いつもの帰り道、スナコは急にあわてた顔で一言。
「あれ?あたくし学校に忘れ物した様です。取りに戻って来ますので、みなさん先に帰ってて下さい」
そう言ってスナコは一人で来た道をさっそうと戻って行った。
「なんか、よっぽど大事な物でも忘れたのかなぁ?」・・・と雪之丞。
「そうだよねぇ。朝からウキウキまっくすで、早く帰りたがってたのに」
・・・と蘭丸。
「まあ、俺等も早く帰ってスナコちゃん帰って来るまでに、パーティーの準備進めとこっか!乃衣っちもすぐ来るだろうし」
・・・と武長。
「別にいんじゃねー?すぐ帰ってくるだろうし、先帰ってても」
・・・と恭平。
そう、今日はハロウィンパーティー。スナコが一年の中で、一番楽しみにしている日である。4人は先に中原屋敷に戻り、せっせとパーティーの準備に取り掛かっていた。
「遅ぇっ!!誰の為にこんな怠いことやってると思ってんだ!?こっちは早く酒でも飲みてーんだよ!!」 恭平がいらついたようにまくしたてる。乃衣ちゃんを含めた皆が、まあまあっと恭平をなだめる。そこで武長が一言。
「でも、いくら何でも遅すぎない?もう8時まわってるよ。恭平、今から学校行ってスナコちゃん探して来てよ。もし入れ違いで帰ってきたら連絡するから」
「ったく・・・なんで俺が」 ブツブツと文句を言いながらも、恭平は一人でスナコを探
「おーい、中原スナコ居るかぁ?」
恭平がスナコのクラスの教室のドアを開けた。真っ暗な教室の隅には、一瞬幽霊が居たのかと思った。
「なんだ、ここに居たのか。早く帰んないと、管理人に閉められちまうぞ!みんなも待ってるし」
気を取り直した恭平がスナコに近づく。まぶしい光に気付いたスナコだったが、よほど大事だったであろう物が見つからなかったのか、そのまま制止している。
「オマエ本当にコワイな。何無くしたんだよ!?一緒に捜してやっから」
はぁーっと溜め息を吐きながら恭平がやれやれといった感じで、さらに近づく。スナコはボソリと呟いた。
「クラスのお友達とお揃いで買った、カボチャのストラップがなくなって・・・気に入ってたのに」
しょんぼりと俯くスナコに恭平は言った。
「そんなもん明日捜しゃいーだろ!みんな待ってんだよ!!」
「そんな物とは何ですか!?」
それから、しばらく口論が続いた後、廊下を歩く人の気配を感じた。恭平はスナコの口を掌で塞ぎ、耳元でそっと囁いた。
《静かにしろっっ!!管理人来ちまった。こんな時間に暗闇ん中、教室居んのバレたら怪しまれんぞ》
至近距離で、耳元で囁かれたせいか、スナコは気絶してしまった。
恭平はスナコの体を教卓の下に隠して、自らも隠れた。管理人らしき人物は、外側から一瞬だけ確認して、扉に鍵を掛けて去っていった。
ふぅー、バレなかった・・・と喜んでいる場合ではない。ドアは鍵が掛かって出られないし、気絶したままのスナコを背負って窓からダイブ・・・と言うわけにもいかない。
「どうしよう・・・?」
そんなこんなで、あれこれ考えを巡らせていると、スナコが寝言を発した。
「んー・・・カボチャ・・・無い・・・カボチャ・・・」
恭平はまた溜め息を吐いて、スナコの寝顔を見た。真っ暗な教室で、月の光だけが視界を保ってくれる。
月光に照らされたスナコの顔は、さらに一段と蒼白く見えた。恭平は何かに誘われるよう、無意識のうちにスナコの唇にそっとキスをしていた。
しばらくして、唇を離すとスナコは目を覚ましていた。呆然としながら、身体を小刻みに震わせている。 せっかく目を覚ましたのに、また意識が遠退く。
「おい、いい加減起きろよ」 両手で無理矢理、身体を引っ張り起こしてみる。
「なっ・・・何をするんですかっっ!!?」
我に返ったスナコは、さっきよりも激しく身体を震わせ、顔を背けながら小さな声で言った。それに対し恭平は
「オマエのせいで閉じ込められちまったんだろーが!!あーぁ、アイツら今頃楽しくやってんだろーな。ハロウィンパーティー」
忘れてた・・・!スナコはショックだったのか、また俯いている。ハロウィン出来ないし、カボチャのストラップ見つからないし、オマケにまぶしい生き物とこんなところで、朝まで二人きりで過ごさなきゃならないなんて・・・。スナコはがっくりとした表情でうなだれた。
「あー、もう暗くなんな!コワイから。こっちだって嫌なんだよ、こんな床でゆっくり寝れもしねーは、しかも寒いはで!!」
恭平は床に座り込んだまま、スナコの腕を引き寄せた。 スナコはバランスを崩し、そのまま恭平の上に覆いかぶさるように倒れた。しばらくの間、沈黙が続き
「す・・・すみませんでした」
スナコはなるべく恭平と目を合わさないよう、俯いたままそう言った。
「おう」
スナコは一刻も早く、恭平から離れようと身体を起こそうとするが、恭平はそれを拒み、スナコを抱き寄せる。
「ふーぅ、あったけぇー」
そう言ってすり寄ってくる。頭を擦り付けながら、まるで猫の様に。スナコがしどろもどろしていると、今度は首筋に唇を這わせた。軽くそっと触れる様に。「や・・・やめっっ!!」
スナコが怒りで叫びながら突き飛ばそうとすると、それよりも先に恭平が唇を塞いできた。
「っ・・・うっ」
無論、スナコは恐怖で力が抜けてしまい抵抗できない。先程とは違う、濃厚なキスに涙を浮かべ、ただ震えている。それでも恭平は止めなかった。舌を絡ませ、執拗に口の中を掻き回す。
唾液が交ざり合う、とてつもなく長いキス(スナコには長く感じられた)をしたまま、恭平はスナコの制服のファスナーに手を伸ばした。微かに唇が離れて
「気絶なんかすんなよ」
そう言って今度はブラウスのボタンに手を掛ける。 スナコは恐怖で動くことすら出来ない。白く滑らかな肌が露になった。恭平はスナコの首筋から耳たぶへと、優しく口付けをしながら、片方の手は肩から胸元へ滑らせ撫でるよう様に愛撫する。
「っっ・・・!!!」
スナコはか細く声にならない悲鳴をを上げ、反射的にびくりと身体を仰け反らした。その反応を見逃さなかったのか、今度は舌で先端を弄ぶ。
「んっっ・・・あっ・・・!!」
恐怖と羞恥心が交ざり合い、スナコは頬を薄紅色に染める。身体が火照って行くのが分かる。恭平はさらに手を伸ばし、スナコの衣服をすべて剥ぎ取った。華奢でしなやかな肢体が、すべて露になった。
次第に細く長く骨張った指先が、スナコの中を侵食し掻き乱していく。ぬるりとした生暖かいものが、恭平の指に絡み付く。スナコポロポロと涙を零しながら、懇願するが恭平は動くことを止めない。
「あっ・・・ん・・・ふ」
恭平は限界に達していたのか、スナコの中に自分自身を深く沈み込ませた。初めて体験する痛みに、スナコは身悶えた。いつの間にか自分から恭平の背中に回し、爪を立て喘ぐ。
「・・・・っつ!!・・・引っ掻くな」
恭平の背中にうっすらと血が滲む。一瞬、動きが留まったかのようだったが、再びスナコを抱き寄せ、執拗に掻き乱す。鼓動が重なり合い、湿った躰がさらに熱を増していく。
「ん・・・ふっ・・・・あぁ・・・・!!!」
スナコは身体をびくびくと震わせながら、回した手に一層、力を込める。
「!!!」
その瞬間、恭平はだらりと身体中の力が抜けた様、倒れこんだ。繋がった場所から、体液が交ざり合うのを感じた。
しばらくの間、沈黙が続いた。かろうじて服を着ることは出来たが、スナコは放心状態のまま、座り込んでいる。
そして、か細く呟いた。
「ど・・・どうして・・・・?」
恭平も俯きながら
「・・・・悪かったよ・・・って、謝って済むことじゃないか」
「酷すぎです!!あたくしがまぶしいの苦手なの、分かってて・・・!!!」
「だから謝ってんじゃんか!!」
言い争った後、スナコは震えながら
「ほ・・・ホントに死ぬかと思ったんですから!このまま溶けて朽ち果ててしまうかと!!」
「死ぬわけねーだろ」
恭平は後ろから、優しくスナコを抱き締めた。
「傍に居ろ・・・」
スナコはびっくりした様子で振り返った。恭平はしばらく黙りこくって、ちょっと目を逸らしながらも、照れた表情でぼそりと呟いた。
「好きだ・・・・・」
一瞬、スナコは何が何だか分からず、固まってしまった。この、まぶしい生きものがあたくしのことを好き?そんな馬鹿な・・・!!何かの間違いだわ。そうよ、聞き間違いに決まってる。
スナコはぶつぶつと独り言(?)を言うかの様、自問自答を繰り返す。
「オマエなぁ、全部聞こえてるから。って言うか、この俺がここまで言ってんだぞ!!」
「だ・・・だって理解出来ません。あなたの様な美しい人が、よりによって、あたくしなんかを・・・・・」
「そんなもん理屈じゃねーだろ!俺だってわかんねーよ。とにかく、気付いたらそうなってたんだから、仕方ねーじゃんか!!」
スナコはしばらく黙り込みながらも考えていた。まぶしいものは苦手。苦手なものはしょうがない。とても怖かったけど、嫌ではなかったことに気付く。好きとかは全く分からないけど、確かに心の何処かで、このまぶしい生きものにひかれていると・・・。
突然ガチャリという音がした。その後
「き・・・君たち何してるんだ?」
そこに立っていたのは 先生だった。
「ご・・・ごめんなさぁーい」
二人は一目散に走って逃げ出した。
「あー、疲れた。今日フケるか?アイツラもまだ家に居るだろーし」
「はい」
家に着くと、武長、蘭丸、雪之丞、乃衣ちゃんがリビングで眠りこけていた。 もう、起きなければならない時間なのに。お菓子の残りや、酒瓶がちらかったままだ。二人の気配に気付いたのか、皆が目を覚ました。
「もう、何やってたのよ!」 乃衣ちゃんが言った。それに続いて、皆が二日酔いのせいか、頭を押さえながら責め立てる。
「えっ・・・いや、あの・・・・捜し物してたら鍵掛けられちゃって」
恭平が答えた。
「うー、気分悪るっ!今日休むか」
蘭丸は言った。
「俺も・・・」
雪之丞も頷く。
「真面目な俺が二日酔いで学校休むなんて・・・」
武長も溜め息を吐きながら仕方なく同意する。
「じゃあ、パーティーやり直すか!オマエ、飯作れ!!」
恭平がスナコの方を見て言った。
「はいっ!!」
スナコはいつの間にか、微笑んでいた。
・・・《あれ?スカートのポケットに何か入ってる》「こんなところにあったのね!カボチャのストラップ」
スナコはウキウキしながら、キッチンで料理していた。