嵐だ。嵐が来た。
最初のうちは大分大目に見てやって、可愛らしく、天使か何かがやってきた。という事にでもしておいてやろうと思っていた。
が、いきなりやって来てはひとしきり騒いで去っていく。
いくら天使と思い込んでやろうとしたところで、どう考えても嵐。






     【【  Fantastic  】】





「よう!」
「遊戯、来た早々悪いが、俺は二時から・・・。」
「見合いだろ?あ、俺、今日は紅茶。」
それを聞いて、遊戯を連れてきたメイドが、かしこまりました、と礼をして屋敷の奥へ引っ込んでいく。
「そうだ。帰りも遅くなるだろう。」
「ご苦労サマ、だな、社長さんは。折角来てやったのに。」
「折角も何も、何しに?騒ぎに来たのか?」
「失礼だな。お前の溺愛する可愛い可愛いこの俺が来てやったっていうのに。」
「・・・行って来る。」
瀬人は、相手にしていられなくてドアの方へ向かったが、ふいと立ち止まった。
遊戯が何か言い出したからだ。
「あぁあ。遊びに来たっていうのに、このクラスメイト様は客を放っておいて女の方が・・・。」
「だったらどうしてほしいのだ!かまってほしいのか!?はっきり言え!」
「別に。だって今からかまってもらったって、どうせ前みたく放置プ・・・」
「貴様は・・・暫く喋るな!」
バッ、と瀬人が遊戯の口を塞いだ。何かむぐむぐ言っているがそれも無視。
そんな所へメイドがやってきて、紅茶といつものコーヒー、それに菓子を置くとクスッと笑って出て行った。
どうせいつもの事だ、と。
「そんな事もあったが、いつの話だ、いつの。あの日、俺が戻ったら一人でベッドを占領して寝ていたのは誰だ。」
それこそいつの話だ、と言おうとした遊戯だったが、他の声が入った。
「兄サマ、いい?」
「モクバか、ちょうど良かった。俺は出かけなければならない、暫くこの馬鹿にかまってやってくれるか?」
それを聞いたモクバは少し入るのを躊躇った。
遊戯と、恐ろしい兄が一緒に居る所ほど危険な所はない。
いち、にの、さんっ!・・・で元気に入れたらいいのにな、と思いながらそっとドアを開けた。
「兄サマ、遊戯、何してるの?」
入ってすぐ、案の定、喧嘩でもしているような光景が繰り広げられていた。
遊戯がじたばた暴れていて、瀬人がそれを押さえ込んでいる。
「かまってくれというのでかまってやっているのだ。」
「むー!!んんー・・・。」
遊戯の方は口が塞がっていて喋れていない。
「放してやってよ。俺の遊び相手してもらうからさ。」
「良かったな、遊戯。まったく、皺になったらどうしてくれる。また着替えねばならんではないか。」
「海馬、いい加減にしやが・・・」
「・・・行って来る。」
「・・・いってらっしゃーい。」
行って来る、という瀬人に対し、ちゃんと挨拶が出来たのはモクバだけだった。
それも少し反応遅れだが。
あろう事か瀬人は、弟の目前で遊戯に行って来ますの挨拶をして出て行ったのだった。
よくよく目にするがいつまでたっても慣れない。モクバはまだまだ若いというのに溜息等を吐いていた。
「あの、タコ。モクバ、帰ってきたらタコ殴りにするぞ。」
「あのなぁ・・・。」
照れ隠しなんかしちゃって、と言いそうになったのを呑みこみ、勝てると思ってるのか、と言っておいた。
「さぁ、今日は何する?」






「こちらがうちの娘です、さぁ、ご挨拶しなさい。」
「芙蓉と申します。初めまして。」
珍しいな。と瀬人は思った。今まで会ってきた女達は大抵頭が痛くなるような濃い匂いの香水等、
池等にある藻や苔ほどに元を埋め尽くす勢いでごてごてと飾り立てていたのだが、この女に限ってはそうではなかった。
いかにも爽やかで、もっというと必要最低限の飾りしかつけていないといった風だ。
果たして虚か実か。
他愛のない質問、受け答えをしていると、頃合を見てか周りの人間達が出て行った。
やっと、これからどうするか、と考え始めたのだが、人のいなくなったのを見計らったように女が口を開いた。
「海馬さん・・・」
「何だ?」
「すみませんでした。」
「・・・?」
何かされたわけでもないのに突然謝られてはどうしていいか解らない。
「何がだ。」
「忙しかったのでしょう?それなのに父がお見合いだなんて・・・。」
そのことか。
今まで何度も見合いを申し込まれたが、会わなくても良いものは即断り、会わなければならなかったとしてもことごとく断ってきた。
それでか、ダメで元々、と見合いを申し込んで来る数が増えた気がした。
断っても断ってもきりがない。こっちは暇などないというのに。
「よくある事だ。」
「今日だって、何か用事があったのでしょう?」
「いや、別に。そちらこそ、俺を落として来いと言われたのではなかったのか?」
「さぁ、何の話でしょうか。」
電子音が鳴って、メールが入ってきた。携帯電話の時計はちょうど三時。
今鳴ったのはプライベート用で、番号を知っているのは二人。
「私も、いいですか?」
「ん?」
チラッとみると、携帯電話を取り出して、にこっと笑っていた。
「マナーモードにしていて、よく解るな。」
「ちょっと心配性な所がありまして・・・。」
そう言いながらメールを読む芙蓉という女は、微笑を浮かべて、『幸せそうだ』というのが似合いそうだった。
自分も向こうから見たらそう見えているのだろうか。そう思うと、妙な気分になった。
メールは遊戯から。「纏まりそうか?」と書いてあった。
纏まって困るのは自分のくせに。困った奴だ。
「苦労するな。」
「えぇ。お互いに。・・・・・・意外でしたわ。」
「何が?」
「貴方って、そんな人だとは思いませんでした。もっと恐ろしいイメージがありましたから。」
恐ろしい・・・。世間的にはそう思われているかもしれないが、タコとか馬鹿とか罵倒する奴もいると知ったらどうだろうか。
そう考えると笑いが込み上げてきて、抑えるのに苦労した。
「俺も、貴様のような変わった女は初めて見た。」
「よく言われます。でも、貴方の相方さんも、変わった人でしょうね?いつか会ってみたいものです。きっといい友達になれますわ。あ、そうだわ、婚約なさるのなら式にでも呼んでくださいね。」
「・・・・・・。」
とりあえず暫くの時間つぶしに更に意味のない話をした。不思議と、いつもの嫌な感じはしなかった。
妙に鋭くて、遊戯と似たような所がある気がした。物怖じしない気丈さ、麗らかさ。その他にも色々。
もし、遊戯に会うことがなければ。この縁談は纏まっていただろうか。
珍しい人間と、珍しいもの好きの人間。さしずめ自分と遊戯。
女を送り届けてから、帰りの車の中で考えた。






「おかえり。」
「・・・ただいま。」
「今日はいつにも増して遅い帰りだな。」
まだ夕暮れ時なので、どうせ断るくせに遅い、と言いたいのだろう。
「あぁ、変わった女だったぞ。婚約するならあいつにすることにした。」
「・・・・・・。」
「冗談だ。俺は貴様のおかげで一生独身だろうな。」
「今すぐに、どこか連れてけ。」
怒っているようだが、全身で甘えたそうなオーラを発しているのがこの上なく可愛らしい。
どこかと言われても、どこに連れて行けばいいのか解らないが、久々に自分で運転でもするか、という気になった。
遊戯もはるばるやって来た事だ。行き先は成り行きで適当に決めればいい。高揚した気分をどこかへ走らせたい。
「磯野!車をまわして来い。」
「はいっ!只今!」
今までどこにいたのか解らないが、どこからか磯野が飛び出してきて、慌てて走っていった。

「どこ行くんだ?」
「さぁな。」
車に乗り、行き先も告げずに勝手に出てきた。行き先が解らないのだから当然ではあるのだが。
街を抜け、郊外まで来ていた。隣に座る遊戯がいつにも増して嬉々としている。
そして、おそらく自分も。
「ずっと遠くまで逃走するとかどうだ?日帰り出来ないくらい遠くにさ。」
「馬鹿言え。そんな事になったら困るんでな、どうしてもと言うならその辺りで降ろしてやるから一人で行け。」
「はっ、冗談。そうだ、海にしよう。海へ連れてけ。」
「海だと?どんな海だ。荒波寄せる絶壁か?」
くだらない事を言い合いながら、ゆったりと時間が流れていく。
いつもなら早いと思うその流れが緩やかになった気がしたが、そのペースが気分の高揚している今はもどかしいと思う。
「ハハ、それいい。けど却下。砂浜のある所でよろしく。」
「ロマンティックに夜の海でも眺めたいのだな?了解だ。」
弾かれたようにこちらを見て、答える言葉が見つからないとでもいうような。表情が引きつっている。
ちょっとからかってみるだけでこうだ。
やっと、馬鹿野郎、と言うと、窓の外を向いてしまった。







「おい、海馬!そんな所でこっち見てないでお前も来い!」
遊戯は波の来ないギリギリの所で水遊び(?)、瀬人はというと離れた所に立って見ているだけだった。
「気が向いたら後で行ってやる。」
「何だよそれ。」
ぷいっとむくれて怒ってみているのか、遊戯は渚に沿って走っていってしまった。
疾走しているのではないだろうが、振り返らずに走っていく。
「・・・俺は、追いかけなければならないのか・・・?」
瀬人は、自問して、一瞬だけフッと笑って走り出した。見ていろ、とでも言いたげな笑みだった。
距離は50メートル程。掴まるのを目的で走っている遊戯と掴まえる為に走っている瀬人。
すぐにその差は詰まった。
だが、すぐに掴まえたりせずに、横に並んで走り出す。
「競争したいのか?」
遊戯が走りながらじっと睨んできた。
「・・・ロマンティックに海でも眺めに来たのに、なんでロマンが解らないんだよ。馬鹿野郎!」
「・・・ちっ・・・我侭な奴め。掴まえてやったぞ。これでいいのか?」
「良くないのそっちだろ?」
「貴様こそ。」
「「・・・・・・。」」

砂浜に仰向けになってに寝転がっていた。生ぬるい温かさを残した海の水と比べると、ひんやりとして気持ちよかった。
「海馬、今日会った人・・・。」
起き上がってから、暫く後れて瀬人が話し出す。いつもこうやってわざと間を置いたりする。
不安にさせたいのか、心の準備でもさせてくれているのか。
きっとそのどちらでもない。
「・・・貴様のような変な奴だった。結婚するらしいぞ。そのうち。」
「で、ふられたのか?」
「その気がないのにか?」
「そうだ。お前はふられたんだ。」
「・・・やけに嬉しそうだな。」
微笑った綺麗な目が見下ろしてくる。
「別に。お前こそ、俺に逢えて嬉しいだろ!」
「別に。逢ったのは必然だ。」
この上なく恥ずかしい事をこともなげにさらっと言ってしまって、何も言わせない癖。
もしかしたら、こいつなりの照れ隠しなのかな。平然とした顔してるけど。
長々と口付けされながら、久々に相手以外の他の事を考えた。
「そ・・・だな。偶然ぶつかったんじゃなくて、逢う事に決まってたんだぜ。きっと」
たまには真似して、照れ隠し。少し驚いていたのが楽しかった。

天使が来た。
嵐かと思った。天使は去っていくような無情なことはしない。
きっと、最期のときまで側に居るのだろう。この天使は。







FIN







2004/09/09 up






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