おい、何してんだよ?
さっきのあれはかるい冗談なんだぜ?
本心からじゃないってわかってるんだろ?
ねぇ、俺を見てよ
いつもみたいに微笑んで 俺の名前を呼んでよ
お願いだから もう一度だけ たった一度だけでもいいから
ねぇ、‥
『えぇ〜!またぁ〜?』
「悪い!今度ちゃんと埋め合わせするからさ」
って電話の前で手を合わせて謝ってもには見えないんだけどさ。
『結人、そういって先週もデート潰れたの覚えてる〜?』
明らかに怒った口調でが聞いてきた。
はいはい。ちゃんと覚えてますって。
だから悪いと思って手を合わせて謝ってんだろ?
あぁ、には見えないか‥
やっぱ、会って謝るべきだったかな。とちょっと後悔する。
「だから〜来週は絶っっ対空けるって」
『‥‥結人はサッカーさえあればそれでいいんだね!もういいよ!大っ嫌い!』
ガチャン!ッ‥ツーツーツー‥
「ったく!何なんだよ!のヤツ!」
あ〜ムカツク!彼女とのデート潰れて平気なわけねぇだろ!
でも仕方ねぇじゃん!
「なに、結人たち、ま〜た喧嘩したわけ?」
「またとはなんだよ!またとは!俺だって好きでしてるんじゃねぇよ!」
怒りの捌け口を求めていた俺はその怒りを迷わず一馬にぶつけた。
「お、俺に当たるなって!」
「そうだよ、結人。大人気ない」
「あぁ〜!悪かったな!どーせ俺はガキですよ!!」
こんな調子のまま試合に出てもいつも通りに出来るわけがなく。
俺は全然プレーに集中できなかった。
「あーもう今日ってサイアク!」
後ろ向きに歩きながら英士たちを相手に愚痴る。
とは喧嘩するし、試合は集中できなくて散々だったし、明日は学校だし!
「結人、とさっさと仲直りしなよ?」
ってそんなこと言わなくても次に会うときはいつもしてるけど。
笑いながら付け足す英士をちょっと睨む。
悪かったな。いっつもワンパターンで。
「睨まない睨まない。‥‥!」
「英士?どうした?」
立ち止まってしまった英士に合わせて俺たちも立ち止まる。
「ううん、なんでもないよ」
「あれ?あれってじゃねぇ?」
「一馬!」
一馬が前を、つまり俺の後ろを指差したので振り返る。
向こう側の歩道を男と歩いているのは間違いなくで。
そこにあったのはが俺に向けてくれてるのと同じ笑顔。
それが俺に強いショックを与えた。
俺は、半ば呆然としての姿を見ていたが、
が男と別れると、引き寄せられるようにの下に向かった。
確かには兄貴も弟もいないはず。
じゃあ誰だよ‥あの男!しかも腕まで組んで!
「‥‥」
「あっ、結人vv」
が嬉しそうに俺の名前を呼ぶ。
ミナイデ
他の男を見ていた瞳で 俺を見ないで
ムケナイデ
他の男に見せていた笑顔を 俺に向けないで
俺だけのでいて
「―‥なにしてんだよ」
自分でも驚くくらい冷たい声が出た。
「結人?」
が不審そうに俺に近づいてくる。
「なんだよ!俺には文句言っておいて自分は男と遊んでるなんてさ、信じらんねぇ!」
「ゆ、結人、違うの。さっきのは‥」
が何か言いかけたけど俺は聞く耳もたなかった。いや、持てるだけの余裕がなかった。
だって傍から見た二人はかなりお似合いに見えて 胸の内を渦巻くのは不安だけで
「そんなに俺とが退屈ならアイツと付き合えば?」
本当はこんなことが言いたいわけじゃないのに‥
「別れたきゃ別れてやるからさ」
溢れ出した言葉を止める術がなくての持っていた袋を叩き落とす。
「もうの顔なんて見たくもねぇよ!」
俺のその言葉には怯えたような表情を浮かべた。
「結人!言いすぎ……」
英士の言葉が言い終わらないうちには走り出した。
「!」
「結人!今の言いすぎだよ!追いかけなよ!」
「うるせぇ!!」
珍しく怒鳴ってきた英士に、俺も負けずと怒鳴り返す。
くるっと背中を見せて歩き出そうとした当にそのときだった。
キキ――ッと言う嫌な音が後ろで響いたのが聞こえてきたのは。
妙に大きく響いたその音に思わず振り返った。
ま‥さか‥‥‥
「!!」
叫ぶと同時に走り出したのは英士。
遅れて走り出した一馬に、俺もつられるように走り出した。
なんでそんなに必死に走ってくんだよ?
嘘だよな?違うよな?
――あれはじゃないよな?
「‥?」
俺の言葉にピクリとも反応しない。
いつもなら起きてすぐに俺の名前を読んでくれるのに‥
いつもなら笑ってくれるのに‥
「‥」
なぁ、なんで寝てるの?
なんでそんなに紅いんだ?
「ってば‥」
違う‥
は死んだりしない
俺を置いていったりしない
しないと思うのに
どうして‥?
どうしてこんなにも苦しいんだろう‥
「結人、これ‥‥」
いったいいつの間に拾ったのか。
一馬がさっき俺が叩き落とした袋を差し出した。
「‥‥‥っ‥!」
中から出てきたカードを見て、俺は言葉を失う。
『結人、酷いこと言ってごめん!大好きvvv』
だめ‥ いかないで‥
伝えたいことがいっぱいあるんだ
言わなきゃいけないこともいっぱいあるんだ
約束しただろ?
来週はぜったい空けるって
ずっと傍にいるから
ずっとの傍にいるから
だから‥
だから‥
俺をおいていかないで‥
涕で霞む視界に見えるのは深紅の衣を纏った君だけ‥
水野くんのと一緒に作り始めたのに、こっちはなかなか捗りませんでした。
言った言葉が目の前で本当になるって恐い‥
2001/12/25
|