だって他の人から見たら別になんでもない光景で
どうしてその時だったのか自分でもわからない
もしかしたら‥
キャーキャーと黄色い声があちこちから聞こえる。まるで学校中から聞こえているかのよう。
もちろんそんなわけはないとわかっているけど、そんな錯覚に陥りそうなくらい騒がしい。
‥騒がしいというと聞こえが悪いから盛り上がっているに訂正する。
この異常なほどの盛り上がりを一身に受けている人物は苦笑いを浮かべ、黄色い声の根源のほうに向かって手を上げかけた。
「……渋沢、アンタって馬鹿?」
言うより先にその手を掴んで下ろさせた。
「何がだ?」
「手なんか振ったら逆効果ってこと」
もしかしてワザとやってるの?
そんなことをしたら余計にうるさくなるに決まってるじゃない。
だって女の子ってバカがつくくらい単純だから。‥そういう私も女なんだけど。
「しかし、せっかく声援を送ってくれているんだから答えるべきだろう?」
「それなら競技の結果で答えればいいでしょう?」
我ながら素っ気無いと思う声でもう試合が始まるわと言って私はコートから出た。
今日はクラスマッチ。
男子はサッカー、バスケ、ドッジボール。女子はテニス、バドミントン、卓球。
それぞれの競技の1位を競い合い、総合1位を決める。
賞状だけだったらみんな適当なんだろうけど、総合1位のところには金一封と賞品が出されるからみんな燃えるってわけ。
ルールはだいたいみんなが知っているとおりだけど、それぞれの競技の部活に所属している者はその競技に出られないというのがある。
どうしても力の差が出てしまうからね。渋沢はサッカー部だから当然サッカーは選択できない。
名ゴールキーパーって言われてるんだから素人がやって得点できるわけがない。=他のクラス(特に1年生)に優勝の望みが薄くなる。
他の人の強い希望で(特に女子)渋沢は身長が高さを生かせるバスケをとったらしい。
私は渋沢とクラスが違うからしっかりとはわからない。
「おい。なに、ボーっと突っ立ってんだよ」
「三上、アンタってバスケだっけ?」
ドッジだったと思ったんだけど、私の記憶違いかしら?
「違ぇよ。俺はまだ試合にならねえから見にきただけ。お前は?」
「私は体育委員だもの」
最後の確認みたいなものよと言って行こうとしたら三上に腕を掴まれた。
口には出さずに何?と聞くと、三上は見透かしたような笑みを浮かべていた。
「どうせ人数か何かの報告にいくんだろ?終わったらここに戻ってこいよ」
「は?なんでよ?ウチのクラスはまだバスケの試合ないでしょ?」
私の記憶が正しければ3組の試合は第3試合なんだから。
「お前、すぐに試合あんの?」
「ないけど。私、第2試合だし」
「じゃあ、いいじゃん。来いよ」
何がじゃあなのかわからない。
追求したかったけど報告は早く行かなければならないから。
なんとなく後ろ髪ひかれる思いで私は体育館を後にした。
「あーあ、結局言われたとおりに動いてるし」
溜め息混じりに呟きながら私は体育館に戻ってきた。
というのも本部前でクラス違いの友達、にあってしまったから。 に何か応援したい競技ある?と訊かれたとき、別にないけどなんてバカ正直に答えてしまったせいで体育館に逆戻りすることになってしまった。
一応口論‥というか、反論はしてみたんだけどね。見事に負けて逆に言いくるめられてしまった。
は渋沢と同じクラスだから応援にくるのは自然なこと。
私もいつもなら気にせずに付き添うけど、三上との会話の手前、戻ってくるのは気がひけた。
さて、どこにいるだろうと見回すと、角のほうに座っている三上の姿をとらえた。
応援っていうより観戦って感じね。
「よぉ。いろいろと言ってたわりには素直に来たじゃん」
「別に。が応援したいって言うから来ただけよ」
自分でも言い訳がましいかなと思いながら答えると、ふーんと言って三上はムカつく笑みを浮かべた。
「それで?試合はどっちが勝ってるの?」
「当然、3の1」
渋沢がさっきスリーポイントいれたぜと三上は教えてくれた。
「へぇ、さすが渋沢。バスケでも大活躍ってワケね」
「あいつはオールマイティに何でもできる奴だからな」
「あら、三上だってそうじゃない」
がんばって優勝取ってきてよと言うとお前もなと返された。
「私はどうかなぁ。とりあえず最初の試合は負ける気ないけど」
さすがに1年に負けたら悔しいしねと付け足した。
「はバドミントンだっけ?だってお前強いって聞いたぜ」
「強くなんかないって。私、経験者でもないしさ」
そのときワーッと歓声が沸いた。
見ると渋沢がドリブルしてゴールに切り込んでいくところだった。
スピードにのったままのドリブルシュート。ゴールの上に置いてこられたボールはクルクルと回って、吸い込まれるように入った。
「渋沢、やっぱり上手いね」
サッカーだけじゃなくてバスケでも十分やっていけるんじゃない?
そう思ったらピピーッと笛の音が響いた。前半終了の合図だ。
応援していた女子が拍手しながら駆け寄っていく。もちろんその中にはの姿もあった。
隣に座っていた三上が立ち上がったので、私も併せて立ち上がった。
「あれ?三上、」
見にきてたのかと聞く渋沢に私は頷いた。
「渋沢、ナイスプレーじゃん」
お世辞が言いたいわけじゃないけど、だって他にいいようがない。
声援に答えるなら結果で。
私がいったことを本当にやってのけたのだから。
「どうやら俺たちのクラスと当たるのはお前のところみたいだな」
三上がニヤリと楽しそうに笑った。
私たちのクラスは第1試合で勝ったほうと第3試合で勝ったほうと当たる。
もちろん次の第2試合でウチが2-4に勝って、その次も勝って準決勝まで上がればの話だけど。
そして勝ったほうがBブロックの決勝に勝ち上がれる。少なくともそこまで上がらないと全体の決勝リーグに出られない。
「まだ前半が終わっただけだ。まだわからないだろう」
「バーカ。これだけ点数差つけておいて何言ってんだよ」
4対19。差は15。まだ前半だけなのにあまりにも点数差がありすぎる。
少なくともこの試合は3-1の勝ちで決まりだろうと私も思った。
「お前、1年のボールをことごとくカットしてんだもんな」
マジ優勝できんじゃねえのという三上に渋沢は苦笑いして首を振った。
「たとえこの試合に勝って勝ち上がったとしても次で5組と当たるんだし、何より同じブロックに3組がいるんじゃ優勝は無理だよ」
確かに去年はウチのクラスが3年をものともしない圧倒的な強さで優勝を勝ち取った。
「去年はそうだったけど、今年はわからないわよ」
去年は三上と辰巳くんがいたから優勝したようなものだった。しかし今年は三上も辰巳くんも違う競技だ。
「あっ、でも今年は近藤がいるか。近藤ってバスケうまい?」
近藤がバスケしているところなんて見たことがない。サッカーならあるけど。
「まぁまぁ。下手じゃねえと思うぜ」
「あ、いたいた。〜」
名前を呼ばれたのに気がついて振り返ると、たった今噂をしていた近藤が走ってきた。
「、が探してたぜ。試合の前に練習しようだって」
わかったと返事を返して、体育館の出口を向いて歩き出したら、すぐ三上が声をかけてきた。
「おい、」
なに?と聞いたら三上は親指を立てて自分を指差した。
「これ終わったら応援にいってやる。絶対に勝てよ」
「言ったでしょ。負ける気はないよ」
我ながら自信たっぷりだなと思いながら微笑んで、私は体育館を出た。
すごく説明がわかりにくくてごめんなさい。図にすれば分かり易いとは思うんですけど‥
2002/05/30