたけれど、スナコは根負けして手を緩めた。
恭平は少し笑ってスナコの衣服を取ると自分も服を脱ぎ捨てた。そしてひどくゆっくりとスナコを押し倒す。
人の素肌が触れ合うとこんなに熱いんだ、とスナコは熱っぽい頭で思う。
かたい胸板も、うなじにかかる吐息も、双丘を撫でる骨張った手も。
「あっ」敏感な頂を摘まれ、思わず声が漏れる。口を押さえたいのにもう片方の手はしっかと恭平に握られ叶わない。
恭平の唇が全身に落とされ、あらゆるところを触れられて、
逃げ出したいくらい恥ずかしいのにどこかでそれを望んでいるような自分が一番恥ずかしい。
そんなこと、口が裂けても言えないけれど。「ひぁっ!!」脚の間に長い指が触れ、また声が出てしまう。
「すげぇ、ぬるぬる」入り口をなぞった指が侵入し、スナコの中をかき回す。「あ、はっ、やっ!あぁっ!あんっ」ちゅくちゅくと響く水音が耳を打つ。
腰の奥から何かがぞわぞわと駆け上がってきて、スナコは必死で恭平にしがみついた。
「ごめ、俺限界」耳元で恭平の擦れた声が聞こえ、指が抜かれると間髪入れず恭平自身がスナコを貫いた。
「ああぁっ!!」熱さと圧迫感に悲鳴が漏れる。「すげー、きもちい」水音と共に繰り返される抽送。
「あっ、あっ、いぃっ、あぁんっ」自分もだ、と言いたいのに言葉にならない。
「すなこ」抜き差しを繰り返しながら乾いた声で呼ばれる。「すなこ、好きだ、すなこ」その声にお腹の奥がぎゅっと熱くなって。
「あた…くしもっっ…すきっ…あんっ、きょぅ、へ…」絞りだした声は、この人の名前をちゃんと呼べていただろうか。
意識が段々とどこかに昇り詰めていく。「ぅあ、締ま…っ、イクっ」
恭平が肌を粟立て、びくりと大きく震えた。
どれ程時間が経過したのだろうか。息苦しさに目を覚ますとスナコは恭平の胸にしかと抱き締められていた。
ゆるゆると記憶が呼び覚まされ、部屋の明るさやお互いが全裸でいることに思い当たり。
「いやぁぁぁ!あたくしったら、あたくしったら何て事ををを!!!」一刻も早く服を着たい、このままでは溶けてしまう。
なのに、この愛しくて憎たらしいまぶしい生き物は自分をがっちり抱え込み離さないのだ。
起こして文句を言ってやろうと顔を上げる。
目の前には伏せられた長い睫毛と形の良い薄い唇が規則正しく上下している。
その意外と幼い寝顔に毒気を抜かれ、スナコは溜息を吐いた。
相変わらずまぶしい事に変わりはないし、正直今も少し気後れしてしまう。
でも安心したような寝顔を見ていると何だか胸の奥が温かい気分になったので、
もう少しこのままでもいいかな、とスナコは恭平の頭を撫でて目を閉じた。