午後。第1体育館の東コート。
「これに勝てばBブロック決勝戦ね」
がんばってと渋沢に向かって言うと近藤が怒った。
「、俺ならともかく、敵の応援するなよな〜」
「あら、だって仕方ないじゃない。近藤が渋沢に勝てるなんて思えないし」
昨日の渋沢のプレー見てるとね。男の子って女の子より全般的に運動できるけど、もし渋沢が女の子だったとしても活躍できてそう。
なんてバカなことを頭の片隅で思ったのはホンの一瞬。
絶対に勝ってやる！と言っている近藤に私は笑い、渋沢は苦笑いした。
まもなく。主審の笛の合図で試合が始まった。
ジャンプボールが高く上がる。パシッといい音がしてボールを取ったのは7組のほうだった。
だけどそれをすぐに近藤がカットしてそのままドリブルシュート。
お、ウチのクラス（特に近藤）も頑張るじゃない。
もしかしたら勝てるかな？なんて考えていたら微かな足音。
「あぁ、やっぱ試合始まっちまってたか」
グランドからここまで走ってきたのか、三上の息が多少上がってる。
「遅い！‥って言っても今始まったばかりだよ。そっちはどうだった？」
いつもの笑みで決まってるだろ？と言われて私も笑ってしまった。
「試合はどうだ‥って近藤のやつ、随分気合い入ってねぇか？」
あんなにとばして最後までもつのかよという三上に私はあさってのほうを見た。
少しだけ嗾けちゃったけど、私のせいじゃないわよね。乗った近藤が悪いんだし。
でもこれで負けたら何か言われそうだなぁと思っていたところにグッドタイミングで試合の呼び出しがかかった。
試合が見れない残念さを抱えながら私はさっさと第2体育館を目指した。
4組との試合を接戦の末、無事に勝利し、アイスでも買いにいこうと言った瑞穂の誘いをやんわりと断った。
理由はなんとなくなんだけど瑞穂は何故か意味深な笑みを浮かべていた。
私、なんか誤解されてるよね。
それはわかるんだけど何に対してなのかわからないから解きたくても解きようがない。聞いても笑ってるだけで教えてくれないし。
ま、放っておけばそのうち誤解も解けて消えるよね。
「‥さてと」
ウチのクラスで次に入ってる試合は……卓球か。
第2体育館から卓球場へ行く道は3通り。
校舎の中をグルリと回って行くか、正面玄関のほうに回って行くか、このまま南庭を突っ切っていくか。
言うまでもなく、わざわざ遠回りするなんて面倒だから南庭を突っ切っていこうと思った。
その途中。ふと見たらベンチが空いているのを発見。
「う〜ん‥」
ちょっとだけ休もうかな。もう試合も審判もないし、後は終了時刻までずっとクラスの応援。
試合開始までにはまだ時間があるはずだし。
そう思って本当にちょっとだけのつもりで座ったら睡眠不足（？）な上、試合とか動き回ったせいで必要以上に体が疲れてて‥
「なんか、ねむ…」
瞼が重い‥。
「……………だ……」
近くで何かが聞こえる。
なんだろう。音？
「…そ………この………」
違う。誰かの声。誰の声？
「…だから………だと言って………」
「……渋沢、何やってんの？」
っていうか、なんで私は渋沢を見上げてるワケ？
最初は寝惚けていたけれど、だんだん頭がはっきりしてくれば嫌でも今の自分の状態が把握できてしまう。
私は悲鳴も叫び声も上げず飛び起きた。
「な、な、何で渋沢がここにいるのよ！」
「いや、のところに行こうとしたらはここで寝ていたから」
「‥起こしてくれればいいじゃない」
なんでそのまま寝かせておくのよ。あー恥ずかしい‥///
「みつけたときはそのつもりだったんだが、熟睡してるみたいだったから起こしたら悪いかと思ってな」
起こさないほうが100倍悪いわよと心の中で悪態をつく。口には出さない。
私を見ている渋沢が笑っているのがわかるから。
もう‥と溜め息混じりにこぼしてからハッと考えた。
‥あれ？そういえば最初は私、座ってたよね？いつの間に横になったんだろ？
「…………………」
まさかと思いながら渋沢を見ると、渋沢は私を見ながらにっこりと効果音がつくくらい微笑んでいた。
「…………………」
「、顔が赤いぞ」
「う、うるさいわね！」
言われなくてもわかるわよ。顔全体がすごく熱いもの。
私は渋沢に見られないように顔を背けた。
‥とにかく。とにかくなんか話をそらさないと恥ずかしすぎて死んじゃいそう。
「い、今って何時？」
「さぁ、わからないが‥」
渋沢は私の行動がおかしいらしく、大笑い‥とまではいかないけど、かなり苦しそうに笑っていた。
「あーもう、お願いだから笑わないで」
頭を抱え、顔を隠してお願いした。笑いを堪えられると恥ずかしさが増幅する。
あーメチャクチャ恥ずかしい。
「スマンスマン。じゃ、とりあえず正面玄関に行こうか」
渋沢は苦しそうに笑いをこらえながら私を促した。
「そういえば、渋沢。さっきなんて言ってたの？」
渋沢の言ったとおりに正面玄関に向かう途中、忘れていたことをふっと思い出して私は聞いた。
笑わないでって私から言っておいて聞くのはな〜と思ったけど、思い出したら気になり始めちゃったから。渋沢の声だったと思うし。
「ん？さっきっていつのことだ？」
「私が、その‥‥寝ていたとき。近くで何か聞こえたのよ。渋沢、何か言ってたでしょ？」
渋沢の声だけじゃなくて誰か他の人の声も聞こえたような。会話ともとれなくなかった気がするんだけど。
「俺は何も言ってないよ。夢じゃないか？」
「えぇ？そうかなぁ？」
たしかに渋沢の声だったと思うんだけどなぁ。
「それか、の寝言とか」
渋沢の言葉に私は文字通り固まる。
「‥‥‥ねぇ。私、何か変なこと言ってたの？」
「さぁ？どうだろうな」
「しぶさわ〜」
足を止めない渋沢の背中に泣きが入った声をかけたけど、渋沢はハハハと笑っているだけで教えてくれなかった。
「‥‥もう」
なんだか、結局わからないままだ。夢の途中で聞こえたあれはなんだったんだろう。
これは私の勘だけど、本当になんとなくなんだけど思うんだ。
私がさっき言ったことは合ってたんじゃないかって。渋沢は誰かと話していて、その内容を私に知られたくないだけなんじゃないかって。
うん。いま考えて改めて思う。なんか間違いない気がしてくる。
聞きたいけれど、今だけは誤魔化されてあげるよ。
渋沢が笑わないでくれたからおかえしにね。
「ちょっと、渋沢待ってよ」
や、やっと二日目が終わった。
どうしてこの話を書き始めたのか。理由を忘れていた私はバカです
2002/06/30