太陽や月があって。
それによって草木が育まれるように。
呼吸をするように。
大地に生命があるように。
そんな天の理のように、自然にそばにいるひと。






LOVE STORY





郭英士は基本的に読書が好きだった。
何か目的があって読む時もあれば、何となく読んでいることもある。
本好きな幼なじみの影響を受けたのかもしれないと近頃は思う。
その幼なじみのは現在、英士の部屋の本棚を真剣な面持ちで見つめていた。
簡潔に言えば、本を物色しているのである。
その視線がある本の前で止まった。手にとって振返る。
「ねえ英士」
本棚から視線を英士に戻し、が何やら改まって英士を呼んだ。
読んでいた本から顔を上げを見ると、神妙な顔で英士を見ている。
「何、その顔」
「英士、最近何かあった?」
「……別にないけど」
「それとも悩みとかあったりする?」
「特にはないね」
「本当に? わたし、何かしたとかない?」
「嘘ついてどうするわけ」
たたみ掛けるように質問された英士は、訝しげにを見返した。
「それならいいんだけど……」
納得のいかない顔では言葉を濁す。
「何で?」
「だって……こんなの置いてあるから」
が英士の前に差し出した本。
「……“LOVE STORY”?」
そんなタイトルの本に見覚えは全くない。
が持ち込んだりしなければそんなものがここにあるはずはないのだが。
「わたし、英士に何かしたかと思った」
「何かって……」
例えとの恋愛で悩みがあったとしても、そんな恋愛小説を読むという発想に自分がなるとは英士はとても思えなかった。
「英士、こういうの嫌いだよねえ?」
もわかってはいるようで、確認するように英士を見る。
「どこにあったの、これ」
「どこって、本棚のこの辺」
不思議そうに答えるの指差した先を見て、英士は納得した。
「なるほどね」
犯人がわかった。
「それ結人が持ってきた本」
「結人くん? こういうの読むの?」
「まさか。そうじゃなくて」


数日前、結人がくるというので、適当に本を持ってきてくれるように頼んだのだ。
その中に紛れていたに違いない。
「結人の家って本多いんだよ。結構面白いのあるから適当に持ってきてくれるように言ったから」
「その中にこれがあったってこと?」
「そうとしか考えられない」
まだよく見ていなかったので英士も気づかなかったが。
「確かに適当でいいって言ったけど」
本当に適当に持ってきたらしい。
「結人くんらしいね」
呆れたように言った英士を見て、が笑った。
「わたし、これ読んでみようかな」




速読は得意だったし、その本自体があまりページ数の多いものではなかったため、は1時間程でそれを読み終えた。
ふうっと息をつき、視線を感じて顔を上げると向側に座っている英士と目が合った。
「……何?」
「面白かった?」
「うん。わたしは好きだな。夢中になっちゃった」
「そうみたいだね」
少し可笑しそうに英士が笑った。
「俺がずっと見てたの気づかなかったし」
「見てたの?」
全然気づかなかったので、驚く。
「そう、ずっと」
「……変な顔してなかった?」
心配になって聞く。
「別に。俺は楽しかったけど」
「それ、意味の取り方で全然気持ちが変わる言い方なんだけど」
複雑な気持ちで英士を見ると、
「俺が楽しかったんだからいいんだよ」
あまり説得力のない返答が帰ってきた。


「英士、本読み終わったの?」
「一応ね」
「で、わたしを見てたわけ?」
「そう」
「幼なじみの顔なんて見飽きてるでしょう」
の顔は飽きないよ」
「……英士って何でそういうことさらっと言うかな」
、顔赤い」
「英士のせいだよ」
本気ではないが怒った顔をして、は英士を睨む。
「怒るようなことじゃないでしょ」
それを承知で英士はをからかっているのだ。
反応を楽しんでいるとも言うが。
いつもならここで反論するが、今日はそうしなかった。
立ち上って英士の所まで来ると、その隣に座る。
目が合うと、微笑んで英士の肩に寄りかかってきた。


「めずらしいね。が甘えてくるなんて」
反応がいつもと違うに内心少しだけ驚く。
「これ読んだせいかな」
が手に抱えた本を示す。
「“LOVE STORY”?」
「うん。だから甘えたくなったのかも」
英士にもたれかかって、安心したように目を閉じる。
「じゃあ俺は結人に感謝するべきかな」
英士は背中からを抱きしめた。


幼なじみのふたりの関係が恋に発展したのは、つい最近のことだった。
いつもそばにいるから、お互いに言い出すタイミングがなかったということもある。
「ねえ英士。好きって、すごいね」
英士の腕の中で、が言った。
「すごいって?」
「幸せになれるから、すごいなあって」
今更のようにそんなことに関心するが、可愛い。
。キス、しようか」
その言葉にが顔を上げようとして、けれど上げられずに小さく聞いた。
「……返事したほうがいいの?」
聞き返された英士は、抱きしめた腕を緩めての顔を覗き込んだ。
「つまりOKってことだね」
否定の答えはなく、が恥ずかしそうに頷いた。




帰り際、英士に本を手渡しながらが言った。
「それ、最後のページだけでいいから読んで」
「最後のページ?」
受け取りながら英士がページをめくろうとすると、慌てたように止める。
「待って。わたしが帰ってから」
帰ると言っても隣の家なのだが。
「いいけど」
何故なのかは全くわからなかったが、英士はとりあえず本を閉じた。
「ありがと。あのね――」
一言、謎の言葉を残しては部屋を出て行った。


が帰った後、英士はその本を開いた。
まったく興味はなかったが、言われた通り最後のページを開く。
その文字を目で追って、英士は小さく呟いた。
「LOVE STORY……か」



『太陽や月があって。
それによって草木が育まれるように。
呼吸をするように。
大地に生命があるように。
そんな天の理のように、自然にそばにいるひと。
それがわたしの愛するひと。』



“――あのね、わたしにとって英士はこういう人なの”





物語は、ここから始まる。








御礼の言葉
こ、こんな素敵なものを本当に頂いてしまった‥
英士くんカッコいいです〜vvv
由佳サン、本当にありがとうございましたvvv
また気が向いたらくれてやって下さいvvv (爆)

2002/01/19 UP



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