入れ違いにはなっていなかった。
何をやってるかなんて聞かなくても一目瞭然。あれは間違いなく‥
「寝てる?」
呟いた後、慌てて口を押さえた。聞こえるのは静かな寝息。
はぁ‥と安著の溜め息を吐き、渋沢が伏している机に近づいた。
ゆっくり規則正しく上下する肩。こうやって寝てれば大人っぽい渋沢も年相応に見える。
周りからどんなにすごいプレイヤーと言われててもやっぱりまだ中学生なんだよね。
そんな当たり前のことをしみじみ感じながら渋沢の寝顔を見つめる。
うーん。どうしよう。起きてもらわないと困るけど、起こしたら悪いかな。
なんて思ってたら睫が微かに揺れた。
なんとなく意識が浮上をしてきてるのが感じとれる。
起きたかな?
「渋沢♪おはよう」
?‥あれ?俺、もしかして寝てたのか?」
「うん。スヤスヤと。でも、そんなに時間経ってないと思うよ」
私がここを出て戻ってくるまでだもん。
「疲れてるんじゃないの?」
「いや、そんなことはないと思うんだが」
私は疲れてなきゃ寝ちゃうなんてことないと思うけど?
「あのさ、前から思ってたんだけど、渋沢って馬鹿でしょ?」
、馬鹿というのはひどくないか?」
私のキッパリした口調に渋沢は苦笑いを浮かべた。
疑問符がついている意味がないみたいだ。
「だってそうじゃない」
当てはまってるのは渋沢だけじゃないけどさと人指し指を立てて続けた。
「渋沢は特にだよ。サッカー好きなのはわかるけど、限度をわきまえなきゃ」
「俺は限度をわきまえてるつもりだが?」
「さっきまで寝てた人にそんなこと言われても説得力ないよ」
私の言葉に渋沢は確かにそうだなと笑った。
「もう!笑いごとじゃないってば。そのうち倒れちゃったりとかしたらどうするの!」
本気で心配してるんだからと言うと、渋沢は今度は苦笑いではなく微笑んだ。
「大丈夫だよ。そこまではいかないから。それに、たとえ無茶苦茶でもサッカーをしたい」
強い意思を含んだ言葉。
それは自分にではなくどこか遠いところに向かって言っているように感じていた。
その表情は私には眩しくて、思わず目を細めた。
何かに対して自分のすべてをかけられる。
そんな渋沢が羨ましくて仕方なかった。
渋沢だけじゃない。三上も藤代も笠井も。
自分にはそこまでかけられるものがないから。









?どうかしたか?」
「ごめん、渋沢。私、変だわ」
自分でも変だとわかる。
いつもの私ならこんなこと絶対思わないし、というか思ったことなかったし、たとえ思ったとしても言わなかったと思う。
「触ってもいい?」
渋沢に触れてみたいと思った。
他の人から見たらこんなこと思った私って変態なのかもしれないけど、でも疚しいこととか一切なしでただ純粋に渋沢に触れてみたかった。
渋沢は驚いたように目を見開くと、優しく微笑んで目を閉じた。
それを肯定と受け取ってよかったのか、わからなかった。





ゆっくりと渋沢に向かって手を伸ばす。
もう少しで指先が触れるというところで渋沢の目がパチっと開いたので反射的にそこで手を止めた。
渋沢は私を見上げたまま口では何も言わなかった。
アイコンタクト。
そんなものが実際にあるならば、このとき私たちが使ったのはまさにそれだったと思う。
「俺も触れたい」
渋沢の目は確かにそう言っていた。
「いいよ」
そう答える代わりにさっきの渋沢同様、私は目を閉じた。
渋沢の腕の中は温かくて大きくて。とても安心できた。









こんなの、らしくない。らしくないよ。
渋沢も私も。
いつも一緒に笑って、男とか女とかそんなの関係なくて。
さっきまでだってそうだったのに、今、抱きしめ合ってるなんて。
しかもこのまま、時間が止まって欲しいと思ってるなんて‥
























2002/05/02





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