貴 く あ れ





どさり、と支えを失った体はベットに倒れ伏す。達した余韻に浸ることをせず、荒い息を整えようと肩が上下する。

「ひぁっ…!」

だがそんな努力虚しく、今まで膣に入っていたものが抜かれ、それが丁度イイところに擦れてしまい甲高い声が上がった。
膣に出された精液が、アメリカの雄が抜かれた時に流れ出てトロリと内腿を伝う。
その光景を直視してか、背後で唾を飲み込む音が聞こえた。

「ねぇ、イギリス。やっぱりもう一回…」
「駄目だ。明日は大事な仕事が入っている」

アメリカの強請りを即座にはねのけ、冷静な振りをする。
ここで甘い顔を見せればアメリカのペースに巻き込まれること間違いない。
…というか、既に何回か身を以て体験している。

「えー、いいじゃないか。まだ12時過ぎたばっかだぞ」
「良くない。明日は朝早いんだ。…大体、今日はヤるつもりはなかったんだ」

まだべたべたとひっついてくるアメリカを邪険に払い、ベットの端へ逃げる。
が、すぐに腕を掴まれ引き戻された挙句、アメリカの腕の中に抱き込まれてしまう。

「ちょ、こらっ、…放せ」

改めてウエイトや筋力の差を見せつけられ、悔しいことこの上ない。
このまま大人しくしてやるのも悔しい。情事のあとの倦怠感に苛まれる体に鞭打ってアメリカに抵抗するが、それもギュっと力強く抱きしめられれば意味を成さない。
力の差と…、認めたくない嬉しさに大人しくされるがままになる。
後ろから抱き込まれているかたちなのでアメリカの表情は窺えないが、髪に口付けている感触がし、…まぁ機嫌は悪くないようだ。
情事のあとのこういった空気は嫌いではないけれど流されて泣きを見るのは自分なのだ。
あくまで今日はこれ以上しないという決意を留めておく。
いつまでも強張っている体にアメリカは溜め息を吐き、耳元に唇を寄せてきた。

「ひっ!」

耳元はどうしても弱くかわいらしくない声をあげてしまい、後ろでアメリカが笑った。
じわっと顔が赤くなっていくのが分かる。アメリカには顔は見えないはずだし、ベットサイドのわずかな明かりしか付いていないこの状況では顔どころか耳まで赤くなっているのは分からないはず。
そこまで一気に考えて、考えすぎだ、ばか、と頭の中でぐるぐると仕様もないことが巡っている。
わかっている、これは流されないための手段だ。
よし、と一人意気込んでいるとアメリカにその考えが通じたのか密やかに笑われた。

「ねぇ、イギリス…」
「っ、…なんだ」

耳元で囁かれ、その吐息が耳を擽るのに声が上擦ってしまう。
わかっているくせに、否わかっているからこそ狙ってくるアメリカに腹が立つのだが、どうしようもない。
流されるな、流されるなと頭の中で反芻する。

「ほんとにもうシたくない?」
「うっ、…シたくない」

揺らぎかけた自分を叱り、より強く念じる。
流されるな、流されるな…

「あと一回だけ、駄目?」
「…ダメ」
「どうしても?」
「…どうしても」
「どうしても?」
「………一回だけなら…」

口からこぼれ落ちたのは全然違う言葉で、あぁもう最初の段階で負けてたのは認めるよ!
俺が降参した瞬間にアメリカは俺に覆いかぶさり、軽いキスをしてきた。

「イギリス」
「んだよ」
「愛してるぞ」
「っ…」

真面目な顔で真面目に言われて、そのあまりの精悍な顔つきに不覚にもキてしまい、それと同時に涙がこみ上げてきそうになった。
嬉しさだけでなく、自分の育ててきた弟を好きになってしまい、その挙句普通じゃない関係を持ったことに対する罪悪感で。
こういうふとした瞬間の大人びた顔だとか、それとは逆に幼いころを彷彿とさせる無邪気な笑顔によって偶に引き起こされるこの思い。
こんな関係になってから(悲しいことに)大分経つのだが、今でもその罪悪感が消えることなく、抱き合ってる最中のほんの一瞬だとかにも顔を覗かせるそれにどうしたらよいかわからなくなる。
己の中の常識的な部分が「溺れるな」と戒め続けているのに対し、今更という感じが拭えない。

こんな行いをしている自分がモラルだどうのこうの言ったって仕方ないのに。

「イギリス?どうかした?」
「んあ?」
「いや、なんかぼーっとしてるから…。もしかして眠くなった?」
「ちげーよ!いいからほら…、さっさとやれ。寝る時間がなくなる」

ムードぶち壊しだね…。
そう言って顔を顰めたアメリカにうるせぇと悪態をつき、不満そうな顔をしていたからしょうがなくキスを送ってやった。
文句いってる割にはしっかり食いついてきて、取り敢えず誤魔化せただろうか、なんて客観的に情事に臨んでいる自分がいて、でもアメリカの餓鬼くさい抱き方に理性を飛ばしてるのも事実で。
まぁ、客観的になるのは大抵こんな今更な罪悪感について考えてる時だけなんだけど。
せっかく誤魔化したのに、またアメリカに不審がられるんじゃないか?なんて考えてる自分はしがないモラルに囚われながらもこの関係に溺れてしまっているのだ、という結論もとうの昔に思い立った。
そういえば、アメリカにその結論を告げた日は大変だったのを思い出す。
『俺は君のことを本当に愛してるのに、君は違ったのかい?』なんてあまりにも一方的な言い分で、我ながら育て方を間違えたか、と思ったけど、何よりアメリカが泣き出しそうな顔をしていてあぁ、俺は何やってるんだろうって思った。
純粋に(邪な関係を望んでいるそれに対して適当なのか?)俺を愛してくれているアメリカに対して、最低の裏切りだと思う。
だから俺はもう二度とアメリカにこのことを言わない(言うつもりもない)。
だが、この考えを捨てるつもりはこれっぽっちもないけど。



「あっ、くぅっ…!」
「っイギリス…、もうちょっと力抜いて…」

一回中に出したから、と高を括ってお座なりに解してイギリスに上に乗ってもらったのは間違いだった。
あまり解れていないせいでイギリスもすごく辛そうだし、思いの外強い締め付けに自分自身も痛みに襲われる。
先の太い部分を何とか咥えこんだからその後は割とスムーズだったけど、やっぱり全部入れるにはまだ辛そうで、イギリスは俺の上で小さく震えていた。

「イギリス、大丈夫かい?」
「っ、平気、だからっ…」

誰がどう見たって平気そうじゃない。
何でそういう我慢するかなって思い、あぁ早く終わらせたいんだと思い至った。
無理矢理(っていうには大分乗り気だったけど)付き合わせてるから悪いなと思い、イギリスに腰振ってもらうのは諦めることにした。

「ごめん、体勢変えるよ」
「えっ、おいっ!」

ぐるん、と繋がったまま上下を入れ替えたせいで余計に咥えこんでいる部分に負荷がかかり、また息を詰める羽目になる。
喰いちぎられる、って表現が大袈裟じゃないくらいの締め付けについ眉間にしわが寄った。

「あっ…、もっ、きつっ…!」

俺よりも強い衝撃や痛みからイギリスの眼から涙がこぼれたのが見え、かわいそうだと思うのに、その表情に簡単に煽られている自分がいる。
フランスなんかにまだまだ餓鬼だといわれるけど…しょうがない、認めるよ。
じゃあ、餓鬼だから我慢できなくてがっついても仕方ないよね、なんてイギリスにとっては最悪極まりない言い訳を武器にそろりと腰を送る。

「やぁっ、あっ、あっ…」

まだ痛みはあるみたいだけど声に辛さは含まれてないから気にせず勝手に動く。
さっさと理性を飛ばしてあげなければまた下らない考えでこっちに集中してもらえない…なんて馬鹿みたいな危機感を持っているけど、実際さっきだってイギリスは考え事をしていたに決まっている。
イギリスはばれてないって思っているみたいだけど、あれで隠せていると思うなんて大きな間違いだ。
俺だってそこまで馬鹿じゃない。
ずっとずっとイギリスのことを見てきたのだから、何を考えているかくらいすぐにわかる。
まだこの関係について良く思っていないってことくらい。
様子を見ながら挿入していると大分イギリスの膣が緩くなってきたからイギリスの両足を肩にかけより深く繋がる。
こうやって抱くとイギリスのイイところに俺のが擦れるから、イギリスからはひっきりなしに甘い声が上がった。

「気持ちイイ?イギリス」
「ばっ、…いちいち、ぁ、きく…なぁっ!」

もちろんイギリスが感じていることなんてわかってるよ。
何より中の締め付け具合が変わるし、痛みとは違う生理的な涙が浮かんでるし。
だけどそこをあえて訊いて、それに恥じらう姿を見たいと思うのが男心だろ?
少し強く腰を打ちつければ抱えあげた足がびくりと震え、イギリス自身からも白いものが零れはじめた。
あぁそろそろ俺も限界かな。
もう少しこうしていたいけどイギリスに悪いしな、と思って抽挿を速める。

「ぅあっ、あっ、やぁ、…もっ、だめっ」
「ん、俺も、」

もう恥ずかしいくらい余裕なんてなく、イギリスの腰を掴む手に力を込めすぎてイギリスの眉間にしわが寄っている。
謝るように眉間に口付け、そのまま位置をずらし開きっぱなしの口にもキスを送る。
イギリスの口内に舌を侵入させてイギリスの舌を絡めとり、喘ぎ声も唾液も飲み込み、呼吸さへ奪う。
タイミングを図り一際強く腰を押し付ければイギリスの体がびくりと震え、互いの腹の間でイギリスの欲が弾けたのが分かった。
声はキスでくぐもった音に変わってしまい、あぁ、声聞きたかったのに失敗した。
イギリスが達したことで内壁が締まり、その刺激に逆らわないでそのまま欲を吐き出す。
荒い息を落ち着け、抱きしめたイギリスを見れば疲れからか少しやつれて見え、やりすぎたかな、って思った。

「ごめん、イギリス。大丈夫?」
「ん。大じょ…ぶ」

もう目を開けてるのがやっと、みたいなイギリスの目許に口づけ、もう寝ちゃいなよ、と囁けばんー、と返事なのかただ声を出しただけなのかわからない声が返ってきた。
珍しく素直にすり寄ってくる姿に微笑み、おやすみ、といえば少し安心したような顔を見せイギリスはゆっくり瞼を下した。



沈んでゆく意識の中、微笑んでいたアメリカの顔を思い出し、やっぱりこの関係に罪悪感を覚えずにはいられなかった。
“国”である俺たちが幸せというか自分の身の丈に合った恋愛をするのは不可能に近いけど、アメリカには俺ではなく相応しい相手がいるはずであり、俺はむしろあいつの背中を押してやらなければならない立場にいるのであることを痛感した。

(だけど俺はあいつの手を放してやることができない)
(だからせめて、アメリカが俺から離れようとするまではこの罪悪感を抱きながらこの関係に依存してしまおう)

きっと、アメリカが自分から離れようとする日は来ないだろうけど。


  
自惚れの戀心よ、あの子を汚すこと勿れ







09/02/27
米英は嫌いではないんですがなんか私が書くと違う気がするのでいつもは読む専門です。
この話ももうちょっとこう、シリアスっぽい感じで仕上げたかったのに…。
加筆修正 02/28



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