たった一言でいいから 伝えて欲しいの














はぁ‥と溜め息が漏れたことすら気づかずに。
渋沢はただ黙々と机に向かって仕事を熟していた。
「こっちのプリントは明日が締めきりだったよな?で、こっちが‥」
自分の中の記憶と確認しながら期限が近い順に終わらせていく。
計算が間違っていないか確認してから渡さないといけないのだが、これではできない可能性のほうが高い。
元から仕事がよく回ってくるポジションにいるが、ここまでたてこんだのは初めてだった。
本当なら計算が得意な三上に手伝ってもらいたいところなのだが、こんなときに限って三上はいない。
どこにいったのか渋沢は知らないが、おそらく藤代か中西の部屋でゲームでもしてるんだろう。
このままじゃ明日の予習どころか、今日の復習もできないかも‥
渋沢の口から何度目かのため息が漏れそうになったとき、コンコンと遠慮がちなノックの音が聞こえた。
問題は音が聞こえたのがドアのほうじゃなく、窓のほうからだということか。
こんな時間に誰かとカーテンを開けると、外にいたのは渋沢の彼女のだった。
「こんばんわ。こんな遅くにごめんね。ちょっと教えてほしいところがあるんだけどいいかな?」
「あぁ、かまわないよ」
ノートを片手にすまなそうに言うに少し驚いたが、渋沢はすぐに笑顔でどうぞと部屋の中に招き入れた。
何かいれるなと言った渋沢にはゴメンネと返した。



しばらくして。渋沢が紅茶をいれて戻ってくると、は熱心に机の上のプリントを見ていた。
。間違っているところ、あったか?」
計算が苦手というわけではないが、渋沢だって人間なのだから間違っているところがあるかもしれない。
ちなみには数学が‥というか計算が大の苦手である。
「‥克朗くん、これってもしかして明日提出なの?」
ありがとうというと、は何枚かのプリントを指差した。
「あぁ、そうなんだ。ギリギリまで残しておくつもりはなかったんだが、なかなかやる時間がとれなくてな」
結局今日やることになってしまったんだと渋沢は苦笑いした。
「克朗くん、なんか顔色よくないよ。大丈夫?」
ちょっといいと言って屈んだ渋沢の額に手を当てる。
ひんやりとしたの手が心地好くて、渋沢は自然と目を伏せた。
「う〜ん。熱はないみたいだけど‥」
少し休んだほうがいいよとが言おうとしたとき、ノックもなくドアが開いた。
「お、なんだよ。お邪魔だったか?」
茶化すように笑いながら部屋に戻ってきた三上に、はいいタイミングだと思って目を光らせた。
そして机の上のプリントをジーっとみつめると、渋沢にもめったに見せたことのない満面の笑みを三上に向けた。



「亮、ちょっときて」
かるく手招きしながら三上を呼ぶ。その笑みを怪しみながらも三上はが言うとおりに動いた。
この時、幼馴染みである三上に嫌な予感を感じ取らせなかったはかなり演技派なのだろう。
「あのさ、亮の両手ちょっと見せてくれない?」
は?何するんだ?と聞きながら三上は両手を差し出した。
渋沢もが何をしたいのかわからなかったので黙っての行動を見ていた。
「ここ、縦に計算して。こっちも同じ。ここに出てくる数字とここの数字が必ず同じになるようにしてね」
「は?」
「まあ、亮の場合心配いらないと思うけど、奇麗な字で書いてね。人に提出するものだから」
「お、おい‥」
「亮は理数系得意でしょ?大変なら誰かに手伝ってもらってね。はい、お願い」
小悪魔のような笑顔とともに山のようなプリントを三上に押しつけると、ポイっと三上を廊下に放り出した。
「ちなみに明日が期限らしいから頑張って。じゃあ」
あまりの手際のよさに渋沢と三上は言葉なく茫然。
ドアが閉められ、ハッと自分の身に起こったことを理解した三上が
ドアの向こうで喚いたが、は鍵をかけて当然のように知らん顔をした。
そしてフゥと一息吐くと、ベッドの近くに座って寄りかかり、渋沢に向かってちょいちょいと手招きした。
?」
「いいからここに座って」
さっき三上に見せたのとは違う笑みを浮かべては自分の隣をかるく叩いた。
よくわからないが(たぶん)悪いことはないだろうと思い、渋沢はがいうとおり隣に座った。
「頭、貸して」
三上は手で自分は頭?言われた意味がわからなくて渋沢は首を傾げた。
「こうするの。右手は邪魔になるからこっち。足は伸ばして」
促されるまま体勢を崩していくと、それは膝枕というやつで‥
?」
顔には出さなかったが、渋沢は内心かなり動揺していた。
そんな渋沢の胸中など知らないは渋沢の頭をそっと撫でた。
「克朗くん。疲れたときは疲れたっていってよ」
渋沢が目を見開いたことに気づかないかのように、は手を止めずにそのまま頭を撫でた。
「我慢する必要なんかないからちゃんと言って。克朗くんにはいくらでも手を貸してくれる人がいるんだから」
ね、と優しい声で言われて渋沢は心が温かくなるのを感じた。
そしてこれが嬉しいということなんだなと改めて思った。
「ありがとう、
夢の中に落ちるときに聞こえたのは渋沢が一番好きな声。
「お休みなさい、克朗くん」

















渋キャプに膝枕をしてあげようドリ。消えてしまったショックを消すため、まずはほのぼのと。

2002/06/18



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