「三上、いるんだろう?」 屋上の扉を開けて、姿の見えない同室者に声をかける。 「‥‥渋沢か?」 声は頭上から聞こえたので、渋沢は備え付けの階段を昇った。 「三上、授業をサボるな」 開口一番のお説教に、三上は眉をひそめた。 「教室にいるとチョコ持ってくる奴がいるんだから仕方ねえだろ?」 まるで、好きでココにいるんじゃないとでもいうかのように三上は答えた。 授業がおもしろくないって、いつもサボっているくせに‥ 渋沢は密かに溜め息を吐いた。 渋沢も授業はおもしろくないと思っているが、サボってはいない。 仕方ない。 今日は三上の気持ちもわかるので。 「‥今日だけだからな」 かなり譲歩した一言だった。 「わかってるって」 軽くヒラヒラと手を振って、三上は笑った。 そして、そのまま眠ろうとしたが。 「‥渋沢?」 いつもなら説教だけ言ってすぐ授業に戻るのに。 戻る気配のない渋沢を不審に思って名前を呼んだ。 まだ何かあるのか? 「ん?なんだ?三上」 立ったまま三上をみつめて、優しく問い返してきた。 「あ、いや‥」 戻らないのか?と聞こうとしたが、それでは戻れと言ってるように聞こえる。 別に渋沢に戻って欲しいわけじゃない。 できれば‥‥ 「‥‥‥‥///」 「三上?どうかしたのか?」 顔が赤くなっていく三上を心配して声をかける。 「な、なんでもねえっ!」 三上は顔を見られないように渋沢に背を向けた。 ったく、なに考えてんだよ、俺は! 「三上、隣に座ってもいいか?」 三上の胸中など知る由もない渋沢は、普通に聞いてきた。 「‥‥‥勝手にしろ」 振り返らずに振り返れずにそうとだけ答えた。 まさか来るななんて言えない。 「ありがとう」 渋沢がすぐ隣に座ったのが気配でわかった。 あー俺、顔赤いかも。 「三上」 すごく嬉しそうに微笑んで、渋沢は箱を一つ差し出した。 「‥なんだよ、コレ」 渋沢が差し出した箱を指差しながら三上は尋ねた。 「なにって‥今日はバレンタインだろう?チョコに決まってるじゃないか」 「‥お前、俺が甘いもの嫌いなの知ってるだろ?」 三上の口調に怒りが混じる。 3年も同室者をやっていて知らないわけがない。 昨日も、ついさっきまでその話をしていたのではなかったか? ただでさえ自分たちは、ただのお友達なんかではなく、そういう仲なのだから。 「あぁ、知ってるよ」 「それがわかっててどうして渡すんだよ」 まったく、新手の嫌がらせかよ‥ 三上の言葉を聞いて、きょとんとした感じで渋沢は答えた。 「そんなこと決まってるだろう。三上が好きだからさ」 「なっ‥///」 渋沢の答えに三上は真っ赤になった。 三上は好きなどの愛情に関する言葉に過剰に反応する。 キスしても大して赤くならないのに‥。 まぁ、そこがまた可愛いと渋沢は思っているのだが。 「受け取ってくれないのか?三上は俺のことが嫌いか?」 悲しそうに渋沢が聞く。 そんな風に言われては受け取らないわけにいかない。 「‥ったく、しゃあねーなぁ」 本当に仕方ないという感じで三上は渋沢のチョコを受け取った。 口ではなにを言っていても、三上は渋沢を想っているのだから。 「三上、受け取ってくれるのか?」 「‥無理やり受け取らせておいて、なに言ってやがる」 忌々しげに三上が渋沢を睨む。 「スマン」 苦笑混じりに渋沢は謝った。 「どうしても‥確認したかったんだ」 一年前、自分はなにも言うことが出来なかった。 拒絶されることに怯えて、なにも伝えていなかった。 ただ隣で三上を見ているだけだった。だから確認したかった。 今は昔とは違うんだと。 「俺がお前のものだって?今さらだな」 「確かにそうかもしれんな」 くすっと笑って渋沢は三上にキスをした。 大っ嫌いなバレンタインだけど 君からのプレゼントなら受けとるよ HAPPY VALENTINE DAY‥ テスト開始10分前に完成したものです。 作ってる余裕なんて全っ然あるわけないんですけど、パッと続きが浮かんだんで即行書きました。 2002/02/23 |