柔らかな笑顔を絶やさないその唇が

何かをこらえるようにへの字に曲がった    





手を伸ばせば届く距離で  



二人の距離を測ることが出来なくて        









伸ばそうとした腕は伸びきらないまま

触れ合うことの出来ない心のまま      







やがて瞳の雫は渇いていく                

















好きの数だけ痛くなる                

















とても長い夢を見ていた。

おれの好きなおめぇの微笑をすぐ傍でみられて。

寒いからと手をつないで暖めあって

安心するからと頬を寄せ合って

好きだから、と唇をくっつけて



それはとても幸せな夢。

それはとても儚い刹那。          











「・・・・・・え?」

「だから、わたし他に好きな人が出来たっていってるの」



見たこともないような怖い顔でパステルがつぶやく言葉は、夢の終わりを告げる合図。

僅かに緩む彼の人の涙腺は、哀れみなのか。別離への悲しさなのか。      







「何いってんだよ。何の冗談・・・」

「わたし、本気」

「は」

 

笑い飛ばそうとしたその声を、けれどもパステルの表情はそれを許さなくて。      







突き刺さる 棘

言葉のナイフで心臓に切り傷をつけていくような    





「本気なのか」

「・・・うん。ごめん」

「謝るなよっ! 謝ってんじゃねぇよっ!!」

   



ダンッッ    





「っつ」

「ふざけんなっ! それではいさよならなんて・・・そんな・・・!」

「でも、ごめん」



謝られれば謝られるほど、痛みはずきずきと酷くなっていく。

パステルの方を掴んだ掌が、それでも心までは掴めなくて。掴みたくて力を込めるとパステルの顔が僅かに歪む。        









「ごめん」        









つぶやいた先からパステルの頬を涙がするりと滑っていく。

溶けはじめた雪のような儚い綺麗さで、そんな狡さで。

絶望も、切望も、全部ひっくるめて流されていくような気さえした。

 

「・・・謝んなって、いってんだろ」



声は、震えていなかっただろうか。

おれは出来るだけ声を荒げないように、声を低くした。

ただ、ともすれば吐露しそうになる本音を押さえるのが手一杯で。

     







いくな

ずっと傍にいろ

誰かのものになんてなるなよ

       









そんで、笑って

幸せそうに、笑って          











目の前ではらはらと散っていく透明なその雫を拭ってやる権利はあるのだろうか。

深く傷つけられているのはこっちなのに、どこまでも傷付いているパステルは卑怯者なのに。

どうして、要求を呑んでまで泣き止んで欲しいと思うのだろう。        









「わーったよ。別れてやんよ。だから、さっさと顔洗って好きな男の所にでも行けば?」        









今の顔、すっげぇ不細工だぜ、と笑って見せるとパステルは驚いた表情で大きな瞳をぱちぱちとした。

しょうがねぇだろ。

なんでもないって風にしとかないと、おめぇすっげぇおれのこと気にするから。

叫びたい気持ちも、泣きたい気持ちも、抱きしめたい衝動も。  



全部、全部。この胸の奥にしまうから。

どうか早く泣き止んで欲しい。

二度と好きだとか、そぶりとか見せないから。

心を残さずにいって欲しい。      







昼下がりというには日が傾きすぎて、夕方というには日差しの強いこの時間に。

部屋の窓から見えるメインストリートの人足は少なくて、何故かとても安心した。

どうせ誰も知らなかった関係を

誰も知らないこの場所で終わらせてしまおう。  



「んじゃ、お幸せに」    





俯くパステルの頭をぽん、と叩いて部屋のドアを開けた。        









どかっっ        









突然背中に衝撃を感じた。

「なにす・・・!」

振り返れば、パステルは何かを投げた姿勢のまま、柳眉を逆立てている。    





「馬鹿!!!!」  



振り上げた顔にキラキラと雫が舞った。

さっきよりも多くなった涙にぎょっとしている間に、パステルはこっちに突進してくる。  



「お、おい?」

ぼすんとその体を両手で受け止めて、顔を窺うと、パステルはいやいやと首を横に振った。

「ばかばかばか・・・!」

「あのなぁ」

「・・んで」    





「なんで、別れたくないって言ってくれないの!?」    





「はぁ?」

そりゃ、おめぇが別れたいって言ったからでしょうが。    





「やっぱり、わたしなんか好きじゃないんだ」

「はい?」

「トラップはあの子のほうがいいんだ」

「パステルさん、何の話ですか」

「トラップなんか・・・! トラップなんか、だいきら」      







その先はどうしても言って欲しくなくて。

唇で塞ぐ。

もう、何も言わないで欲しい。

さっきの言葉から感じ取るおれへの好意をふいにしないで欲しい。

言いかけた言葉より、その前の言葉を信じさせて。      







「・・・っふ・・・」

「落ち着いた?」

「・・・ん」  



勢いがなくなれば後はしょんぼりと肩を落とすパステルを、守ってやらなきゃいけない気がして、強く抱きしめる。

幸せな夢の続きを見ているような浮遊感に、心が少しだけ浮き足立っている。      







「何にもきかねぇけど、一つだけいいか」

「・・・うん」

「おめぇの気持ち、変わった?」      







おれの言葉にパステルはふるふると首を振って。

「トラップのが変わってなかったらね」

少し調子を取り戻してきたパステルは涙に笑顔を上乗せした。  



きょーれつなダブルパンチだろ。それ。      







「ばぁか」      







おでこをぴしりと弾いて。

抗議のために上げたパステルの顔に、笑って唇を落とした。                

















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
お持ち帰り・掲載OKのお言葉に甘えて持ち帰させていただきました
トラップって自分よりパステルのことを一番に考えてると思うんですよ。本当に彼なら身を引きそうですよね
2008/09/22 up



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