迫り来るその手をうまくかわし、ふり返らずに厩を飛び出した。
加減なんかない、文字通りの全力疾走。
とにかくまっすぐ。走って走って、ついには中庭まで来てしまった。
息が切れたまま恐る恐るふりかえるが、さすがに軍師の姿はない。
「ぜぇ‥ぜぇ‥」
あぁ、まったく。なんてことなの!
あの腹黒軍師の思惑通りに動いてたなんて悔しい。いやいや、とりあえず魔の手から逃げ出せただけいいことにしよう。
厩には戻れないから遠乗りは諦めるしかないけど、この際仕方がないわ。
城下へ買い物にでも行こうと城門へ向かうと、門前に目立ちすぎる男が一人立っていた。
「やはり来たな」
「ば、馬超、なんで此処に?」
「なんとなくが来るような予感がしてな」
恐るべし馬鹿の勘。じゃなかった馬超の勘。
なんでこんな時にだけ冴えるのよ。
がっくりと肩を落としたが今度は逃げなかった。正確には逃げられなかったというべきか。
この馬鹿を振り切るのは、趙雲を振り切るのと同じくらい大変な労力を要するだろう。とてもじゃないが、そんな気力も体力も残っていない。
「俺の正義がお前の悪を教えてくれたのだ」
「悪とは何よ。失礼ね」
「では、執務を放り出して何処へ行く気だ?」
偉そうにこちらを睨んでいる馬超を鼻の先で笑った。どうやらまだ知らないらしい。
「お生憎様。私は今日の分の執務を既に終わらせてあるの。だから何処へ行こうと何も言われはしないわ。馬超はまだでしょう?さぁ、部屋に戻りなさいよ」
ふっふっふっ。どう?アンタが言う正義は私のほうにあるのよ。
「そうか。仕方ないな」
え?え?え?
「ちょ、ちょっと、どこに行くの?」
人の手を掴んだまま、城門を出ていこうとする馬超に慌てて声をかける。
何を言っているんだという表情で、足は止めず馬超がふりかえった。
「どこって城下だ」
「執務は?」
「喜べ。この俺が、お前のために執務を放り出してやろうというのだ」
はぁ?何を言い出す、この馬鹿は。
「誰もそんなこと頼んでないじゃない」
「遠慮するな」
「してなーい!」
「うるさい奴だな。いいから行くぞ」












口でなにを言っても馬鹿男の馬鹿力に、私みたいなか弱い女の子が勝てるわけもなく。
結局、腕を引かれるまま城下まで来てしまった。
たしかに城下に行こうと思っていたけど。思ってはいたけど!
心情としては今の状況を素直に受け入れたくないわけで。
現在、無言の抵抗を試みていたりする。
「おい、。いつまで口を利かぬつもりだ?」
「・・・・・・」
「何故人の好意を素直に受け取らんのだ」
手を離して大きなため息をつかれた。
こいつは絶対に好意の意味を履き違えてると思う。
馬超は良い意味でも悪い意味でも裏表のない人間だと、私は思っている。だから瞳を見ればだいたいわかる。
趙雲と違って黒くないんだけど、こいつはこいつで疲れるわ。
「・・・・あれ?」
急に静かになったなと思えば、さっきまでそこにいた馬超の姿が見えない。
きょろきょろと周りを見渡してみたが、あの目立つ姿は何処にもない。
まるで神隠しみたいだ。
考えていたのは一瞬だと思うのに、いったい何処へ消えたのか。
「何をしている?」
「いきなり居なくなるから、どこへ行ったのかと思ったわ」
「なんだ、淋しかったのか?」
「突然姿が見えなくなったら探すのは当たり前でしょう」
「それは悪かったな。行くぞ」
「行くってどこに?」
「朝も言っただろう。お前に見せたいものがあると」
大きな通りから少し外れただけなのに、もう市の騒がしさは遠くに感じる。
腕を引かれるまま垣根をくぐると、そこは寂れた雰囲気を漂わせる大きな邸宅だった。
屋敷の割に庭はとても広いようで、遠くはまるで林のようだ。
「この前、偶然知ったんだ。こっちだ」
紫や青の花が咲き乱れ、桃色や黄色い花を付けた背丈の低い木などが明るく彩っている。なかでも紅い葉を散らす一際大きな樹が目に止まった。
名も知らない樹だが葉の紅葉が鮮やかで、とても綺麗だ。
「素敵ね」
「どうだ?気に入ったか?」
「えぇ、ありがとう」
「満足したら寝ろ」
「寝ろって‥」
この男はいきなり何を言いだすんだ。
「何を言ってるの。だいたい此所って人様の庭でしょう?勝手に入ってることだけでも無礼なのに」
「あぁ、それなら気にしなくていい。ここは俺の知り合いの家だ。好きにしていいと言われている。だから寝ろ」
「でも‥」
いくら同僚の武将で気が知れる仲だとは言えど、馬超も一応男の人であるわけで。
べつに恋仲というわけでもないのにその前で寝る、というのは少し、いや、かなり強い抵抗がある。
「安心しろ。何もしないと約束する。早く来い」
「ちょっと馬超!」
「いいから寝ろ。疲れてただろ?」
「・・・気付いてたの?」
「当たり前だ」
俺は錦馬超だぞとか、わけのわからない答えが返ってきた。
「元気がないを見てるのは嫌だからな。休んで早く元気になれ」
誰のせいだと思ってるのとか、自分で引っ張ってきておいてよく言うわとか思ったけど。
でも、その気遣いがちょっとだけ嬉しかったので、それ以上は言わないことにした。
「本当に何もしないわね?」
「あぁ」
「絶対に?」
「しつこいぞ」
さっきも言ったけど馬超は裏表のない人間。瞳を見ればわかるのだ。
「それならお言葉に甘えさせてもらうわ」
「おやすみ、



















唯一14年前に書き終わっていたバチョさん。
あとがきに「このまま終わらせていれば、馬超が凄くイイ男だと思うんですが、それじゃつまらないので(笑)」っていう記述がありまして。
何を書く気だったのか覚えてないんですが、後から書き終わった趙雲夢を受けて、ちょっと恋愛色を入れようって気になりまして追記を執筆。
おまけ。



テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル