さんさんとふりそそぐ朝日がまぶしい。 「寝れんかった・・・」 いつもより重たく感じる体を引きづりつつ、学校を目指す。 あーあー頭が痛い。 目がチカチカする。 完全に寝不足だ。 それというのも。 昨日、部活が終わって、一人で居残りで自主練をしようとしたら声をかけられた。 知らない女子。 雰囲気から、同じ一年生っぽいなと思った。 自分はバスケに詳しいわけじゃないが、桜木くんのプレーを見て感動した。 バスケをしているところを見ているのが好きだと。 がんばってほしい、とそう言ってくれた。 うれしかった。 女の子に褒められるなんて、そんなに経験があることじゃない。 なんだか、凄く照れてしまって、言葉がうまく返せなくて、一言ありがとうが伝えられなかった。 そこへ、何か忘れたのか。 部室へ戻っていったはずの流川が体育館へ戻ってきた。 いつも口数が少ない奴、とは思っているが、どこか様子がおかしかった。 そしたら。 そしたら。 あれって・・・ 「うおぉぉ?!」 尻に突然の衝撃を受けて、踏みとどまれず、顔から地面に埋まる羽目になった。 頭の上からは、ぎゃははと聞きなれた笑い声が降ってくる。 「おまえらぁ〜!」 「なに、ぼーっと歩いてんだよ、花道」 忠がニヤニヤしながら蹴り上げたままの姿勢で見下ろしている。 「なにすんだ、テメーは!」 怒りに任せて蹴り飛ばし返そうと思ったらよけられた。 くっそーーーー 「お。花道ぃーお前、目の下、黒いぞ?寝不足か?」 「おいおい、どうした?昨日なんかあったのか?っていうか、あったんだろ?」 昨日? 昨日は・・・ 唇に感じた流川の吐息を思い出して、頬だけじゃなく顔全体が熱くなるのがわかった。 「黙って赤面すんなよ、わっかりやすい奴だなー」 「おい、何があったんだよ?教えろよ、花道」 「な、なんでもない!何もない!」 「なんでもねぇわけねえだろ?」 ニヤニヤしながら覗きこまれた高宮の頭に拳骨をお見舞いして、脱兎のごとく、逃げ出した。 い、いえるかーーーーーー!!! *** 放課後。 部室へ来たら、一番乗りだった。 誰もいない部室。 バスケが出来る。 いつもならドキドキわくわくしているところなのに。 ロッカーをにらみつけて、大きな大きなため息がこぼれた。 「うーむ・・・」 どういって話をしたらいいのか、わからない。 流川が何を思っていたのか。 何をしようと、したのか。 いや、でも。 いや、でもあれは。 あれは、俺の勘違いでもなく。 キスを、されそうになっていた、と思う。 「だああぁぁぁあああぁぁぁ!!!」 思い出して恥ずかしくなり、ロッカーにガンガンと頭突きをかます。 今日一日、ずっとこんな感じだ。 ふと、あの瞬間を思い出して恥ずかしくて、ところかまわず頭突きをしてしまう。 おかげで授業中は寝られなかったし、先公には怒られるし。 洋平たちも、朝は何があったのか聞こうとまとわりついていたが、そばによると頭突きをしてしまうので、今日は近づいてこないし。 ぼこぼこにへこんだロッカーを見たらゴリに怒られそうだが、気にしていられない。 顔が、頬が熱い。 なぜ? なぜだ? わけがわからん。 だいたい。 流川というやつは。 いつも眠そうにして、というか寝てる。 あまりしゃべらないが、話せばこの天才をバカにしてくるし、あほうとかいうし、だから頭にくるし。 カッコつけやがって。 バスケ馬鹿で。 でも、この天才の次にうまくて。 なにより、晴子さんが好きな相手で、だから・・・ 突っかかっていっている自覚はある。八つ当たりしている自覚も、ちょっとある。 流川には負けたくないと思っている。 絶対負けられない。 練習中だって、罵り合い、言い合い。口げんかでは済まず、殴る。蹴るなんて当たり前だ。 つかみ合ってにらみ合う。 喧嘩になって、ゴリにいい加減にしろと怒鳴られることも、共に彩子さんに叱られながら手当てを受けることになることも日常茶飯事だ。 嫌われてはいても、流川に好かれているとは思えなかった。 そう。 ない。 好かれる要素がない。 あのキツネはいつもバカにしたようにため息をつきながら、こちらを見ていて・・・ 「・・・・んんん??」 見てる? そうだ、見ている。 部活の時、終わった後。休憩中。 ふと、視線を感じると、流川がこちらを見て、いた。 ・・・なんで? 「まさか!!!」 まさか! まさか、な。 そんなわけがあるか。 俺をバカにするためにみていただけだ、きっと。 昨日のは、きっとタチの悪い悪戯というか。 そうだ、きっと。 そうに決まっている。 そう考えたら、悩んでいたことが妙に腹立たしく感じられてきた。 「おー花道、早いな」 「どわああぁぁぁぁl」 いつの間にか部室のドアが開かれていたらしい。 突然、名前を呼ばれて、思わず飛び上がった。 「な、なんだよ?」 俺の声に驚いたらしい。 リョーちんがちょっと引き気味にドアノブを持ったまま固まっている。 「や、や、や、や、ななななんでもない」 「めちゃくちゃどもってんじゃねぇか、何してたんだ?」 「何もしてない!何もない!ないないない!」 一緒に来たらしい、安とメガネくんも首をかしげていたが、これ以上聞かれないようにと背中を向けていたら、それ以上は聞いてこなかった。 服を脱いでさっさと着替えると、バッシュを取り出す。 さっさと体育館へ向かおう。 バスケをしよう。 うん。バスケに集中しよう。 「おぉ、流川」 メガネくんの呼んだ名前に肩がビクリと跳ねたが、入り口をふり向けず固まった。 「うす」 かすかに聞こえた静かな返事を拾おうと耳が大きくなっているのがわかる。 今、きっと頬は赤いだろう。 熱い。 熱すぎる。 それというのも、これというのも。 だああああぁ! 流川! 貴様のせいで、どうしてくれる! 怒鳴りつけてやろうと振り向いたら流川が着替え終わったところで、流川以外、リョーちんたちはいなかった。 い、いつの間に??! 「・・・」 何も言わず、静かに見つめてくるその瞳に、喉まで出かかっていた文句が何も出てこない。 「や、あの・・・」 ついさっきまで頭の中で息巻いていた言葉は一つも言葉にならなかった。 頭の中に渦巻く言葉はかたちになってくれない。 二人になる覚悟など、まだなかった。 心臓がうるさい。 ロッカーを閉めた流川がこちらを見たまま、目の前で止まる。 同じ高さにある瞳に映る感情は、なんだかわからなかった。 昨日も同じような表情をして、俺の服を握りしめていた。 何が言いたいんだ? 何を思ってんだ? グイッと押されて、ぶつかったロッカーの冷たさも気にならない。 はねのけることもできず、ただ流川の瞳から目が離せない。 隙間なく重なったところから流川の体温が伝わってくる。 うるさい。 うるさい。 心臓。 だまれ。 なにも聞こえねぇじゃねぇか。 「好きだ」 耳元で告げられた思いは熱すぎて、心臓が止まってしまいそうだった。 うふふ、とっっっても楽しいです。 2019/07/14 |