『そういうは現状で満足できてるワケ?』













「おい。おい、!!」
ちょっとボーっとしていたらしい。
とつぜん声をかけられて、とっさに反応ができなかった。
「え?あ、なに?三上」
「なにって試合終わったぜ。記録とるんだろ?」
なにボケてんだよと笑われた。
うそ、いつの間に。終了の笛、鳴ったっけ?
なんて考えて、慌ててスコアを書き写した。
「お前な、引き受けたんならちゃんとやれよ」
「三上が引き受けさせたんでしょうが」
私は知らん顔してたのにさ。
「その1年は無理だった。お前は暇で渋沢の試合を見に来ていた。体育委員なら引き受けるのが普通だろ?」
「…………………」
いちいち正論だからムカつくわ。
そうね。普通は自主的に引き受けなきゃいけないでしょうね。
でも、物事をホイホイと引き受けられるほど、私はできた人間じゃないのよ。
三上だって自分のときは知らん顔してるくせに。
「さて、コイツを本部まで持っていかなきゃ」
また面倒だなと愚痴りながら頭を掻いて、フッと目がいったのは体育館の反対側。
認めたのは渋沢との姿。
私、視力はそんなに良くないんだけど、がいつもより少し頬を赤く染めて渋沢と話しているのがわかる。
もちろん、この位置からじゃ二人がなにを話しているかなんて聞こえないからわからない。
でもそれ以上にわからないこと。












…なんで?












今までにだって何度か見たことある光景なのに。ただ二人で話しているのを見ているだけなのに。
妙に、必要以上に心が波立っているのが自分でもわかる。
不安でも怒りでもない。正体不明の謎の感情。 その答えが出る前に、答えを出す前に私は固まった。
だってが渋沢の耳もとで何かを囁いて渋沢がそれに頷いて。二人がまるでスローモーションのようにゆっくりと歩き出す。
とりたてていうほどのことでもないのに。





「………………っ!」





その光景から感じたものがあって。それに名前をつけるとしたらたった一つで。
それは一瞬とも永遠ともいえる心の変化。
肌にまで感じた強さに思わず鳥肌が立った。










「バーカ」
三上の楽しそうな笑みに、私はわかっていながら聞いてしまった。
「……三上、アンタ、もしかして気づいてた?」
今さら確認するまでもないと自分でも思う。
だって、三上のこの顔見れば一目瞭然なんだから。
「まーな。それにしても随分遅いんじゃねぇか?お前らしくもなく」
三上の言葉に、かもねと苦笑いを含む笑いを返す。
ホント、バカみたいよね。少し考えれば分かったはずのことなのに。
もしかしたら心のどこかで認めたくなかったのかもしれない。この想いを。
「おいおい。いつまでボーっとしてんだよ」
行かねぇのかと渋沢たちがいなくなった方向を指差されて、私は首を振った。
「このままでいいのか?よくねぇだろ?行ってこいよ」
「行けないよ」
今さらだもの。
が渋沢を好きだったのは………………………知ってた。気づいてた。
きっと今、渋沢に自分の気持ちを伝えにいったんだと思う。
邪魔できない。しちゃいけない。
それは遠慮とか、そんなものじゃなくて。
「コレ、出してこなきゃいけないしね」
急がないと表彰式に間に合わなくなっちゃうし、委員長に怒られる。
なんて、きっと言い訳でしかないんだろうけど。
「俺が出してきてやる」
三上は私の手の中にあったスコア表を奪い取ると、再び指差した。
「三上?」
「いいから行けって」
私はそれ以上なにも言えなかった。
まっすぐみつめてきた三上の瞳の奥にみつけた言葉もたった一つだったから。
優しすぎる言葉に背中を押してもらって、私は走り出した。





迷いもせずにただ一人の場所を目指して。

















長く続いてきた連載ですが、次で終わりですので、もう少しお付き合いくださいね

2002/07/16



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