「美堂」 いつ頃からだろう、こうして秘密の逢瀬を重ねてきたのは ------- 「よぉ、遅いじゃねぇか…」 公園の少し奥まった所に位置する東屋の椅子の上で身を投げ出している蛮は、やっと来た待ち人に優しく微笑みかける。 こうした微笑みも逢瀬を重ねているうち、希に見せてくれるようになった。 そう、銀次に向けられている、儚げでいて優しいあの笑みを -------- 「いつから、待ってた…」 士度はそんな蛮の脇に跪くと頬にそっと触れる。 「…冷てぇな…」 身震いするほど冷たい頬を包み込むように両手で覆い、ついばむような口付けを何度も繰り返した。 「…テメェは温けぇよな…」 軽いキスを堪能していた蛮は、唇から伝わってくる士度の温度をくすぐったそうに笑った。 「冷え過ぎなんだ、風邪引くぜ?」 「かもな…」 一つ言えば、倍は返ってくるのが当たり前な蛮が、言葉短かにしか答えないのを不審に思い、士度は前歴を考えて首筋から微かに見える胸元を覗き込む。 だが、そんな行動ではたとえ夜目が利いたとしても、蛮の素肌は確認できなかった。 「なにか、あったのか?」 「なにが」 「いつも以上にボケボケしてる様に見えるから、な」 「あっああ…」 何を考えているのか分からない蛮に、そっと手を添え背中を強く抱きしめた。 「戻れよ…こんな日くらい、銀次と一緒にいてやれ」 士度は自分の口からすんなり出た言葉に驚きながらも、蛮の背を二度軽く叩いた。 「バーカ、そんなんじゃねぇよ…それに銀次とは真っ昼間に遊びに行く約束してるんだぜ?」 「そうか、じゃなんで…」 茶化すように軽く口にした蛮だったが、それを後悔しているのか口ごもり、小さいため息をつく。 いつもは頼りがいのある生意気な身体が、小さく思えるほどに見るからに気落ちしているのが伺えた。 士度はいても立ってもいられなくなって、蛮の顔を両手で包むと深く口付け、幾度もしつこいくらいに蛮の唇を貪った。 「…んっ…ぅん…」 やがて開放された唇から苦しげな吐息を漏らし、息が出来て落ち着いた途端、蛮は士度の頭を張り倒した。 「痛っぇなぁ!」 頭を押さえつつ士度は怒鳴ると、いつもの目の輝きに戻りつつある蛮に気づいた。 「くたばれ!」 身を起こし懐にしまってあったタバコを口にすると、深く吸い込み苦味の利いたマルボロの煙を堪能した。 「ふぅ…テメェのおかげで夢魅香の威力が消えちまったじゃねぇか…」 「なんだ、その夢魅香ってのは」 「夢を魅せてくれる有難いお香さ、まっテメェにゃ必要ねぇ何も知れねぇけどな」 蛮はいつもの調子を取り戻すと途端に、士度に毒づき可愛らしいことなど一つもなかった。 今は亡き、かつての美堂蛮を唯一知っていて、知りながらこの世を去ってしまった奪い屋時代の相棒。 -------- 工藤邪馬人 -------- 未来永劫の時の中を彷徨い、美堂蛮の心に巣くうかつての恋人 -------- 何処まで行っても勝てない相手。 銀次でさえ、触れることを躊躇う相手らしい。 それを俺が触れられるはずもなく。 「あ〜悪かったな、俺は過去を振り返らなきゃならないような、未練がましい男じゃないんでね」 軽く流すように言い捨てると、ポケットから五センチ四方の小さな小箱を取りだす。 「これ…やる」 無造作に差し出された小箱を受け取ると、何か思いついたように鼻でせせら笑う。 「なんだこれ、まさか指輪とかじゃねぇよな?」 皮肉げたっぷりにそう言って、箱を開けた途端、絶句する。 中身は予想通りの、プラチナリングだったのだ。丁寧にも内枠にはブルーサファイアの小石が埋め込まれていた。 「…猿回し、テメェケンカ売ってんのか、買うぞコラァ」 士度の胸ぐらを掴みながら、蛮は怒りに満ちた瞳で士度を睨み付ける。 「誕生日と言ったら、それしか浮かばなかったんだよ」 「あっそ…意外にロマンチストだったんだな」 小馬鹿にしたような言い草で指輪を取りだすと、早速左手の薬指へとハメようとするが、指輪の小ささが頑なに拒み、結局左手の小指へと収まった。 「これ、新婦用じゃねぇか…」 「アンタにはその細さが似合うと思ったから…嫌なら返せ」 士度は不貞腐れたように蛮の手のひらから小箱を奪うと左手を掴んだ。 「…サンキューな、大事にする」 「美堂…」 「そろそろ、帰るぜ…じゃまたな」 蛮は帰り際に士度の耳元に口付けを落とし、そのまま身を翻して去っていく。 そんな後ろ姿を見つめ、士度は受け取ってもらった指輪の片割れをそっと取り、薄く細笑み再び、ポケットの中へと忍ばせた。 きゃ〜〜vv 私が書くヘボ偽士蛮とぜんぜん違います。 誕生日に指輪‥///しかも新婦用(←ここがツボvv) まひるサマ、こんな素敵なSS、フリーにしてくださってありがとうございました。 2002/12/31 up |