奪還成功の後の飲み会の後、薄れていく意識が失くなる直前にポールとヘブンが帰って行ったことは分かっていたのだが、蛮に敢えてそれを止める理由はなくそのまま深い眠りに落ちていった。
「……んちゃん、……蛮ちゃんっ、」
 揺すり起こされて、ふと気が付く。
「……ん? ………あ?」
 眠い眼をこじあけて、呼んでいる相手を見た。
「なんか寒いと思って起きたら、……エアコン切れてる。………向こう行って寝ようよぉ」
 銀次が片腕を引っ張って蛮を起こすとそう言った。
 起きてみると、そういえばなんだか肌寒いような気がする。
 だからそのまま引きかれるようにして寝室に行った。
 とりあえず着ていた服を上半身だけ脱いでベッドに入る。
 ひんやりとしているそれは決して暖かくはなかったのだが、銀次も同じように脱いでから入ったので、入った途端まるで寒さを凌ぐように肌を擦り合わせた。
 そのままで、確かに寝づらい体勢ではあるのだが、今までの眠気を引きずっているので十分に眠ることはできそうだ。
 蛮がそう思った矢先、不意にその先の安眠を奪うかのようなキスをされた。
 それは執拗なわりには心地よい、柔らかく髪を撫でられる感覚に似ていて、蛮は思わず回していた手をさらに深く回して力を込める。
 眼を閉じているからこのまま眠ってしまいたいほどに気持ちいいそれは、けれど裏腹に意識を回復していくものだった。
「…ん………」
 無意識に響かせた甘い余韻の後、そっと口唇を離した銀次がそのまま口唇を肌に落とす。
 押し付けたまま眠るのは構わなかったのだが、そんな微廛の期待しかない予想を見事に覆して首から肩へと舌を這わせていく。
「銀次……、……やめろって…………っ、」
 そう優しく制しても彼はやめない。
「だって……、ベッド冷たいし、眼ぇ覚めちゃったし、」
 言いながら鎖骨まで届いた口唇が吐き出す息が肌に暖かい感覚をもたらした。
「……銀次〜〜、眠いんだって。………放っとけ………」
 放っといてくれと、蛮は寝返りを打って幾分丸くなってしまった。
 そういえば何日かまともに寝ていないと言っていた。
 けれど銀次は蛮だからとそれに勝手に名を打って、向けられた背の、項から肩にそっと舌を這わせていった。
 するとピクっと一度だけ肩が揺れて、蛮はすぐに仰向けに戻る。
「銀次!………眠いんだよぉ……、俺は」
 言って両腕で顔を覆った蛮の一方の腕を取ってちゃっかりそれを枕にしてしまった銀次は、そのまま横に寝て、ムウッと口唇を劣らせて蛮を睨みつけるように見た。
 そのうちに聞こえてくるかすかな吐息。
 気持ちよさそうに、眠ってしまったのだろうか………。
 それはつまり無視されたということで。
 フンっ、と思った銀次は、けれどすぐに何かを思いついたように布団に潜った。
 その中は思いの外かなり暖かい。が、すぐに息苦しくなる。
 潜ってどうにか足元まで行くと、蛮の下着を脱がせてそれを片方の足だけ抜いて、布団の中さらに潜る。
 いつもと言うと語弊はあるかもしれないが、何も着ないで寝ていることもあるのだから蛮は然して何も気づかずに眠ったままだった。
「……はぁっ」
 外に顔を出した時のこの空気の量の違い。
 伸ばしたままの腕にちゃんと身体を預けながら、先刻よりも寄り添うように肌を合わせて、銀次は身体半分を浮かせるようにしてそっと裸の胸に舌を這わせた。
 触れるだけでは何の反応のなかった胸の突起を口に含んで、やんわりと舌を絡めるようになぞり上げた。
 と、伸ばされていた片腕が急に抱き締める。
「銀、次……、」
 制するようなその言葉に“なに?”と掠れた声で答えながら、けれど銀次に止める気なんて全くない。
 そんな行為を続けた結果、けれど蛮は時々低く呻くだけで、銀次にしてみれば期待通りでもなんでもない。
 だから蛮の胸に顎を乗せたまま、焦れったくなってそっと下半身に手を伸ばした。触れた欲望を下から指全体でゆっくりと愛撫していくと、眠っていてもさすがに反応してくる。
 やがて形を形成したそれを不定則に扱いてやると、ようやく蛮が意識の欠片をのぞかせた。
「……ん、っ…………」
 ため込んだような呼吸を吐き出した蛮に、嬉しそうに銀次は呼びかけた。
「蛮ちゃん、……気持ちいい?」
 その言葉に低く呻くように答えた後、蛮は気づいてはいるのだろうが敢えて止めることはなく、銀次に回していた腕で撫でるように髪を梳いた。
 そのうちに先端から滲み出してくる体液が指に絡んで滑りがよくなった蛮をさらに追い上げていくと、呼吸が時折声になるほど荒々しくなっていった。
「……っ、…………ぁっ、」
 濡れた手を奥に回して入り口に確かめるように触れる。
「蛮ちゃん、ここ………」
 なぞるように触れた後、指を埋める。
 ヒクン、と一瞬拒んだ場所に、それでも徐々に指は埋もれていった。
 中の熱を確かめるよに掻き回してからそれを抜き、銀次は蛮に覆いかぶさるように移動して、至近距離で顔を覗き込んで尋ねた。
「蛮ちゃん……?」
 いいよねvいいよねvここまでしておいていいも悪いもない。
 パタパタと尾っぽを振っているような銀次を薄く開いた視界に捕らえて、蛮は引き寄せるようにキスしてから、多少ムッとした声で答えた。
「……責任、取れよ………」
 あえなく降参。
 身体を進めた銀次の動きに、短い息を呑んで応える。
 擦り合わされる肉が呼び覚ます衝動に、眠気でなく、けれど限りなくそれに似た甘い緊迫した感覚。
「……ぁっ、………はぁっ、………ぁ、」
 吐き出す呼気が、その甘く狂おしいほどの感情を表して、さらに求めていた。
 繰り返される荒々しい呼吸の中で、すがりつくように求めることしかできなくなっていく。
 遠のいていきそうな意識が怠さとともに次の刺激さえ手にしたくなる。だから欲望にキリはない。
 手放したくなる衝動に駆られながらも、さらに奥の衝動に手が届かないような歯がゆさを感じながら、欲望は底から駆り立てられて激しく散らされた声とともにその意志を失った。














 服、着ないで寝たっけ………。
 十分なほどの睡眠の後、目を覚ました蛮は起きるなり自分が何一つ纏ってないことに気づいて心の中でそう呟いた。
 が、その答えはすぐ近くにあった。
 横ですやすやとまだ眠っている銀次も、下半身までは分からないものの上半身は着ていない。
 しかもちゃんとベッドに入って寝た記憶さえもおぼろげなのだ。
 ということは、夢は夢ではなかったということだろうか。
 思った瞬間真っ赤になる。
 なんか、とんでもないことを口走ったような、気がした。
 ふと見ると、それが夢ではないと実証するかのように、飲みかけの缶ビールがベッドの横のテーブルにポツンと一本置いてあった。
 それは確か、銀次が渇いた喉を潤すために持ち出したもので………。
 その後何回………、思って起き上がろうとした瞬間、身体が答えを訴えた。
「………いーーーってぇ………」
 発した声は殊の外低くて、しかも掠れている。
 口を押さえて蛮は、そのまままたベッドに沈んだ。
 潜ろうと身体を動かしただけでもかなりつらい。
 嘘だろ……。
 冷や汗モンでゾッとして、銀次が起きるまでは熟睡のフリで今後のことを考えよう、そう思った。
















御礼の言葉
お近づきの印に…といただいてしまいました///
小路サマ、素晴らしいSSをどうもありがとうございます。
こちらこそこれからお付き合いの程、よろしくお願いしますvv

2002/12/03 UP



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