目に見えないそれを、現すわけにはいかないけど。





他 の 何 よ り も





久しぶりに会った恋人。
誕生日と言う特別な日。
そしたらもうやることは一つなわけで、がっついている、と思わなくもないが、止められない熱が、爆発する。

「ん…ふっ、ん…」

性急に口付けたせいか、苦しげな吐息がイギリスから漏れた。
懸命に舌を絡めイギリスの技巧を思い知らされるが、擽るように上あごを撫ぜてやれば、鼻にかかった艶めいた声をあげてしがみついてくる姿は、恋人と言う欲目を除いても十分に可愛らしい。
互いの唾液を交換し、くちゅくちゅと厭らしい水音が響く部屋は、これから行われる行為を色めかせる。
少しばかり意識を別のところにやっていたからか、イギリスが舌を擦りつけるだけで、ぞわりと背中に快感が走った。
ちゅ、と口の端に流れた唾液が拭われ、イギリスの熱に浮かされた顔を見つめる。
きっと俺も同じような顔をしているのだろう、くすり、とイギリスは口の端をあげた。

「余裕なさすぎじゃねぇの、フランス?」

頬を赤く火照らせて言われても…なんて言ったところで、実際余裕などないのだから仕方ない。
会うのも久しぶりだが、身体を合わせるのなんてもっともっと久しぶりなのだ。

「会えなかった間浮気しなかった証拠でしょ…自分の右手とだって浮気してないしね」

だから今日は止まらないよ。

イギリスの耳元でわざとらしく囁いてやれば、びくり、と肩を跳ねさせるのだからほんとにかわいい。
何度も繰り返されてきた行為なのに、未だにそういうやり取りになれない初心さがエロ大使と言う称号に似つかわしくなく、まぁそこがまたいいのだが。
赤くなった顔を隠すようにしがみついているイギリスをそっとひきはがし、イギリスの背後のベッドへ押し倒す。
近距離で見た翠が、情欲に潤んでいて、いやらしく、とても綺麗で。
そこに映った自分の余裕のない顔が、更に険しいものへと変化するのがわかった。
だって、冗談じゃなく、抑えられる気がしない。
再び唇を重ね合わせながら、イギリスの華奢な首元を隠している細身のタイに指を掛ける。
しゅるり、と衣擦れの音は一瞬で、抜いたタイをベッドの端に放る。

「んむっ…ん、ん…」

恥じらいからかイギリスが抵抗しようと服を暴いていく手を掴まれるが、濃厚な口付けに、舌を絡ませるのに意識を持って行ってしまえばその手はただ縋る動きに変わり、何の問題もなくイギリスのシャツのボタンを全て外し、前を肌蹴させた。
するり、と嚥下の動きを見せる喉をなぞり、そのままゆっくりと手を胸の中心へと滑らせる。
とくとくと平常より早く脈打つ心臓に、イギリスも興奮しているんだと思うと、ばかみたいに自分の熱も上がる。
くちゅり、と淫猥な水音を響かせ唇を離せば軽く意識の飛んだイギリスの蕩け切った顔が目に入って。

「すっごいいやらしい顔してる、イギリス」
「…どっちが…」

余裕がないのはお互いさま。
はふりと熱い呼気を漏らし、イギリスの首元へ顔を埋める。
ぺろり、と薄い皮膚を舐めると、ひくり、と反応を返す。
その反応に気を良くし、柔く歯を立て、その貧相で硬い首筋の肉を味わう。

「んっ…シャワー浴びてねぇんだから、止めろよ」
「何を今更。気にすることなんてないだろ」

すん、と項のあたりで鼻を鳴らし、耳の裏に舌を這わす。
嫌がる様に首を竦め、いちいち反応を返す敏感な体は、どれだけイギリスが否定の声をあげようとも、その言葉が嘘であることを教えてくれる。

「あー、いやらしい子」
「うっせ…ばか」
「褒めてんだよ」

反応が鈍いよりも、敏感で感じやすいほうが良いに決まっている。
ちゅ、と強めに吸いついては、赤い鬱血痕を刻む。
あんまりつけすぎると怒られるのだが、ぎりぎり服で隠れるところを狙っているしまぁ大丈夫だろう。
調子に乗っていくつも痕を残し、空いている手は小さな胸の突起を左右ばらばらの動きで攻め立てる。
乳輪のあたりも含めて柔く揉み、指に引っかかる突起をつまんでやれば、零れてくる声は多分に甘さを含んで。
女性じゃなくてもここまで胸で感じるのもすごいよな、なんて、開発した甲斐があったとイギリスにばれればまず間違いなくぶん殴られることを思いつつ、ぴん、と弾いてやる。

「っあ…らんす、もっ…むね、止めっ…」
「気持ちイイでしょ?」
「いいからっ…、あっ…」

言いながらもぐりぐりと弄る手を止めずにいれば、イギリスの震える手が添えられた。
手の動きを止める、と言うには弱々しい力だったけれど、一応意図をくんで手を止めてやる。
耐える様に閉ざされていた瞼が、薄く開く。

「何?良くなかった?」
「良かったけど…」

うぅ、と視線を彷徨わせるイギリスの額に、うちゅ、と唇を触れさせる。
これで素直になったら楽でいいのだが、ちょっと絆されてくれればいいほう。
何事かを言おうとしているので首を傾げて先を促せば、イギリスは恐る恐る手を俺の下肢へとのばして…

「って、何!?」

急に、そんな…え?
イギリスは憮然とした表情を浮かべていて、これは確実に照れ隠し。
まぁ隠したつもりでも、4桁年の付き合いもあればそれくらい見抜けるんだけど。
イギリスの手にきゅ、と僅かに力が込められ、声を上げるのはこらえたけれど、小さく息を詰めた。

「なんかお前余裕ねぇみてぇだし…」
「まぁ…お恥ずかしい話」

今の反応を見られてしまえばいいわけなんか聞くはずもなく、素直に肯定する。
その答えにイギリスは頬を朱に染め、恥じらいなんぞ見せつける。

「っ、だから、仕方ねぇから、先に出させてやろうと思っただけだ!」

そんなに驚かれる心算もなかったし、寧ろ、最初からそうしてやろうとしたのをお前ががっつくから…と言葉を詰まらせるイギリスの常日頃とのギャップがもう余計に余裕をなくさせる。
そんなこと言われたら、こっちだってその気になってしまう。

「何、御奉仕してくれるの?」

前言撤回とかなしだからね、と割と切実に言えば、イギリスは俺の肩を押してきて、

「身体…起こせねぇだろ」

了承の意を表した、という解釈で間違っていないと思う。
素直に身体を起こして、ベッドボードに背を預けてイギリスを招く。
ゆるく開いた足の間にイギリスは身体を割り込ませ、身を屈めてじれったくなるほど慎重な手つきでベルトのバックルを外した。
かちゃり、という金属音は一瞬。
しゅるしゅるとベルトを抜き取り、ベットの下に放られた。
イギリスの白い骨ばった指がズボンのホックを外し、じじっ、といつもは全く気にしないファスナーの音を響かせ下着から自身を取りだす光景はやたら倒錯的に映り、これからの行為を期待して生唾を飲んでしまったのは、男なら仕方がないと言う事にしてもらいたい。
欲望に忠実すぎるのは男の性だろう。
まだ濡れていないが、芯を持ち立ち上がりを見せる自身をイギリスの手にこすこすと扱かれる。
詰めた息が伝わってしまったのだろう、イギリスがくすり、と笑みで空気を震わせた。
ちょっと恥ずかしいかな、と思ったが、イギリスの顔が自信に寄せられていき、赤い舌がぺろりと先端を舐めたのでそんな恥じらいなんか吹き飛んでしまった。
ちゅ、ちゅ、と唾液を塗りこめ、湿らせるように動くイギリスの口。
キスもさることながらフェラも巧みなので、うかうかしているとあっけなく果ててしまう。

「ふぅっ…ふ、ん…」

鼻から息を逃しながら半ばほどまで咥えられ、熱く滑った舌の動きが気持ち良すぎて腰が浮く。
喉の奥に先端が当ってしまったみたいだが、イギリスは苦しそうに眉をひそめてそのまま舌の動きは止めなかった。
柔らかい口内にたまにきゅうと唇をすぼめられ、舌がぬるぬると器用な動きで絡みついてくる。
裏筋を擦られ、カリにも丁寧に舌を這わせて先端の孔を抉る。

「ほんと、上手っ、ね…」

その気持ちよさにイギリスの頭にぽんと手をのせれば、イギリスは顔をあげた。
口には自身を咥えこんだまま、口に収まりきらなかった竿は伝った唾液と先走りで手をべとべとにしながら緩急をつけて揉まれている状態。
ベストショットです。
割と…いや、結構好みなイギリスの童顔が、てらてらとぬめるグロテスクな自身に汚されているなんて、興奮しなくてどうするんだっていいたい。
びくり、とイギリスの口内で跳ねた即物的すぎる自身に我ながら呆れるが、曖昧な笑みで誤魔化す。
イギリスもまぁその辺は理解しているのだろう、再び視線を落とし、自身に快感を与え始めた。
きついだろうにディープスロートを繰り返し、きゅ、と喉奥で絞められるのは、イギリスの後孔に突っ込んだ時と似ていて酷く気持ちいい。
手も根元から擦りあげてくれていて、気持ちイイところを知っている動きは、絶頂へと早々にいざなってくれる。

「ね、お兄さん、そろそろ…」

いっちゃうかも、と恥ずかしい自己申告。
イギリスはちらりと視線を寄越しただけで、手の動きを早くする。
先端に吸いつく感覚も短くなり、込み上げる射精感に思わず腰が動いた。
がっ、と濁った呼吸音がイギリスから漏れ、大丈夫かと問えば、目の端に浮かんだ涙を気にすることもなく首をふるふると横に振った。

「っ、ごめっ…出る…」
「んぁ…ふっ…んん」

喉の奥へと誘い込もうとする動き、先端に柔く歯を立てられた瞬間、堪えることなく欲を吐き出した。
イギリスの喉奥へと叩きつけるような勢いで吐き出したそれを、イギリスはきつく目を瞑って口内に溜め込む。
射精の間中イギリスの頭を押さえつけていたらしく、慌てて手をどかしてやれば、絞り取るように吸いついた後、イギリスは自身を口から出した。

「ふぇ…っ、っはぁ…」

飲みきれなかった精がイギリスの口から零れ、ぱしゃり、とシーツに吐き出された。

「大丈夫か…?」

噎せる様に咳き込み背を震わせるイギリスを膝の上に抱き上げ、その背を優しく撫でてやる。
一頻り咳き込んで落ち着きを見せたイギリスの顔を窺えば、目の端には生理的に浮かんだ涙、口元には溢した白い精が付着していて、大変いやらしい感じに仕上がっていた。
涙と、ついでに自分の精も舐めとって、そのまま口付ける。
鈍くなっているイギリスの舌に絡ませると、口いっぱいに自分の味が広がってあまり歓迎は出来ないけれど気にしない。
くちゅくちゅとイギリスの口内を舐めまわし、自分の味も分からなくなったころに解放してやる。
散々酸素を奪われることをしていたせいか、イギリスはぽーっとした表情で俺を見返していた。

「えーっと…ごめん、大丈夫?」
「お前はこれが大丈夫そうに見えるのか?」
「うん、ほんとごめん」

赤くなってイギリスは食べごろ状態だけれど、流石にここでがっついたら可哀相かな、と思わなくもない。
ちょっと休憩、とゆるくイギリスを抱きしめ、顔中にキスの雨を降らせてやる。

「なぁ」
「ん?」
「俺、お前が思ってるより、よっぽどお前のこと好きだからな」

突然の爆弾発言に思わずイギリスの顔を見たが、羞恥で真っ赤に、なんてことにはなっていなかった。
いつもなら好きって言うだけでも尋常じゃないくらいに顔を赤く染めるのに。

「ちょっと坊ちゃん、返しに困るんだけど」
「愛の国返上しろ」
「ごめんなさい俺も愛してるよお前に負けないくらい」

笑いながら言ったが、これは本気。
それが分かったのか、イギリスは何も言わなかった。
けれど居心地悪そうにもじもじして、顔を隠すように俺の方に顔を埋めた。

「俺の方が愛してるって、形に見えたらいいのに」

消え入りそうな声は、こんなに密着していればはっきりと聞こえてしまう。
それはイギリスも分かっているのだろう。
髪の隙間から覗く耳が、真っ赤に染まっていて、そんな可愛らしい反応に口角が持ち上がった。

「形で見えなくても、お兄さんは十分分かってるから安心して」

可愛らしい耳に、ちゅ、とキスを落として囁けば、びくり、と身体を強張らせるのだから堪らない。
あーもう。



「お前がかわいすぎてお兄さんどうしたらいいかわからないんだけど、とりあえず続きさせてもらってもいい?」



これ以上は我慢できない。
素直にそう告げれば、背にまわされた腕に力こもったのがわかった。





お前が俺を好きでいてくれてるのと同じくらい俺もお前のことが好きなんだよ。
他のものと比べるのが馬鹿らしいくらいに。







10/08/11
何日遅れだ馬鹿野郎。
本番手前の尻切れトンボ。
100811



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