耳掃除  〜蛮ちゃんBD & サイト2周年記念SS〜

 Written by 奥 なおこ ©FLAG









「イテっ‥‥!」
「何やってんだ?」
 いや、ちょっと耳掃除‥‥‥。  とある夜の夕食後、銀次の妙な声に視線を移すと耳掻きを手に悪戦苦闘する銀次の姿。
 視線を新聞(波児から奪ってきた)に移して続きを読み始めるが‥‥‥
「痛たっ!」
「つッ!」
「ん〜〜〜〜〜〜ッ!」
「‥‥‥‥‥」
 止むことのない銀次の声に段々とイライラが募ってくる。
「おっ!」
「あぅぅ!」
 どうやら取れそうで取れないらしい様子が見てるだけで判る。
 自覚ナシの銀次は百面相をしていた。
「だッ!」
 銀次が痛そうに耳を押さえて目に涙を浮かべていた。
「だ〜〜〜〜っ!貸せ!!」
 まどろっこしい銀次の様子に、とうとう蛮がキレて銀次の手にしている耳掻きを奪い取った。
「何すんだよぉ‥‥‥」
「いーから寝ろっ!」
 口を尖らす銀次を無視して強引に自分の膝に銀次の頭を押しつける。
「え?な、なに!?」
「テメーの声聞いてっとイライラしてくんだよ!やってやるから黙って寝てろ!!」
 突然の事に驚いた銀次がきょとんとしていたが、その顔にはすぐに満面の笑みが浮かんだ。
 今の状況は蛮の膝枕。
 しかも耳掃除をやってくれるという‥‥‥。
「何か夢みたい〜」
 夢のような棚ボタに銀次の顔が緩みまくった。
「ん?ここじゃ良く見えねーな…ちょっとコッチ来いや…」
「いででででっ!」
 薄暗い蛍光灯が照らす室内。
 ちょうど影になって良く見えないからと、蛮が銀次の耳を引っ張って場所を移動した。
耳を引っ張られた痛みで、浸っていた幸せから一気に現実に引き戻される銀次。
 目には涙が溜まっていた。
「蛮ちゃん、何も耳引っ張んなくたって言ってくれれば動くよぉ…」
「そーか?」
 銀次の抗議を右から左に受け流し、あぐらを掻いた足に銀次の頭を乗せた。
「ちっ、グラサンしたまんまじゃ見えねーや」
 呟いて、掛けていたグラサンを外しその辺へ置く。
 やる気は満々だった。
 耳たぶを引っ張り、銀次の耳の中を覗き込む。
「おー、こりゃスゲーや」
 耳を覗き込んだ蛮から口笛が出る。
「そんなにスゴい?」
「おータップリ溜まってんぞ」
 上目遣いで蛮の顔を伺うが、蛮の視線は銀次の耳に注がれていた。
 コリコリと気持ちのいい音が耳の中で響く。
 痒い所に手が届くような気持ちよさ…。
 蛮の吐息が耳に掛かる。
 少しだけくすぐったくて、その何倍も温かい。
 蛮の温もりを感じて、自然と銀次の瞼が落ちてきた。
 ───ガリっ!
「いだッ!!」
 気持ちよさにウトウトしていた銀次の耳に激痛が走る。
 蛮の持つ耳掻きが、いきなり奥まで入ってきた。
 ───ゴリっ
「いだっ!イタタタタッ!!」
 次々に耳の中に響いてくる不快な音。
 それはものスゴイ痛みを伴っていた。
「蛮ちゃん…いたッ‥‥痛いって〜〜〜〜ッ!」
「動くんじゃねぇっ!今すんげーデッカイのが取れそーなんだよ!!」
「そんなコト言ったって…痛いモンは痛いんだって!」
 必死に耐えながら銀次が訴えるが‥‥‥
「動くんじゃねぇって言ってんだろ!鼓膜突き破んぞ!!」
 耳掃除に熱中している蛮には聞き入れてもらえなかった。
 頭を押さえ付けられて、まともに動かす事も出来ない。
 成り行きで始めた耳掃除‥‥始めた当初より夢中になっているのは蛮の方だった。
 鼓膜を突き破られては堪らない銀次が身体を固くして耐えている。
 何とか痛みに耐えていると、耳の中に入っていた耳掻きが出ていった。
 安堵に銀次の身体から力が抜ける。
 そして、蛮がフっと軽く銀次の耳に息を吹き掛けた。
(うわっ!)
 緊張が緩んだ時にきた不意打ち。
(蛮ちゃん、ソレ反則だよぉ‥‥‥)
「よし、終わり!」
 銀次の頭に覆いかぶさっていた蛮の上半身が起こされる。
 何となく肩すかしを食らった気分‥‥‥。
 それでも身を起こしてみると、耳の中の違和感がなくなっていた。
「あ…してもらってる時はスッゴイ痛かったけど、耳の中スッキリしてる!蛮ちゃん、ありがと!」
 蛮にしてもらう前にあった痒みが、きれいになくなっていた。
 銀次が蛮に笑顔を向ける。
「よし、反対向けよ」
「‥‥‥‥え?」
「この分じゃそっち側も溜まってんだろーが。そっちもやってやるよ」
 笑顔のまま銀次の顔が固まった。
 また、あの激痛に耐えなきゃならないのだろうか‥‥‥。
「ほら、寝ろって」
 蛮がポンポンと膝を叩く。
 蛮の誘いと膝枕の誘惑に負けて、銀次が再び横になる。
 予想通り、最初と同じ事が繰り返された。

 蛮にやってもらった耳掃除は、自分でするより何倍も気持ちよくて、100倍痛かった。



「蛮ちゃんもやってあげるって〜」
「いーや、いい!」
「何でだよぉ」
「別にオレ耳痒くねーもん」
 銀次の耳掃除が終わった直後の二人の会話。
 やってあげるという銀次の言葉に、蛮は決して首を盾に振らなかった。
 別に仕返しするつもりなんかじゃないのに‥‥‥。
 そう思って、銀次が少しだけムクれた。
 そして、寝るつもりで布団に入った時…
「ねー、さっき耳掃除してもらったからお返しにオレがあっためてあげる。もー寒いしさ」
「あー?」
「だって蛮ちゃん、オレがお返しに耳掃除やってあげるって言っても、いいって言うからさ」
「だから別にオレは痒くねーんだって」
「だからオレの温もりをプレゼント」
「‥‥‥‥‥‥‥」
 蛮の身体に絡みつくように、くっついてくる銀次。
(普段と一緒じゃねーか‥‥)
 寝る時はいつも、くっついてくる銀次に何が違うのか悩んだが…ここで言い返すと同じ押し問答になるので黙っていた。
(ま、いーか)
 いつもと同じだったら、別に異を唱える必要もない。
 それに…こんな銀次を『カワイイ』と思ってしまっている自分もいる。
 実を言うと、銀次に耳掃除をやってもらうのは、ちょっと…いや、かなり不安だった。
 熱中しすぎて鼓膜を破られそうな恐怖感がある。
 あまり話を蒸し返したくないズルい蛮が黙っていたのは、そのせいだった。
 ちなみに自分のやったコトは超合金で出来た棚の上にあげていた。
 体温の高い銀次がくっついて、急速に眠気が襲ってくる。
「蛮ちゃん、おやすみ」
 銀次がおやすみのキスをする。
「ああ‥‥」
 一言答えて、蛮も目を閉じる。
 何てことのない当たり前の日常。  二人が幸せな眠りの中に堕ちていった‥‥‥‥‥。

END









銀次くんの耳掃除を真剣にしてあげる蛮ちゃん。好きな相手でも情け容赦なし!そうでなくちゃ蛮ちゃんじゃありません。
さっすが奥サマの書く銀蛮は絶品です!最後の最後まで甘〜いvvv
フリーにしていただき、どうもありがとうございました。今年もよろしくお願いしますv

2004/01/27 up



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