それはまるで

逆さにしたビンのように‥














「はぁ‥」
誰もいない松葉寮の一室で渋沢は独り、溜め息を吐いた。
同室者の三上は、今シャワーを浴びている。
大浴場を嫌う三上はいつも自室についているシャワーで済ましているのだ。
なぜ嫌うのかはよくわからない。
「悪ぃ。遅くなっちまって。五月蝿くて寝られなかった?」
髪を拭きながら浴室から出てきた三上が渋沢に声をかける。
聞き慣れた三上の声に渋沢はゆっくりと顔を上げた。
もしここで、俺が三上を好きだと言ったら、三上は何て答えてくれるだろう。
三上の顔をみつめてそんなことを考える。



馬鹿だな。俺は何を考えてるんだ。
そんなこと、聞かなくても答えなんかわかりきってるのに。
少なくとも俺もだよ、なんて返ってはこない。
三上が藤代を好きなのは傍にいた自分が一番よくわかっている。
一分の望みもないんだとわかっていても、それでも三上を諦めきれない。
「渋沢?どうかしたのか?」
何も答えず自分を見ている渋沢を不審に思って、三上はもう一度声をかけた。
相変わらず渋沢は何も答えない。
渋沢の視線がゆっくりと下がる。
サッカーをやっているわりに焼けていない白い肌。
濡れた髪が肌に張り付いてとても艶めかしい。

触れたい‥

そう思ったら半分無意識に心配して近づいてきた三上の腕を引いていた。
咄嗟のことで受け身が取れなかった三上は当然のようにそのままベッドに倒れ込んだ。
タオルがふわりと舞い落ちる。
「渋沢?」
どうしたんだ?とでもいうかのように見上げてくる三上には警戒心は欠片も感じなくて。
逆にいつもと様子の違う自分を心配してくれてるようにも見えて。
自分は本当に信頼されているんだと嫌でもわかってしまう。

‥‥‥なんで?

なんでそんな風にしていられるんだ?
今の状況がわからないわけじゃないんだろう?
組み敷かれているのに何故そんなにも無防備でいられる?
どうしてそんなにも俺を信用してくれるんだ?
「渋沢、どうしたんだよ?お前、なんか変だぜ?」
変?‥そうかもしれない。
今まで抑えてこれたものが抑え切れなくなりそうになってる。
今までせき止められていたものが溢れようとしてる。

三上が‥欲しい‥

三上がそれを望んでいないとわかっていても。
三上が俺をそういう対象で見ていないとわかっていても。
三上が藤代を好きだとわかっていても、それでも俺は三上が欲しいんだ。
ほんの一瞬でもいい。
その漆黒の瞳に“俺”が映るのなら。



「‥三上、ごめん」
何が?と聞き返す前に唇は塞がれた。
渋沢の行動に驚いて三上は目を見開いた。
拒絶しようと首を振る前に顎を掴まれ逃げられない。
三上は酸欠で暫くボーっとしていたが、渋沢の手の動きをリアルに感じて覚醒した。
「やだっ!渋沢やめ‥」
拒絶と制止の声はそこまで言いかけて止まってしまった。
渋沢の射抜かれるような視線に、三上はそのまま硬直して言葉が出てこなかった。
自分の目の前にいるのは渋沢であって渋沢ではないのだと感じた。
そして何か似ていると思った。



「三上‥」
名前を呼ばれただけで三上の背筋にゾクッとしたものが走る。
それが恐怖だったのか、何だったのか三上にもわからなかった。
三上の右手を渋沢が掴むと、それだけで三上はビクついた。
渋沢は気にせずに近くにおいてあったタオルで三上の両手を縛り付ける。
交わされたキスに何故か涙が零れた。







「‥‥あッ、はッ‥ぁ‥もっ、やぁ‥‥」
三上の甘い嬌声と結合部の濡れた音が部屋に響き渡る。
三上は生理的な涙を零しながら何故こうなったのか必死に考えていた。
なんで?なんで俺は渋沢に抱かれてる?
だって渋沢は‥俺と渋沢は‥
「三上‥」
考えは答えが出ないまま大きく突き上げられて簡単に消し飛んだ。
あとはただ闇雲に。熱を。渋沢を求めて。
強すぎる快感にないて、溶けてしまいそうな熱に喘いで。
身体の中からいっぱいに満たされて。
襲ってきたのは浮遊感。覚えているのは失墜感。
「―――――!!!」
声にならない悲鳴の後。
渋沢の解放を感じて三上は意識を手放した。





気を失ってしまった三上からゆっくりと自身を抜いた。
途端に三上の中から今さっき自分が放ったものが溢れ出してきた。
その様子をじっとみつめて、まるで自分のようだと思った。
三上に受け入れられることはない自分。
こんなにも信じていてくれた三上を裏切ってしまった自分。
どうしようもなく理不尽だけれど 自分でもそう思うけれど
悲しくて 哀しくて 涙が止まらなかった‥









誰よりも誰よりも きれいな君を
誰よりも誰よりも 想っていたけれど
臆病な僕は それを伝えることができないでいた
今の僕に 君の隣に立つ資格はないけれど
たった一つだけ これだけはわかって欲しい

僕は誰よりも 君が好きだということを

















今さらですが、裏完成記念に作ったもの。
このときはただ突発的に浮かんだだけだったんですけどね。
‥それにしても痛い内容の話だなぁ‥。
裏完成記念って裏無くしちゃったし。ホント今さら‥。

2002/03/18



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